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前々サイトに載せてたものや古いもの、SSログなど

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Novel

ポケモン

  • 2年の月日を飛び越えて(ヒビキ)

     ――あともう少しだ。先をゆく背中を見つめながら、ヒビキは深くうなずいた。 想いを寄せる彼女は自分より10cmほど背が高くて、2つの年の差があるとはいえど見上げ見下げられの関係というのは男としてひどく情けないものである。彼女に言えばきっと「…

  • おはよっ!(ビオラ)

     ……ずしり。 体にかかる不自然な重みに、あたしは少しの窮屈さと安心感を覚えて目を覚ます。彼が――さんが泊まりに来たときはいつもこう。時には背中から、またある時には正面から、あたしは毎度毎度抱き枕にされている。 ま……まぁ、いわゆるそういう…

  • 縦と横とがまじわる先で(ビオラ)

    「いらっしゃい、ビオラちゃん。そろそろ家までの道で迷うことはなくなったかな?」 小気味よく鳴るチャイムの音で胸が躍るようになったのは、一体いつからだったろう。 俺がちょっとした軽口を叩けば、目線より少し下にある顔はすぐにふくれっ面になって、…

  • ちいさなせなか(シトロン)

    「シトロンくん! 今ちょっといいかい? エレザードの育成についてなんだが――」「いたいた、おーい! ジムリーダー、今日こそバトルしてくれよー!」「ごめんねシトロンちゃん、実はうちの店の冷蔵庫がおかしくなっちゃって――」 もはや雑音にも等しい…

  • ダイゴの花が咲く(ダイゴ)

    「……ふあぁ」 ――眠たいなあ。 眠気になんとか抗おうとするわたしは、モンスターボールのひとつやふたつまるっと入りそうな大口を開けて、まぬけなあくびをひとつした。 食後の心地よい満腹感はわたしに穏やかなまどろみを連れてくる。今にも夢の世界へ…

  • 王子は今夜も跪かない(ククイ)

    「ククイ博士、わたし、チャンピオンになりたいです」 アローラ地方1番道路、ハウオリシティはずれにて。ククイ博士の住まうポケモン研究所の玄関先で、わたしは今日も決まった文句を口にする。  それはもはや戯れにも等しかった。もう耳にタコが出来ると…

  • 矛盾の、「矛」(カキ)

     ――そんな不純な動機で島めぐりをするもんじゃないと、この気持ちを知った人にわたしはそうして嘲られるのだろうな。 それでもなんとなく、否、それすら受け入れてしまう気がするのだ、わたしは。アローラ地方はアーカラ島の空へ高く突き刺さるヴェラ火山…

  • 無題(フラダリ)

     立ち止まるわけにはいかなかった。終わりなんて呆気ないものを、こんなにも簡単に迎えてはいけない。自分には役目があった。彼から預かったドンカラスを返す。彼にみたびの「希望」を見せる。自分の掴んだそれを渡す。絶望に沈む彼が、せめて心を安らかに出…

  • 9609(レッド)

    「……いいと思う」 アローラに発つ直前のことだ。ひどく無口なレッドさんが、出し抜けに発したひと言。それは、遠い南国に向けての服装選びに頭を悩ませていたわたしに対して投げかけられたものだった。「え、えっと、それは――」 くるりと振り返るわたし…

  • ふたりのみどり(グリーン)

     ――あんな石ころひとつで。 日曜の夜、暇を見つけたグリーンはタマムシデパートへと足を運んでいた。理由は気分転換が5割、姉から仰せつかった用事が3割、そして残りの2割は、とある少女を思い浮かべてのことだった。 先日グリーンバッジを明け渡した…

  • そんなふうに鳴いたって(レッド/グリーン)

    「を見てると、色んなことがしたくなるんだ。が『してほしい』と思うことも、ぼくがぼくのためにやりたいと思うことも、本当に、何でも。触れたい、キスしたい、抱きしめたい、隣にいたい。の全部をぼくだけが占められたらいいのにって、いっつも、ずうっと、…

  • はたちをこえて(グリーン)

    「ほ~れ、キスしてやんよ」 揶揄するようなグリーンの声とともに、指先が唇から離れる。弾けるようなその所作はカロス仕込みというかなんというか、彼の整ったルックスもあって非常に絵になる――のだけれど。「やっだぁ、グリーンさんの投げキッス! これ…

  • ぼくたちのオーバーチュア(カキ)

     おれはこの荒野さながらなオハナタウンで生まれた。 ブーバーたちほのおポケモンに囲まれて育ったおれがほのおポケモンを好きになるのはごく当たり前のことだと思うし、ガラガラと馴染みある生活を送っていたこともあってそこからファイヤーダンスに興味が…

  • ひびけエスプレッシヴォ(カキ)

     あたしのお母さんは海の上で生まれた。 そのことに何か不満を抱いていた様子はなく、むしろこの海の雄大さを知らないなんて、と陸の人を下に見ていた節もあったらしい。海に生まれ、海と生きる、海と添い遂げ海に還る、そんな一生を歩むのだと漠然と思って…

  • たぐるラプソディ(カキ)

     どれほど歌い続けたのだろう。体はどんどんと火照り、気分が高揚していくのがわかる。もっと、ずっと、何度でも歌える、そんな錯覚を抱くほどにあたしの心身は高ぶっていた。 目の前にいるのは先ほどのケンタロスとミルタンクの夫婦だけではなく、あたしの…

  • しのびよるノクターン(カキ)

    「――いっけぇ、オシャマリ! “アクアジェット”!」「かわせ――ッいや、“ホネブーメラン”で軌道を逸らすんだ!」 大きく飛び跳ねたオシャマリが、全身に水の鎧をまとってカラカラへと突撃する。夕日のオレンジを身にまとい空高く飛び上がるオシャマリ…

  • よるのアマレッツァ(カキ)

    ※ちょっと不健全 ---  ――ひたり、ひたり。 暗がりのなか、ずっと背後につきまとうそれにぞくりと背筋が粟立った。忍ぶような気配は決して優しいものじゃない。明るく友好的なものでもない。じっくり、じんわり、のことをつけまわす、悪意や欲望に満…

  • かさなるエレジー(カキ)

    ※死ネタ注意 --- 「おっ! ちゃん、明日うちで歌ってくれない? お客さんがいっぱい入っててね、君の歌をご所望なんだ」「ヒッ――あ、は、はいっ……」「……どうしたの? 緊張してる?」「あ、いえ、っと、大丈夫です! えっと、また夕方。お話聞…

  • ささやくアモローソ(カキ)

    「カキは外国いっちゃうんだね」 ぺとん。背中にかかる重みはその質量を増した。おれの自室の片隅にて、へばりつくでも抱きつくでも背中合わせでもなく、恐らく横向きに寄り添わんとして張りついていることが伝わる声からなんとなくわかる。急にどうした、跳…

  • おちるヒュメン(カキ)

     朝。ごろりとベッドで寝返りを打つと、枕元のプリンがあたしの頭にぶつかって転げ落ちていった。 時計を見るとまだ6時にもならないくらいで、あたしは寝起きのあくびを噛み殺してシーツのなかへ潜り込む。水色のそれはあたしの一番のお気に入り。あたしは…

  • うたかたのアリア(カキ)

     は、笑わなくなった。 おれが好きだった笑顔はほぼなりを潜め、活動的で活発だった明朗さもどこへやら。おれたち家族も目を見開く健啖さは面影なく、1日を部屋のなかで過ごすばかりになっていた。 アシレーヌ、ラプラス、プリンはもちろん、おれのガラガ…

  • 学校帰り、夕日岸(カキ)

     ある日の夕暮れ、場所はポケモンスクールからほど近い海岸の片隅である。オレンジ色の夕日に照らされるキャモメたちが上空を飛び交い、静寂をかき消してはいれどそれは決して喧騒ではなく。穏やかで心地よい鳴き声をBGMに佇んでいたのは、それぞれ左手首…

  • まだ見ぬ君へ(カキ)

    「あのタマゴ、どんなポケモンが孵るんだろうね!」 今朝オーキド校長がリーリエに託した白いタマゴ。ラナキラマウンテンで発見されたらしいそれは、真っ白な表面にお花の模様が特徴である。触れるとほんのりあたたかく、話しかけると応えるように時おり小さ…

  • ナマコ武士(カキ)

    「んーーー、ぶぅ!」「ぶっし!」「ぶし? ぶしぶし! ぶぅぶぅ! ぶ――」「……何をやってるんだ?」 背後から聞こえてきた謎の二重奏に、カキは深くため息を吐きながら振り向いた。何をやっているのか、そう尋ねられたはぺかりと顔を輝かせながら笑う…

  • ひとりじめ(カキ)

    (……間抜けな顔だな) ふに、と柔らかくふくらんだ頬をつついてみる。目を覚ますような気配はない。起こすつもりは毛頭ないし都合がいいといえばそうなのだが、なんとなくつまらないような気もしてカキは眉間にしわを寄せる。 気を許しすぎているのもどう…

  • 無題(カキ)

    歌を歌おう、舞を踊ろう。2人にはそれで充分だ! 歌を奏でてステップを踏めば、そうして2人は満たされる。2人の世界が広がってゆく。2人はずっと信じていた。それが永遠に続くものだと、何もかもを繋いでゆけると、誰にも邪魔はされないと、明日も一緒に…

  • あなたのために(シトロン)

    「エレザード、そっちのネジ、とってくれるかな」 言われた通りの部品を手に戻ってくるエレザードをひとなで。一瞬ながらも柔らかく浮かべられた笑みは、しかしすぐにきらりと光るレンズの向こうに隠された。愛おしいパートナーへ向けていた視線を再び鉛の山…

  • あたたかい(シトロン)

    「た、誕生日プレゼントですか!?」 今日のご用事が終わったら、プリズムタワーへ来てください。渡したいものがあるんです――シトロンからの連絡を受け、光の速さで仕事を終わらせて駆けてきたを迎えたのは、どことなくそわついたシトロンと、彼から贈られ…

  • あなたとあたしのプロトム図鑑(シトロン)

    「おっじゃまっしまーす!」 ういん、とかすかな音を立てて開く自動ドア。ミアレジムの最奥部――この研究室の扉はパスコードを入力しないと開かない仕組みになっており、この場に足を踏み入れられる、それこそが他でもないシトロンくんの歓迎の証であるので…

  • ふたりの笑顔とにほんばれ(シトロン)

    ※数年後、同棲設定 ---  うずたかく積み上げられた、まっさらな洗濯物の山。近づけばふんわりと柔軟剤の香りがして、清潔感のあるそれになんだかこちらも胸の内が爽やかになる。もちろんそれは毎朝服に袖を通すときも同じで、いつもきっちり管理してく…

  • 泣いておくれよホトトギス(ダイゴ)

     、と名前を呼べば大げさにびくつく細い肩。暗がりのなか座り込んだの隣へ座りこみ、キャミソールゆえに露出した細くて白い二の腕に手を伸ばす。弾かれたようにボクを見るは、その目にいっぱいの涙を溜めて弱々しく笑っていた。 ――ボクは、ひどく胸を痛め…

  • きみのこえ(ダイゴ)

     ふと手に取ったのは携帯電話だった。暗がりのなか、画面のライトが目に刺さってひどく眩しい。目に痛いならやめればいいのになぜだか右手の親指はとまらず、ベッドの上に座り込み、背後の冷たい壁にもたれ、片手に収まる小さな端末を操作してとある名前を表…

  • 恋の盲目(ダイゴ)

    ※ちょっとすけべ ---  好きだ、そう言ったとしてこの子はそれを恋とは取らない。 それはある種の過ちである、そう、ボクが誤ってしまったのだ。何でもかんでも受け入れた、何でもかんでも許した、何でも認めて何でも愛して何でも抱いて何でも笑んだ、…

  • 刹那的な逃避行(ダイゴ)

    「――雨、ひっどいねえ」 トクサネシティで雨が降ることは珍しい。 宇宙開発センターが設置されているとおり、この街は晴れの日が多く風向きだって安定している、穏やかな気候を持つ場所であった。 ゆえに雨に関してあまり注意を払っていないというか、何…

  • きみとの朝(ダイゴ)

    「、今日はなんとなく嬉しそうだね」 こくり。かぐわしいカフェオレをひと口飲み下したあと、ダイゴくんが感慨深そうにつぶやく。私は分厚いレンズ越しにどこか力の抜けたようなダイゴくんの目を見ながら、唐突な言葉に彼と相違ないふ抜けた声で返した。「そ…

  • たとえばふたりが(ダイゴ)

    「ダイゴくんは、私がいなくても生きていけるんだろうねえ」 何があったわけではなかった。ただ本当に、何気なく、何の他意もなく呟かれたひと言であったように思う。現には特段へこんでいる様子もなく、相変わらずのんびりした調子で青い空を見上げている。…

  • 無題(ダイゴ)

    好きだと言える人ならよかった。それが信じられたらよかった。恋愛の横たわる関係でありたかった。十年前なら有り得たろうか。戻れたのなら取り戻せるのか。後悔ばかりが牙をむく。悲哀ばかりが萌えいづる。何度体を重ねても、何度言葉を紡げども、2人の仲は…

  • 手のひらの間に(ヒビキ)

     小さな庭の傍らに、うず高く盛り上がった土の山がある。 不格好な十字架の建てられたそれが何かの墓標であることも、その下にその「何か」が埋まっていることも。そして、おそらく幼い子どもが手ずから作り上げたものであることもひと目で理解できるほど、…

  • かがやく虹色(マツバ)

    ※ポケマスエピソードイベント「黄金色に輝く未来」ネタバレ注意  ---  きっと、心のどこかで触れることすら恐れ多いと思っていた。「いつか出会える」と信じながらも、否、だからこそ、今のぼくは手を伸ばせば簡単に届くそれを、積極的に求めることが…

  • こんなのってないよ!(ヒビキ)

     一瞬の出来事だった。些細なきっかけでヒビキの視界は驚異的な速度で移り変わり、やがて真っ暗闇へと変貌を遂げる。 目まぐるしい変化はヒビキから正常な判断力を奪い、たちまち脳内をフリーズさせた。(あ――え、あれ……?) ……端的に言えば転んだの…

A3!

  • そっと芽吹く(本編沿い)

    ※本編のセリフを引用している部分があります--- テレビ番組というものには、正直なところあまり馴染みがない。 昔からテレビを見るよりゲームをするのが多かったし、観るなら観るで深夜アニメか日曜日の朝にある特撮くらい。特に最近は自分が動画サイト…

  • 恵みの雨(本編沿い)

     ゲームとはまず楽しむもの――それがあたしの信条だった。 窮屈な日常において、大好きなゲームを逃避に使っていたことは認める。どうにもならない家族に囲まれて過ごす毎日なんて、息が詰まって仕方がないもの。どこにも逃げ場なんかない。助けてくれる人…

  • 心は歪み、根は腐る(本編沿い)

     懐かしい夢を見ていた。もう何年も昔の話だ。 生まれたばかりのあたしは体があまり強くなくて、東京の空気が合わなかったのもあり、しばらくのあいだ母方の実家で過ごしていた。田舎らしく不便ではあれど空気はすごくおいしくて、結局あたしは就学直前まで…

  • 天を仰ぐように(本編沿い)

     スマートフォンを手に取ってみる。指は自然とSNSのアイコンを辿り、ホーム画面を開かせた。タイムラインを追う元気はない。つぶやくだけなら、まあなんとか。 当たり障りのないつぶやきを数個落として、他人のつぶやきを見る間もなくすぐ閉じた。最近は…

  • きみはひかり(本編沿い)

    ※本編のセリフを引用している部分があります---『今日こそ、ロザラインを誘うんだ……』『この花をください。宛名にはロザライン――』 ――夢を見ているみたいだった。 入場開始直後に入った、どこか閑散とした劇場から一変。だんだんとお客さんが増え…

  • ひら、ひら、かくして(本編沿い)

     ――眠り姫みたいだと思った。 伏せられたまつ毛から影の落ちる頬は真っ白で、血色の悪さも相まって今にも消え入りそうだった。そろそろ馴染んできた寮の談話室で、座り慣れたソファのうえ、時おり魘されるように身を揺らす姿はどこか世俗的にも見えるが、…

  • とじておきたい眠り姫(本編沿い)

    ※軽くですが嘔吐描写があります。ご注意ください--- 6人で囲む食卓は思ったよりも盛り上がって、あっという間に時間が過ぎた。身長の低さにそぐわないの食欲に声を上げたのはシトロンさんで、そのことについてつついた直後、控えめな声で「おかわり」と…

  • きみのきざし(至)

    「そういえば、ちゃんって好きな人とかいるんですか?」 ふと投げかけられた咲也のひと言。夕食前の束の間の時間に投じられたそれは、スマートフォンに向かっていた至の視線を上げるには充分だった。「お、なになに? 咲也は狙いなわけ?」「ちがっ――この…

  • 花開きて(至)

    『ッあ――ご、ごめんね、そうだよね。……うん、えへへ……ごめんなさい』 抑えるような涙声が、今もなお耳にこびりついて離れない。  残暑の厳しさ残る秋口のことだった。始まりが何の話だったのか、今となっては少しも思い出せないけれど、いつもの通り…

  • えにしを結ぶ(至)

    『――はそういうんじゃない、かな。ごめんね』 何度も何度も夢に見る。困ったように笑いながら、優しく突き放してくる至くんの夢を。  授業の終わりを迎え、下校時間にようやっとスマートフォンを手に取る。外出用の手帳型カバーは桜色の革製で、いくつか…

  • うたをうたって(綴)

     ――あ、新作来てる。 行き詰まる作業の合間、休憩も兼ねて動画サイトを巡っていたときだった。かねてより世話になっていたとある歌い手のチャンネルに、新作の歌がアップされていたのである。 元々こういった文化には詳しいわけではないのだけれど、数年…

  • 午前2時過ぎのメランコリー(至)

    『じゃ、あたしそろそろ寝るね。今日もありがとう』『おつー』『明日もお仕事がんばって……あ、でも無理しちゃダメだから』『ういうい』 ぴこん、というスタンプの受信音を最後に、至とのやり取りは終わった。時刻は既に午前2時をまわっていて、お互い明日…

  • なまりの気持ち(至)

     どこかへ連れ去ってしまいたい。 誰にも見つからないところへ。 誰にも触れられないところへ。 誰にも、傷つけられないところへ。 たとえば今この瞬間右腕が斬り落とされたとして、優しく治療して丁寧に扱っていればまた新しい腕が生えてくるか? 答え…

  • 物理的に柔らかい(至)

    「、最近抱き心地良くなったな」 背後から伸びた両の手が、あたしの体を抱きすくめる。至くん曰くあたしは抱き込むのにちょうどいいサイズらしく、ゲームの合間に手が空くとこうしてへばりついてくるのだ。 別にここから何があるわけでもない。この人は、抱…

  • お前は黄色が似合うかな(至)

    「いったーるくん! これあげる!」 仕事帰りの夕暮れのこと。聞き慣れた声に振り向く間もなく、俺はいわゆる膝カックンを受けてその場に倒れ込みそうになった。お前俺の運動神経ナメんなよ――なんて、外であるにも関わらず飛び出しそうになった悪態を飲み…

  • 優しい共通点(綴)

     いわゆる穴場があると教えてくれたのはバイト先の先輩だった。 春になると一面の黄色い花に囲まれるその丘は、知る人ぞ知るデートスポットであるらしい。デートという話はひとつ置いておくとしても、その花の名前を聞いて一番に頭に浮かんだ彼女を、絶対に…

  • 魅惑の昼下がり(綴)

    「大丈夫? おっぱい揉む?」 集中力が途切れた直後。脳が停止した瞬間に滑り込んでくる、その衝撃は大きい。背もたれが軋むほど仰け反った先、こちらを覗き込んでくるの爆弾発言に、綴は危うく椅子から転げ落ちそうになった。あんぐりと開いた口を閉じて、…

  • 君がいないと(至)

    「そんなつもりじゃなかった」なんて犯罪者の常套句が、よもやこの口から出そうになるだなんて思ってもみなかった。金曜日から土曜日を跨いだ深夜一時のこと、暗闇のなかぼんやりと光るモニターを前に至は頭を抱えている。想いが溢れて壊れそうだと思った。傍…

  • あなたしか見たくない(至)

    「、最近メガネかけてること増えたんじゃない」 手元のスマートフォンから目を離さず、独り言のように吐き出された言葉。一体それが何を思っての発言なのかわからないまま、はそうなんだよね、と頷いた。「なんかね、進級してからまた悪くなったみたい。普段…

  • 君らしくて好きだよ(綴)

    「英語が話せて得したこと? 洋ゲーやるときスムーズにいくことかな!」 海外の人とチャットで話せるのも大きいよね――ふと浮かんだ疑問をぶつけてみると、きらきらと目を輝かせるから返ってきた即答がこれだ。ゲーマーここに極まれり、そんな言葉を思い浮…

  • これを愛だと呼ばせてほしい(咲也)

     自分で言うのもおかしいけれど、わたしは理想的な娘だったのだろうと思う。容姿端麗、頭脳明晰、文武両道、沈魚落雁、数多の賛辞は全てわたしのためにある――そう言ってきた男は何人も居た。老若男女誰もがわたしにこびへつらってきた。誰もがわたしに好か…

  • 桜吹雪の真ん中で(咲也)

    「さん、さん! 見てください、満開ですよ!」 桜並木をまっすぐ見上げながら、咲也くんは弾んだ声でわたしの名を呼んだ。桜色の花吹雪のなか佇む咲也くんは、なんだか桜と同化してしまいそうなほど、淡いぬくもりの色がよく似合っている。優しく微笑む横顔…

  • ぽつりぽつり、雨の音(真澄)

     ぱらぱら、ぽつぽつ、ぱちぱち。多様な雨音を傘の下で聞き比べながら、今日も今日とてあたしはMANKAI寮へ足を伸ばしていた。雨天はあまり好きではない。まとわりつくような気だるい湿気と、眠れない夜のどこか耳障りに感じる雨音がこびりついているか…

  • 夢と、希望と、それから(至)

     あたしにとって、家というものはひたすらに苦痛でしかなかった。 理想を押しつけてくる父親と、半ば育児放棄状態の母親と、あたしを痛めつけては嗤う姉。使用人は何人かいたけれど、さすがに主人の愚痴なんて彼らに言えるわけもない。心安らぐ場所であるは…

  • 君の面影(至)

     第五公演で主演を務めるにあたって――特に、見えないグエンの表現をするときに、いつも頭に浮かべていたモデルがいる。妖精らしく人間離れしたグエンの麗しさを三次元に当てはめるだなんて、もしかすると俺はナイランファンの風上にもおけないような愚行を…

  • さくらの魔法(咲也)

     青空に手を伸ばしたことについて、特に何も意味はなかったはずだ。ただ抜けるように青いなあとか、雲ひとつない快晴だなあとか、中学時代の理科で習った「晴れ」と「快晴」の違いを思い出しながら、ただぼうっと、本当に無意識でこの手を空へ掲げた。何かを…

  • 真夏の壁(至)

     アイスが食べたくなったのだ。 蒸し暑い夏のことである。夏休みも終盤に差しかかった土曜日、至はを招いてのゲーム合宿――もとい、夜通しゲームに明け暮れるためのお泊り会を行っていた。同室の千景がちょうど短期出張に出るということで、この機会を逃す…

  • 見えなくなってわかるもの(綴)

     歩幅が合わない。 当たり前といえば当たり前だ。男女という性差、30cm余の身長差に加え、あたしたちは生い立ちや境遇までもが違いすぎる。家族のため、弟のために稼いで、世話を焼いて、身と心をすり減らすように働いてきた綴くんと、恵まれた家に生ま…

  • 何日何年かかっても(咲也)

    「オレ、ほしいものが出来ました」 意を決したようにつぶやく咲也くん。その目はひどく真摯でいて、けれども何かに怯えているようにも見えた。 まるで、親とはぐれて迷子になったような心細さが、今の彼にはあると思う。「いつか、そう遠くない未来、さんと…

  • あざといポーズ(至)

    「ッ、きゃあ!」 物陰から出てきた怪物に驚いたのだろう。は控えめな声をあげ、隣の至にしがみついた。 今はホラーゲームをやっているところだった。やっている、というよりは、プレイしている至の隣にが座り、そのさまを鑑賞しているといった具合である。…

  • Photogenic(綴)

     MANKAIカンパニーの脚本家として書かせてもらっている手前、そこに妥協は許されない。遊びじゃない。趣味でもない。これはれっきとした仕事である。お客さんの、劇団員の、スタッフの、監督の時間と金を浪費させてしまうのだから、俺はみんなの期待に…

  • 呪いは伝搬してゆく(密)

    ※R15くらい---「にしても、最近物騒ですよねー。毎日毎日、どこかしらで怖い事件が起きてたりするし……」「確かに、毎日嫌~なニュースばっかりかも。幸い天鵞絨町は、ここ最近目立ったことは起きてませんけど……」「ああでも事件といえばあれですよ…

  • 今までのぶんも(太一)

    「昔通ってた幼稚園に咲いてたわ」 ふと足元に目を向けたが、おもむろにそう呟いた。どうしたの、と尋ねて彼女の視線を追ってみると、そこにあったのは白いプランターに咲き乱れる色とりどりのパンジーの花。演劇の聖地と呼ばれる天鵞絨町はそのぶん人の行き…

  • あなたを待っています(密)

    「アネモネの花言葉って切ないよね~」 花瓶の水を捨てながら、思い出したようにが口を開く。いきなりなに、と至極まっとうな声を返せば、は頷きながらからからと笑った。「この前読んでた本に花言葉の話が出てきたんだよ、それで色々調べちゃったの」「………

  • 本当はずっと(辿)

    ※本編8幕、バクステのネタバレあり--- 日本に帰ってくるのは何ヶ月ぶりだろう。生まれ育った温暖な気候は体によく馴染み、否が応でもここがおのれの故郷なのだということを実感させてくれる。通り慣れた花街道の香りはどこか懐かしくて、あの頃とは咲き…

  • あの日のぼくにさようなら(太一)

     永遠なんてないと知ったのは、初恋の女の子と会えなくなったあのときだ。あの頃の俺っちはあの子とずっと一緒にいられると思っていたし、いつかあの子をお嫁さんにして、幸せな家庭を築くんだって思ってた。でもすぐに離ればなれになって、俺っちは道を間違…

  • あなたの好きな海だった(密)

     まるで魔法のようだった。彼に抱きしめられたとき、ずっと抱え込んでいた膿が、重しが、ふわりと軽くなったのだ。 家族を亡くした過去は消えない。私は一生その傷と付き合っていくのだと思うし、あんなにも好きだった人のことを、愛の結晶である息子のこと…

ファイアーエムブレム

  • 飛竜の息吹が聞こえるここで(ジェローム)

     ――ね、ジェローム。お願いがあるんだけど。 そう持ちかけたとき、仮面越しでもわかるくらいの嫌な顔をされたことを覚えている。 それでも彼は決して無視はせず、わたしの話に耳を傾けてくれた。ぶっきらぼうな物言いではあるが、「なんだ」と確かに。 …

  • 笑っているのに、なあ(ルキナ)近親愛

     たった二人きりの狭い天幕のなか、聞こえてくるのはファルシオンを手入れする無機質な音だけだった。 あいにくとにそれを振るえるだけの素質はなく、父クロムから封剣を引き継げたのは姉のルキナのみであった。別に自分に素質がないことを、姉にばかり才が…

  • 日焼け止めなんかないものね(ジェローム)

    「ね、ジェローム。お節介かもしれないけどさ、砂漠とか陽射しの強いところにに行くときは気をつけたほうがいいよ」「……なぜだ」「日焼けだよ。ジェローム、いっつも仮面着けてるでしょ? 仮面のかたちの日焼け跡とかできたら大変じゃない? しばらく他の…

  • それはありふれた夜のこと(エメリナ)GL

    ※GL --- 「大丈夫。大丈夫よ、エメリナ。あなたには私がついてるわ」 すう、すうと穏やかな寝息を立てる頬は月明かりに照らされている。ゆっくり手を触れたそれは青白いが、これでも再会したときに比べればよっぽど綺麗になったものだ。 ――あのと…

  • おはよう、ハニー(ルキナ)近親愛

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  • 青と紅(クロム)

    ※死ネタ、息子もいる ---  凶刃が息子へ見舞われんそのとき、は半ば衝動的に駆け出していた。 それが息子のことを想っての行動なのかと問われたら、おそらくは返す言葉を持たないだろう。彼女はもはや限界だった。最愛かつ無二の幼なじみを目の前で亡…

  • 誓いの弓立(ジェローム)

     ジェロームがひどく優しい男であるということを、恋人であり幼なじみでもあるわたしは深く理解している。 彼は真っ当な感性を持った常識人だ。まあ、仮面の趣味やそのあたりは少し人と違ったものを持っているけれど……それでも彼が面倒見の良い優しい人間…

  • この世がもたらす何よりも(エメリナ)GL

    「……これ、どうぞ」 目の前に差し出されたのはぐちゃぐちゃの花冠だった。おぼつかない手つきで作ったのだろうことがよくわかるそれは、幼い頃にが好きだと言った花によく似たもので彩られている。 フェリアとイーリスでは気候の差もあって自生する植物に…

  • 永遠のように(ジェローム)

     それは、ひどく穏やかな昼下がり。ミネルヴァちゃんとお空の散歩を終わらせて、ジェロームと二人、のんびりと過ごしていたときのことだ。「やっぱ、ジェロームの顔かな。できれば仮面は取っててほしいけど」 出し抜けに口を開いたわたしに、ジェロームはひ…

刀剣乱舞

  • それを兆しと呼ぶのなら(鯰尾)

     俺の主は働き者だ。 朝は誰よりも早く起きて、俺たち刀剣男士が目覚める頃には温かい朝餉の支度を終えている。各々の味の好みを熟知しているのか、昼餉や夕餉となるとそれぞれのリクエストにだってきちんと答えてくれるのだ。 空いた時間には俺たちと交流…

  • 私はそれを恐れるだろう(鯰尾)

     誰かが言った、自分たちは似た者同士なのだと。 生憎と私にはその言葉を否定する理由がない。ひとつ拾うとするなら見た目だってそうなのだろう、前髪は尚のことだが頭頂部で主張するくせっ毛、黒髪、色こそ違えどまあるい瞳。顔立ちだってそうかけ離れてい…

  • 無題(堀川)

    「兼さん! 裾、ほつれてるよ」 ぼうっと本丸の縁側に座り込み、何をするでもなく青空を眺めていたときだった。ふと耳に入る聞き慣れた声に、自然と意識が引っ張られる。 直すからちょっとだけ待っててね。そう告げた堀川国広は、まるでかしずくように膝を…

  • 無題(獅子王)

    お題は『近すぎると怖い、離れても嫌。』です。http://shindanmaker.com/392860--- 刀と審神者。神と人。兄と妹。どれでもあって、どれでもない。そんな関係だと思っていた。否、そんな関係であろうとした。 彼と自分には…

  • 無題(薬研)

    ×××へのお題は『無理やり奪って、今すぐに』です。http://shindanmaker.com/392860---- ――もういやだ、もう、やめてしまいたい、帰りたい。 日々に疲れ、俺のもとへやってくる度にが漏らしていた弱音だ。本当はこん…

  • 無題(獅子王)

    ×××へのお題は『惚れたほうが負け、とはよくいったもんだ』です。https://shindanmaker.com/392860花丸を見たよ!的な、パロディ半分でお願いします---「獅子王、獅子王! ちょっと手伝って~!」 どこか弾んだの声色…

  • お使い粟田口(鯰尾)

    「鯰尾くん、ちょっといいかな」 さて、今日はどんなイタズラをしてやろうか。笑って許せるものから可愛くないものまで、長谷部の背中を見ながら様々な案を巡らせる鯰尾に話しかけてきたのは、審神者姉妹の片割れであるだった。刀剣たちを目覚めさせ、まるで…

  • こんなことすら(鯰尾)

     俺がこの本丸で呼び起こされたのは、粟田口の兄弟のなかでもかなり後のほうだったと思う。 本丸全体で見ても2番目に古株であるという乱と、主さんと特に親しい仲であるらしい薬研を筆頭に、弟たちから人としての生き方を教わった。箸の使い方、夜の眠り方…

  • ああ、炎が。(鯰尾)

     あつ、い。 ぽつりとこぼしたその一言が、敵と対峙する最中の、いやに静かな地下の空気に反響する。鯰尾たち第一部隊の面々が、彼女の呟きという名のSOSに気づいて振り返った頃にはもう、はその場に膝をついていた。「う゛ぇっ……」 泥だらけの地べた…

  • 面白いよね(鯰尾)

     大広間の片隅で、机の上に置かれた皿の、真ん中に鎮座する三角の物体をぷすり。確か「フォーク」と言ったこの食器は、こういったおやつを食べるのに適していた。 今か今かと、まるで親鳥を待つ小鳥のように落ち着かない妹へ、ひとくち。あーん、を合図にし…

  • 君を想う、ゆえに。(薬研/獅子王)

    「お姉ちゃん、最近紫好きだよね」 深夜。本丸の片隅に宛てられた私室にて、所属する刀剣男士の談義を行っていた最中。やれ誰が美しかった、やれ誰はイマイチだったなどと、独自の採点を交えながら話していた折、ふと発せられたの一言に、は大きく目を見開い…

  • 「特別」(獅子王)

     畑仕事は、好きじゃなかった。 そんなことをする暇があるなら、ひと狩り行って猪でも何でも捕ってきたほうが腹の足しになるだろうと思っていたし、野菜類があまり得意でないこともあって、土いじりでドロドロになることへの拒否感もひときわ強かったんだと…

  • さらわれる城、花のひとひら(薬研)

     大将の、泣いている顔が好きだった。 人前で恥をかくまいと気丈に振る舞う姿は時に痛々しく、庇護欲を掻き立てられると同時に加虐心をそそられるのもまた事実。触れれば壊れそうなほどに脆い、さながら幼子を思わせるその小さな背中を撫でるのか、抱くのか…

アイドリッシュセブン

  • 出会いの爛漫、恋の花(天)

    「あ! 君が天くん? 初めまして、九条です。今日から私が君のお姉さんだよ、よろしくね」 ――人の良さそうな笑みを浮かべた彼女は、当時のボクからしても警戒心を抱かせるような人物には見えなかった。無二の両親や弟と離れて暮らすこと、それに幾ばくか…

  • きれいなきみへ(天)

     出会ったばかりの頃は、私よりもすこーし大きいくらいだった。華奢で、真っ白で、凛としていて、けれどあどけないところもあって。それでいて頼りなさは微塵も感じられない、女の子のようにも思える反面、誰よりも男の子である。例え撥ねつけられようとも、…

  • はじまりの足音

     ひとつ、足音もなく忍び寄る人影があった。その影は神とも悪魔とも取れる表裏を持ち、答えの如何でがらりと顔を変える。奇しくもその男を神とさせた少女はゆっくりと、自らが立つべき舞台を見据えていた。「、大丈夫かい」「もちろんです」 簡潔な、けれど…

  • 君ってやつは(天)

    「今日、楽とケンカした」 ぽつり。まるで独り言のようにこぼされたそのひと言は、どこか拗ねた幼子のような、あどけない響きを持っていた。 小さく引かれた服の裾に従ってゆっくり振り返ってみると、そこには限りなく無表情、けれどどこか惑うような表情の…

  • ぼくたち日和(天)

     IDOLiSH7、TRIGGER、Re:valeの12人が新しい試みに挑戦すると聞いたのはつい先日のことだった。 なんでも、各人の誕生日に発売されるらしいムック本。私生活を激写したとっておきの写真、メンバーとの対談というおいしい要素をしっ…

  • 菓子もイタズラもないけれど(天)

    「で……出来……て、ない、」 おかしい。嗚呼、いったいどうしてこうなったのだろう。 キッチンはいつもと変わらず清潔でピカピカのまま、調理道具だって天ちゃんのお眼鏡にかなった高性能機器の一式だ。材料も入念にレシピサイトや初めてのお菓子作りと題…

  • 気持ちのピース(天)

    「かっる……」 かくん、と足元をすくわれる心地がしたと思うと、瞬きのあいだに現れたのはどこか不服そうな天ちゃんの顔。いわゆる至近距離、目の前、少し身を乗り出せば簡単に唇が触れられそうなところにある現代の天使の表情は渋い。なあに、つとめて冷静…

  • 覚えているよ(一織)

     ――薄くはあるが決して華奢ではないその後ろ姿。背後からでもわかる凛とした空気は、少しだけ人を寄せつけなくはあるが拒絶の色など少しもない。ただ不器用で、妥協を許さぬ、才覚ゆえの意識の高さが他人との齟齬を生んでいるだけ。 懐かしいような初めて…

  • そんなこと、したい(天)

    「さん、ねえ、キスしようか」 それは、なんてことない食後のことだった。 久しぶりに夜を共に過ごせるからと、2人でご飯をつくったりして。「お好み焼きとか楽しそうだよね」という私のふざけた提案を天ちゃんは快く受け入れてくれて、そして久々に姿を見…

WJ

  • 「おめでとう」の時間(暗殺教室/前原)

    「わり、磯貝。俺ちょっと風に当たってくるわ」 そう言い残して、旧校舎へと続く道を逸れた。 ……毎度毎度のことながら、やはりキツいのだ、あれは。体育館中に響く嘲笑は慣れようとして慣れるものではないし、いくら殺せんせーのおかげで健やかに過ごせて…

  • 「幼なじみ」の時間(暗殺教室/学秀)

     昔から、彼は頭ひとつ抜きん出ていた。 それはきっと彼の父親による教育のたまものであり、彼自身の才能と努力が実を結んだ結果でもある。 私は幼なじみという間柄、周りのギャラリーよりは彼を理解しているだろうという自負があるし、彼が恵まれた才能に…

  • あだ名の時間(暗殺教室/赤羽)

    「イケメグ……」 ぽそり。さんがつぶやく。……片岡さんのあだ名に反応したのだろうか? なんでも茅野の話だと着替えのあいだからずっと考え込んでいたらしく、ある種の不気味さを感じたとも言っていた。 放課後になってもさんは、何度も「イケメグ」を繰…

  • 一目惚れの時間(暗殺教室/前原)

     ――脱落者。E組に落ちてきた者たちは、この椚ヶ丘中での学校生活においてそう揶揄されるだろう。 それはここにいるE組生徒全員に貼られたレッテルであり、それぞれ思うところは違うにしても大なり小なりの傷を生んでしまう不名誉な勲章でもある。 殺せ…

  • 出会いの時間(暗殺教室/赤羽)

     赤羽業は気まぐれな人間だ。いたずらっ子のような顔を見せ、周りを惑わせたかと思えば善良なそぶりをし、時に極めて残虐な行為にも走る。……よくわからない、それが私の率直な感想である。 しかしよくわからないからといって彼を嫌っているわけではない。…

  • 初恋の時間(暗殺教室/学秀)

     ――――たすけて、しゅーくん。 もう2年も前の出来事だ。2年も前の彼女の声が、未だに頭のなかをこだまする。「お前の笑顔を見たのはいつぶりだったかな……」 机の端に伏せられた写真立てを、ついと久々に起こしてみる。そこにはまだ小学生だった自分…

  • 前進の時間(暗殺教室/前原)

    「苦手」というのは一種の逃げかもしれない。俺は逃げている。彼女の真剣な想いから。 今まで軽い恋愛ばかりしてきた。本気になるべきじゃないと思っていた。そのときそのときが幸せならばそれで良い、いつか嫌いになるならその一瞬を楽しむ。それが俺の恋愛…

  • 旅立ちの時間(暗殺教室/学秀)

     ――――戻ってくるか、。  僕らE組は終業式へと向かう途中、紙と鉛筆での激戦を繰り広げた宿敵――五英傑の面々とかち合わせた。 E組の晴れやかな表情に対して彼らは苦虫を噛み潰したような顔だ。無理もないだろう、今まで最下層だと見下してきた僕ら…

  • バスケやらねべか?(黒バス/福井)

    ※捏造注意  母親の実家が東京にあるのは昔からよく聞いていたが、こうやって訪れてみるのは生まれてこの方初めてだ。生まれ育った秋田と違って、ここにはたくさんのものがある。それはひとも、ものも、そしてこの上ない淋しさも。こんな都会ならなに不自由…

  • 動き出す(黒バス/福井)

     とあるマンガのキャラクターが「勝てる」やつは「勝ちたい」なんて思わないと言っていたように、「会える」やつは「会いたい」だなんて思わないのかもしれない。あれから数年経って大人ぶったオレは、「会える」という望みの薄さをすっかり理解してしまった…

  • 逃逃逃逃逃逃、逃?(黒バス/福井)

     汚いところを見られてしまった。唯一、「彼」にだけは見せたくなかった自分の姿。逃げ出したい。逃げ出したい。けれどそんなことは叶わない。逃げ出したい。逃げてはいけない。「どうしよう……」 枕に落ちる滴の跡は、一晩中ただ広がるばかりだった。  …

  • ああちくしょう(黒バス/福井)

     昼休み、運動部員に負けず劣らずの昼飯を平らげたがオレや氷室の膝に乗っかってくるのはもはや日常茶飯事と化していた。いつもは無言の戦いを繰り広げたりもするが、今日は運よくオレの膝がお気に召したらしい。こいつがすりよってくるたびに周りの視線が刺…

  • AM1:58(黒バス/陽泉逆ハー)

    『ね、。ちょっとデートしない?』 それはとある日の深夜、午前1時58分。この上なく唐突な、内緒のお誘いでした。 「ひゃー寒い! こんなに着てきたのになあ」「あはは、雪だるまだ」「うるさいなー、もう!」 ありったけのカイロを貼りつけてきたもの…

  • おべんきょしましょ!(黒バス/福井)

     陽泉高校から程近い、岡村の家。築何十年とも言える昔ながらの日本家屋だ。変えたばかりの畳の香りが心地よい。 そんななか、年季の入ったちゃぶ台を前に正座させられているのはアメリカ帰りの3人組。バツが悪そうにうつむき、周りの誰とも目をあわせよう…

  • しーまーぱん!(黒バス/緑間)

     現秀徳高校生徒会長、。成績優秀で品行方正、176cmの長身を活かしてバスケ部ではキャプテンも務める有能なSGであり、その上家系は界隈で有名な資産家。本人も目が覚めるような美人で、まさに非の打ちどころがない「完璧な佳人」だと秀徳高校ではもっ…

  • 太陽みたいなお前のことを(黒バス/黄瀬)

    『頑張ってくださいね、ちゃん』 あの言葉の裏に隠された、なにかを僕は感じていた。 春に出会ってからずっと。一緒にいるときはいつも。まっすぐなあいつの言葉を心を、いつだってぶつけられてきたから。 だから気づいてしまったんだ。黄瀬が押し込めた本…

  • 幼なじみの女の子(HQ/菅原)

     容姿端麗、成績優秀、運動神経も抜群だった。 おまけに後輩には気さく接するし、目上の人間も敬うことができると人柄だって二重丸。ぱっと見なら、非のつけどころなんかない完璧超人だ。 そんなあいつは、誰に何を褒められても「まだまだだよ」と否定する…

その他

  • 君に会えるまで後少し(GE/ツバキ)

    「受け取れ」 役員区画の廊下のド真ん中で、ふと唐突に呼び止められる。声の主は他でもない、同期でありかつてのパートナーでもあった雨宮ツバキだ。白くも扇情的なデザインをした教官服に身を包み、見ているこちらが背筋を伸ばさざるを得ない、そんな雰囲気…

  • あの人だけがいない世界(GE/ロミオ)近親愛

     触れあえたのなんてほんの数日。 想いを伝えあえたのだってただ一度。 見つめあえたのは果たして幾度か。 かわした言葉は何文字か。 それでも私にとって、あの日々は至上の幸せだった。貴方のために、私は今まで生きてきたの。貴方に会いたかったから、…

  • たすまにあ?(GE/ユノ)

    「ちゃん、本当に変わったよねぇ」 しみじみと、カップの紅茶を飲み干したサツキが感慨深そうに呟いた。ユノと積もる話に花を咲かせていたが、ほんのりと頬を赤らめる。もごもごと口を動かしては言葉を飲み込むの姿に、サツキはよく回る口を更に働かせた。「…

  • お前のことが(GE/ハルオミ)

    「貴方、今日誕生日だそうじゃない」 ごつん、と体格に不相応な足音を響かせやってきた人影。凛とした声に少々背筋の伸びる心地を感じながら振り向くと、そこにいたのはだった。 いつも姿勢正しく品行も方正で、自他ともに厳しくあるがゆえに彼女はあまり小…

  • きらめく稲妻(夢100/リッツ)

    「リッツ」 ふ、と。唐突に声をかけられて、リッツは反射的に振り返る。 ここは精霊の国セクンダティ、トニトルス。そよ風が木々を揺らす風景のなか、人混みの向こう側に小さなグラデーションが見えて、リッツはうんと目を細めて笑った。小柄な少女を見失わ…

  • あつい手のひら(夢100/トール)

    ※嘔吐描写 --- 「う……ぇ、」 びしゃ、と音を立てて吐き戻された胃の内容物。先程まで暴れまわっていたモンスターのうえに飛び散るそれは、戦いの凄惨さを何よりも物語っていると思う。目を伏せるトールは頬を撫でる風に意識をそらした。小高い丘には…

  • 無題(夢100/レジェ)

    ――。そう呼ぶレジェの声は優しい。あたしの耳をくすぐるそれに、ぼんやりとした意識がさらに微睡んでゆくようだ。あたしを膝に乗せたレジェが、ゆっくりと背中を撫でてくる。子供やペットにするような手つきに少しムカついた気はするけれど、抗えない眠気の…

  • 無題(夢100/トール)

    分厚くなった手のひらを重ねる。鮮血を浴びたぬくもりは、すぐに体温と溶けあっていった。2人で下した脅威の獣が、女の長い髪を喰ろうてその場に伏している。ちぎれた金糸は血にまみれ、もはや異物に変わりなし。男は言う。帰ろうと。在りし日の想い出をだぶ…

  • 無題(夢100/リッツ)

    ずいぶん目立つ金髪よね。ふと呟いたは、訝しげな目でオレを見ている。キミほどじゃないと思うと言えば、けれどもどこか納得がいかないように頬杖をついたまま唸った。逸らした瞳が色を変える、唯一無二のアイオライト。くるくると色彩を変える彼女の様が、オ…

  • ないよ、ないない(夢100/ビッキー)

    「ああ、もう、仕方ない子だねえ」 2日ぶりに泊まる、屋根のある宿。雨が凌げてよかった。しとしとと静かな雨が降り注ぐ音をかき消すように、部屋の中に威勢のいい声が響く。 軋むような音を立てる粗末な椅子から立ち上がり、いくつも上背のある男の髪をか…

  • 溶けない笑顔(夢100/シュニー)

     スノウフィリアの城下町。しんしんと雪が降りしきるなか、深雪に溶け込みそうなほど真っ白な少年が歩いてくる。独特の音を立てる霜のリズムを耳にして、はふと顔を上げた。開店まであと少しという刻限で、今は店先をさっと掃除していたのだ。「おや、シュニ…

  • だって、そうでしょ?(夢100/ミヤ)

     最近、あたしには新しい友達が出来た。友達と呼んで許される仲なのかはわからないけれど、彼自身があたしを友達だと呼んでくれるから、恐らくそう言って問題はないのだろうと思う。 太陽みたいに笑うそいつと、卑屈で乱暴でひねくれ者、そして奇抜な見た目…

  • くちびるのおく(まんマル/リンドウ)

    「また笑顔の練習してんの?」 ひょこん。団子が目立つキッチンカーの裏、飛び出すように顔を出したのはマルシェの仲間のひとり、だった。客足も落ちついた昼下がりのこと、突然の襲来にリンドウは大袈裟に肩をビクつかせる。「――、さん」「あ、驚かせちゃ…

  • 明日は我が身(監禁中/ツキノ)

    ※ストーリーの重大なネタバレがあります。アプリをプレイ中、またはプレイ予定のある方はクリア後にご覧ください。---「ツキノくん、なんか大変だったみたいだね」 わたしがそう訊ねると、ツキノくんは端正な顔立ちをそのままに、爽やかな顔をして笑った…

  • 初めての温度(逆転裁判/御剣)

     私は、くんが泣いているところを一度しか見たことがない。 彼女の裁判が終わって、安堵から流した大粒の涙。仕事とはいえ、一度は彼女を犯人に仕立て上げようとした人間が思うことではないかもしれないが、あのときの涙は純粋に、心から美しいものだと思っ…

  • はじまりはいつも(P3/真田)

    「お前は、いつも1人なんだな」 その言葉の主がにやついた同性であったならば、いつものように無視して終わりだったと思う。  ようやっと寮生活というものに慣れ始めた頃だった。始めはどこで何をすればいいのかもわからず、実家ではさんの帰りが遅かった…

  • 寒いな、(P3/真田)

     彼女は確か、俺たち兄妹とほぼ同時期に施設にやってきていたと思う。年が近いこともあってか話す機会はそれなりに多く、美紀も比較的懐いていた。「お人形のお姉ちゃん」という美紀の声が耳にこびりついているせいで、彼女の本当の名前を思い出せないのが心…

  • 問答無用のダジャレイディ(P3/真田)

    「小鳥……コトリ。――あ、小鳥が怒っとります……?」 彼女の口から紡がれるダジャレたちは、この冬時分には些かつらいものである。ペルソナの氷結弱点とはあまり関係ないものだろうが、どこか背筋が凍えたような心地を感じるのも事実。一言で言うなら、サ…

SS

1000字以下のお話や会話文、名前変換はなし

ポケモン

  • 無題(グラジオ)

    「愛おしい」という言葉はあなたのためにあるのだろう。わたしの心が震えている、あなたを見るたび叫び出す。あなたの声が、吐息が、空気が、瞳が、血が皮が骨が毛が、それらすべてが在るだけなのにわたしは胸が痛むのだ。あなたのすべてがほしくなる、浅まし…

  • 無題(センリ)近親愛

    血というものが憎かった。それが愛しくて嫌だった。この身に流れる半分があの人のものである事実、もう半分は違う女。それはひどく甘美であり、苦痛でもあり、2人をつなぐ証でもある。流れる赤が惜しくて嫌いだ。だからあたしはいつも恐れる。体に赤があるこ…

  • 背中を見ている(リーリエ)

    陽の下へさらされたうなじに、じわりと汗が滲んでいた。つややかなポニーテールの隙間から覗くそれを目に入れ、ぼくはお嬢さまへ日傘を差し出す。かつて奥さまから贈られたそれはお嬢さまのお気に入りの品であり、足元が影に覆われたことと日傘の形を意識の内…

  • 朝のひと時は(ククイ)

    「ククイ博士、おはようございます」 ポケモンスクールの門を潜り、職員室にて顔を合わせる。愛しいその人はこちらを窺うと白い歯を見せて笑い、いつもと変わらぬ挨拶をくれた。「おはよう、マドカ。今日もよろしく頼むな」 職員椅子に深く腰掛け、受け持つ…

  • いい風呂の日(マリィ)

    「ラベンダーさん、今日はいい風呂の日だって」「え? ……ああ、本当だね」「あの……」「一緒に入りたいの?」「うん……その、せっかくだし、少しだけでも」「うーん……」「別に嫌ならいいんだけど――」「ただのお風呂じゃすまなくてもいいならいいよ」…

  • 深夜二時(ユウキ)近親愛

     ――ばかばかばかっ、ユウキのばか! もうしらない、だいっきらい―― 泣いて怒る自分の声に、思い切り叩き起こされた。おそらくもう十年ほど前の、ユウキと大喧嘩してしばらく口を利かなかったときの記憶だ。 まさか、今になってこんな夢を見ることにな…

  • あなたと共にある証(ユウキ)近親愛

    あたしの部屋は、少し前からとびきりに物が増えた。自分では絶対着ないような服、縁のないシェーバー、余分なお箸、使い慣れない歯ブラシ。一気に狭くなった我が家を見ながら、しかし、あたしの心は充足感でいっぱいだ。なぜならこれらは、ユウキがそばにいて…

  • うわさをすればかげうち(レッド/グリーン)

    「グリーンさんって、レッドさんのこと本当に大好きですよねー。口を開けばすーぐレッドさんのお話するし、おかげでコエダもレッドさんについてすっごく詳しくなっちゃいましたよ」「……」「あ! そのお顔、もしかして照れてます? 前にグリーンさんが言っ…

  • 答えはどっちだ!(ユウキ)近親愛

    「にしても、チイロもめちゃめちゃ料理上手くなったよな……」 テーブルに並ぶ色とりどりの夕食を前に、お行儀よく手を合わせながらしみじみと呟く。ここ数日いただいてるごはんはすべてチイロ手ずからのもので、母のそれを彷彿とさせる味は、ホウエンに残し…

  • 全身全霊ポケモンバトル!(レッド)

    「いっけー、あられ! 『ハイドロポンプ』!」 ラプラスのするどい『ハイドロポンプ』が、カメックスの甲羅を掠る。すんでのところでかわしたそれは地面を大きく抉り、『あまごい』によって倍増している威力の程を視覚的にも知らしめてきた。 ただ、この天…

  • 花びらのように(ナタネ)

     あなたはとても朗らかで心優しい人だから、周りには自然と人やポケモンが集まってくる。たくさんの笑顔に囲まれて笑うあなたはとても魅力的で、そんなあなたに恋をした、いわばロズレイドに誘われたミツハニーが僕だ。 みんなに慕われているあなたのことを…

  • よくあるやつ(セキ)

    「だーれだっ!」 ぽむ。突如視界を奪ったそれは、想像していたよりもふかふかしていて、柔らかな触り心地だった。 ふわ、ふわ、撫でるように目元をくすぐられ、ついつい笑ってしまいそうになる。「誰だろうなあ。オレにはちっともわかんねえぜ」 肩をすく…

  • 心の狭さがバチュル並み(グラジオ)

    最近、グラジオさまは一人でお出かけすることが増えた。少し前にできたお友だちと――グラジオさまはお認めにならないが――バトルツリーに挑戦するらしい。照れくさそうにしてはいるものの、ひどく楽しそうなグラジオさま。今までずっと閉じた世界で生きてき…

  • もしもし、ヒトモシ(セキ)

    「なあ――ヨヒラ、いいだろ?」 ぼんやりとした灯りのなか、セキさんが静かに身を寄せてくる。まだ何もしていないはずなのに、耳をくすぐる艶っぽい声と吐息のせいで、あたしの頭はすぐにくらくらしはじめた。「で……でも、明日は朝からご用事があるんじゃ…

  • 不可視の縁(リーリエ)

     目を閉じると、ぼくに笑いかけてくださるお嬢さまのすがたが浮かぶ。寝ても覚めてもぼくの心を占めるのはリーリエさまたった一人で、それはきっとこれからも、決して揺らぐことなどない。彼女がいるから今のぼくがいて、そうやって少しずつ積み重ねてきた歴…

  • なつかしいね(マリィ)

    「……あ。マリィ、あれ、覚えてるかい?」 ラベンダーが指差す先にあったのは、スパイクタウン郊外にある小さな公園。少しばかり寂れているし、遊具の痛み具合からは治安の悪さが見て取れるが、それでも二人にとっては思い出深い場所だった。「ここ……そう…

  • 知っているんだ(グリーン)

     あの人はひどく気取っていて、格好つけで、プライドが高くて――ほんの少しだけ、とっつきにくいところがある。わたしもトレーナーとして出会ったばかりの頃、ミリほどの苦手意識があったくらいだ。 グレンじまでナーバスになっているあの人を初めて見たと…

  • よい夢を(セキ)

     ふす、ふす。呼吸にともなって上下する頬が、プリンのようにふかふかしているように思えて仕方ない。 体はひどく細っこいのに、頬だけはこんなにもふっくらしているのだから不思議なものだ。これが子供というものなのかと、隣で寝入るヨヒラを見ながら、セ…

  • ポケットじゃないモンスター(セキ)

     よもや、こんなにもしみったれた想いを抱くようになるとは。 色男が聞いて呆れる――なんていうのは、彼女を愛するようになってからきっと何度も思ったことだ。 世間から見れば取るに足らないような娘で、老輩たちからすれば不釣り合いだとか、似合わない…

  • 無題

    「ギンガ団について……? うーん、あんまり詳しくないんだよねえ」 ハクタイ近辺にはギンガ団員が多い。理由など言わずもがな、町の北西に鎮座するギンガハクタイビルが団員を食らっては吐き出しているからだ。 この町に住まう人間として、僕は何度もギン…

  • 無題(グラジオ)

    「グラジオさま、お出かけですか?」 モンスターボールに収められたポケモンたちのコンディションを確認するグラジオさま。いつもどおり仏頂面のように見えるが、その横顔にはほんのりとした高揚感が見てとれる。 わたしは知っていた。このお顔をしていると…

  • こんなときが続けばいいのに(ナタネ)

     彼女の横顔は、いつもきらきらと輝いている。 ジムリーダーとしてバトルに励むときも、草花を愛で、育てるときも。……もちろん、ポケモンの様子をうかがうときだって。 いつもナタネさんはとてもきれいで、可愛くて、僕の視界をちかちかと弾けさせるのだ…

  • おしえておしえて(チリ)GL

    「やっぱりチリはすごいわ。グレイシアもキョジオーンも、わたしと戦っているときよりとっても動きやすそうにしてたもの」「ハッハ、まあいうても四天王のチリちゃんやからな~。こおりやいわは専門とちゃうけど、そこいらのトレーナーに負けるつもりはあらへ…

FE

  • あなたがそこにいるだけで(ディミトリ)近親愛

    私は――私だけは、自分が何者なのかを知っている。なぜここにいるのかも、おのれがどれほどの愚か者なのかも。叶うわけもない恋に身をやつす馬鹿な女を、罵ってくれる人がいないことも。それでも私はここにいたい。ただここで、この士官学校で過ごすほんの少…

  • あれは運命の分かれ道(ディミトリ)近親愛

    不思議な女だと思った。初めて青獅子の学級の教室に入ったとき、初めて彼女の隣に立ち、初めてその存在を知った。どこか陰りがあるような、けれど儚げと言うにはそぐわない、そんな彼女と、あの日に俺は出会ってしまった。目で追ってしまうのはなぜだろう。声…

  • 彼女に見える向こう側(ディミトリ)近親愛

    俺は、彼女にいったい何を重ねているのだろう。死んでしまった先生か? あの憎らしい敵の顔か。わからない。彼女が何も言わず拒まないのを良いことに、俺は日夜彼女に対して無理を強いてしまっている。本当ならもっと真っ当に、優しく、たったひとりの女性と…

  • 冷たく沈む青の獅子(ディミトリ)近親愛

    あの日に取った冷たい右手は、いとも簡単に振り払われてしまった。立っていたはずの彼の隣は、きっと誰にも見えない亡者が蠢き続けているのだろう。それでも私はやめられない。彼を想い、慕うこと。その横顔に焦がれること。苦悩に沈む彼に対して出来ることな…

  • こっちを見ないで(クロード)

    自分たちの関係を言葉にするなら、それは気が楽のひと言に尽きるだろう。もちろん最低限の配慮はしたうえでの話だが、例えば自分を偽ったり、淑女のように過ごしたりといった、肩肘はった振る舞いをせずに済むのは助かる。ただひとつ、終わりでもあり始まりに…

  • 願いはあえなく焼け落ちる(アッシュ)

    「ウィノナ、一曲どうですか?」「おや……ずいぶん洒落たお誘いですね。でもごめんなさい、私、歌はあまり得意じゃないですし、風琴の心得もなくて」「あはは、それは僕も同じです。じゃあこうしましょうよ、千年祭の同窓会の日に、こっそり誰かにお願いして…

  • 彼岸の夢(ディミトリ)近親愛

    昼は勇猛に民を導き、怒りをおさめ、世を太平へ誘うというに。幼子のように震えた声で縋りついてくる大きな体、柔らかな金糸を優しく撫でる。なあに、どうしたの、大丈夫よ。宥めるように声をかければ、安堵したのか力が抜けた。「あねうえ」と力ない声が鼓膜…

  • ここが、泣き場所(メルセデス)GL

    「ウィノナ、こっちへいらっしゃい~」呼び声に誘われるまま手を伸ばし、今日も私は柔らかな感触と体温に包まれにいく。ぎゅう、と優しく抱きしめられてしまえば、私の涙腺は壊れたようにほろほろと涙をこぼした。メルセデス、と名前を呼んで、変わらず返って…

  • もう、終わり(アッシュ)

    何も言わずに離れた私に、あの子は何を思うだろう。……考えるのはやめるべきか。この手を真っ赤に染めて、きっとこれから酷い目にあう、そんな私はあの子と一緒にいるべきではないのだから。あの子はもうこの太陽の下、明るい世界を歩んでいくべきで、私たち…

  • 鼓動の音が虫の息(アッシュ)

    頬が熱いのは誰のせいだ。胸が逸って、鼓動がうるさい、それも、いったい、誰のせいだ。薄い唇が「好きだ」と宣う。慈しみを湛えた目がこちらを見て、淡い緑を優しく細め、ひたすら私を愛そうとする。もう限界で、お手上げだ。頼りないはずの胸板にぎゅうとキ…

  • 穏やかな木々の声がする(ディミトリ)近親愛

    終戦間もなくから続く激務の最中、無理やり休みをもぎ取らせた昼下がり。膝の上に寝転ぶ愛おしい人は不器用に寝息の真似をして、まるでこの一瞬すら惜しいとでも言いたげに意識を保とうとしている。「私はどこへも行かないわよ」そう声をかけるとかくんと力が…

  • 獅子王の牙(ディミトリ)近親愛

    「別に支障はないだろう、どうせ晒す機会などないのだから」夜毎に増える首筋の痕。鬱血痕ならまだいいほうで、時には深く食い込んだ歯の形が残る日もある。獅子王と呼ぶに相応しい、捕喰者の目を向けられるたび私が何も出来なくなることを知ってなお、否、知…

  • 殺し文句(ディミトリ)近親愛

    「あらやだ、そんなに見られると照れるのだけれど」「いや……その、お前は本当に綺麗だなと思って。ずっと見ているはずなのに、日毎美しくなっていくお前に見惚れていたんだ」「ちょ、ちょっと待って」「この世のどんな美辞麗句を並べても、お前の麗しさを表…

  • 口説き文句(アッシュ)

    「僕、君にちょっとだけ嘘を吐きました。初恋の話、なんですけど」曰く、心に住まうはひとりだけ。夢に見るのも私のこと。ただひとり、何年もずっと想い続けてここにいると、そう打ち明けたアッシュの頬の紅が、鏡のようにこちらに移る。私が音を上げたとてな…

  • その目を閉じて、さあここで(ディミトリ)近親愛

    夜な夜な悪夢に魘されていること。味覚が非常に鈍っていること。未だそこにある亡者の気配に時おり身を震わせていること。左腕のしびれが残り続けていること。眠れない夜、苦しい最中、私にすべてを委ねていること。誰も、何も知らなくていい。私だけそこにい…

  • たったひとりのあなた(ディミトリ)近親愛

    「ウィ……ウィノナ? その――」おそるおそる話しかけてくるディミトリの目的がどこにあるのか、ウィノナはもう知っていた。おいで、と両手を広げてみれば、彼は安心したように微笑ってウィノナに身を預けてくる。こうするとひどく落ちつくのだと言って目を…

  • 雨と逢瀬(ディミトリ)近親愛

    「ねえ、殿下。ご存知ですか? 人の声が一番綺麗に聞こえるのって、傘の下なんだそうですよ」囁くようなウィノナの声は、優しく、そして労るように俺の耳へと滑り込んだ。雨音に混じる互いの声。吐息と少しの足音が、なんとなく世界との隔絶を思わせる。「……

  • 新天地(クロード)

    「くろ……ああ、違ったわね。ここではカリードだったんだわ」「ん、どうした。呼びづらいか?」「慣れない気持ちのほうが強いかしら。だって、私はずっとクロードと呼んでいたもの」「そうだな……ならそのままで呼んでくれ。ここじゃあクロードなんて呼び方…

  • とある戦士の残した手記(ディミトリ)近親愛

     1186年 角弓の節 3の日。ファーガス神聖王国は、帝国への勝利と「救国王」の即位により、類を見ない騒がしさを見せていた。 景気が良い、喜ばしい、活気がある、そう言えば聞こえはいいのかもしれないが、こちらとしてはあれやこれやのてんてこ舞い…

  • 狂おしいとはこのことか(クロード)

    目と目があった。手が触れた。同じ空気を吸っている。それだけで胸が高鳴るのは隣にいるのがクロードだからだ。ウィノナはそばにいることだけでなく、彼の生涯の伴侶として愛されることまで許されてしまった。毎日のように想いが募る。彼の気配がそこにあるだ…

  • 彼の言葉がひとつもあれば(ディミトリ)近親愛

    「ウィノナが断るわけもない」そう言ってのけるディミトリは確信に満ちた顔をしていて、心の底から彼女に対して気を許しているようだった。彼女の愛を享受している。他人が言えば門前払いでも彼の言葉なら簡単に聞き入れてしまうのだから、彼女の首を縦に振ら…

  • 月は欠け落ち風が止む(アッシュ)

    血溜まりに立つ夢を見る。愛おしい人と大切な記憶をこの手で切り裂くような夢。聞きたくもない断末魔は耳にこびりついて離れず、地獄のような光景のなか、涙を流すこともできずにただ佇んで夜明けを迎える。そんな夢から目を覚ますたび、私は隣に眠るアッシュ…

  • 雄大なる君のとなりで(クロード)

    たとえ異国の土地であっても。言葉の通じぬ場所であっても、思想も生活も文化も異なる馴染みのない世界であったとしても。それでも隣に彼が――クロードがいてくれるのなら怖いものなど何もなかった。むしろ心はわくわくと逸り、まだ見ぬ景色に奮い立っている…

  • その声は君のためのもの(ディミトリ)近親愛

    「ディミトリ。あなたは何も謝ることはないわ」ぎゅうと抱きしめてくるウィノナの腕の力は強く、もしかするとディミトリでなければ振りほどけないほどであったかもしれない。胸元に押しつけられた顔面はきっと誰にも見ることはあたわず、暗にここには2人きり…

  • 君のことが好きだから(アッシュ)

    「ダメだよ、ウィノナ。ちゃんと僕の言うこと聞いて」「その言葉、そっくりそのまま返してやるわ……!」今日も夫妻は不毛な言い合いを続けている。事の発端は日々の公務でウィノナが体調を崩したことであり、たまの風邪によってふらつく彼女を半ば無理やり寝…

  • おべんきょうのじかん(ラファエル)

    「ねえ、ラファエル? ふと気になったのだけれど、額の筋肉って鍛えられるのかしら」「ん、デコか? そうだなあ、オデ、デコの筋肉については考えたこともなかったぞ」「そうよね……私ね、閃いたのよ。もし額の筋肉をガチガチに鍛えられたら、頭突きで相手…

  • 届けない手紙(ディミトリ)近親愛

    「拝啓ディミトリ殿下、本日はいかがお過ごしでしょうか? 先日はありがとうございました。まるで夢のようなひと時で、とても楽しかったです。まさか殿下とお昼をご一緒できるだなんて思ってもみませんでした、先生には感謝しないといけませんね。そうだ、実…

  • 凛としたその背中を思い(クロード)

    何かに怯えていないだろうか。誰かに傷つけられてはいないか。どこかで、こっそり泣いていないか。余計な気を揉んでは彼女の背中を目で追ってしまう、そんな自分に自嘲をしつつ、それでもクロードはこの毎日をひどく愛おしく思っていた。たとえ徒労や杞憂であ…

  • 恵まぬ血の雨(クロード)

    恥を忍んで訊いて正解だと思ったのは、痛みに喘ぐウィノナが少しばかり安らいだような顔を見せたときだった。なあ、ナデル……その、月のものに苦しんでる女はどうしてやったら喜ぶんだ――目をあわせられないままそう訊ね、山の向こうまで響かんばかりの声を…

  • まっすぐの、目(リンハルト/ディミトリ前提)近親愛

    「紋章持ちの近親者が、子を成した場合の紋章の有無……とても興味深いね。まさかこの目で観測できる日が来るなんて」 いつも眠たげにしている瞳をいやに爛々と煌めかせ、リンハルトは婚儀を済ませたばかりのディミトリとウィノナに目を向けた。 かつて黒鷲…

  • 春がくる(アッシュ)

     氷のように笑う人だと思っていた。まるで鋭利な刃物のような、気安く触れたら指先を傷つけてしまいかねない、そんな女性だと。 周りとは一線を画す空気感。張りつめた何かを持っている彼女は、少しだけ離れたところで陽だまりを見つめているような、そんな…

  • わかるか? 世界。(ディミトリ)近親愛

    市場で見つけたとある本。生き別れの姉弟が紆余曲折を経て愛しあい、血縁という壁すらも乗り越えて幸せを掴む“おとぎ話”。私には理解ができなかった。こんな夢が現実になるわけはなく、そう、私の未来は頭上に広がる曇天のように暗んでいる。こんな結末あり…

  • 三日月と荒野の夜(クロード)

    風の声すら消え去った真夜中に、涙の落ちる音がする。クロードはずっと知っていた。悪夢にうなされたウィノナが、時おり一人で泣いていること。声を押し殺して、月にもバレないよう努めながら、背中を丸めて喘いでいること。もう二度と一人で泣かさないと決め…

  • 正反対の好き嫌い(クロード)

    「……あなた、本当に乾酪が好きね」 満面の笑みで昼食を頬張るクロードを横目に、ウィノナは目の前に立ちふさがるそれを睨めつけている。じわじわと背中に汗がつたうのを感じているが、しかし、食物を無駄にしてはならないと意を決して口に含んだ。途端に広…

  • 緊急事態、ですわ!(フレン)GL

     ああ、ああ! どうしましょう、わたくし、胸が苦しくて眩暈がしますわ―― セテスがすっ飛んできそうな文句を口にして、フレンは桃色に染まった頬を押さえながら、その場に座り込んでいる。彼女が何を考えているのかウィノナにはうまく読み取れなかったが…

  • 頼むから……(ディミトリ)近親愛

    「お前は、王妃になっても鍛錬を欠かさないのだな」 湯浴みを終えてやってきたウィノナを出迎え、しみじみと呟く。日頃の鬱憤を晴らしてきたのだろうか、その顔はどこか晴れ晴れとしていた。「当たり前でしょう。確かに私はこの国の王妃だけれど、それ以前に…

  • 傾きだしている(クロード)

    誰かといると安らぐなんて、いつからそんなふうに思うようになったのだろう。よもや自分が誰かの隣で安息を得るようになるなんて、今までちっとも考えたことがなかった。編入先の金鹿の学級はなぜだかひどく心地が良くて、賑やかで奔放な気風が、いつしか私の…

  • 目の前にいる君だって(ルキナ)近親愛

    「エヴァン! あなた、もう少し慎重に動くということはできないのですか……!?」「あのなあ、そんなちまちまやってたら大物を取り逃がしちまうだろうが」「ですが、無闇に突っ込んでいっては命を落としかねませんよ! 頼みますから、もう少し……」「いく…

  • 反省してる?(クロード)

    「だから言ったでしょう、根を詰めすぎるなって。日頃から口を酸っぱくしていた理由、これで理解してもらえたかしら?」「すまん……」 ぐうの音も出ない、とはまさにこれ。寝台に沈み込んで渋い顔をするクロードは、頭上から降ってくるウィノナのお説教に少…

  • これぞあなたによく似合う(クロード)

    「金合歓?」 ウィノナの細腕に抱えられる、目いっぱいの花束。パルミラではめったに見ないふわふわの花は眩しいくらいの黄色をしていて、明るい色の葉っぱも手伝い、目の前の男を想起するに充分すぎるものだった。 ほんのりとした優しい香りも相まって、ウ…

  • それが最後の笑顔だった(ローレンツ)

    「なんか……呆気ない卒業式だったね」「今日までに事件がありすぎたからな。帝国の宣戦布告に先生の失踪――一年を通して波瀾だらけだったが、よもや最後の最後にかような爆弾が飛んでくるとは」「本当だよね~。――あーあ、とうとう家に帰るときが来ちゃっ…

  • とどのつまりは……(クロード)

    「なあ、ウィノナ。これから、俺と一緒に授業を抜けないか?」「はあ……? どうして私がそんなことしなくちゃいけないのよ」「まあまあ、そう言うなって。たまにはいいだろ? 俺も一人で抜けるのはなんとなく気が引けてね。寂しいと言ってもいい」「なら普…

  • 「   」(クロード)

     目を開くと、そこには無機質な天井が視界いっぱいに広がっている。 見慣れたはずのそれが私の心に安堵や康寧を与えてくれることはなく、むしろ全身の気だるさと共に、このうえない嫌悪感や不快感をもたらしてくれた。 ――私はこの家が嫌いだ。気が休まる…

  • 乾酪は嫌いよ(ディミトリ)近親愛

    「力加減こそいささか難しいが、片手で食べられるのはいいな。行儀は悪いが公務の傍らで食事を済ませられそうだ」「あなたならそう言うと思っていたわ。調理も麺包を切って野菜や肉、あとは……そうね、乾酪を挟む人もいるのかしら。とにかくそのくらいだから…

  • 無題(クロード)

     アスク王国で出会ったウィノナは記憶より何倍も花車なように見えて、思わずその腕を掴んでしまった。 俺の突飛な行動に、目の前の少女は前髪の下にある藍玉を大きく見開く。か細く吐き出された「どちら様ですか」というひと言の、あまりの他人行儀な響きに…

プロセカ

  • 水面の君(司)

    別に、何とも思ってないけど――うつむいて言う輝夜のそれが、ただの強がりであることを知っている。両手で握り込んだグラスに、赤くなった頬が映っていることも。水面でゆらゆらと揺れる表情が、やけに愛らしい色をしていることも。正面に座り、ぬるくなり始…

  • 横顔と視線の先は(司)

    「――元気にしてるかな」 ぽつりと落とされた輝夜のひと言が、頭の奥に突き刺さったまま抜けないでいる。彼女の思う人が誰なのか、もはや訊ねずともわかってしまったからだ。 輝夜の脳裏に浮かぶ人。彼女にとってはとても大きくて、けれど、向き合う勇気を…

  • 君をおもえば(絵名)GL

    「……絵名。これ、あげる」 出し抜けに差し出された花束には、溢れかえるほどの花が微笑っている。こぶりなそれは澄んだ青紫が印象的で、見ているだけで心が洗われるようだ。「えっ……なに、どうしたの? 花束なんて」「通りがかった花屋で一目惚れしたの…

  • 無題

     私は、みんなのようにショーにたいして特別に努力してきたわけじゃない。 思い入れならそれなりにあるけれど、しかし、ワンダーランズ×ショウタイムのみんなを見ているとそれすらもちっぽなものに感じてしまう。その段差を前にするたび、ひどく居心地が悪…

  • 無題

    「はいはいっ、はーい! できたよたまちゃん、おそろいツインテール!」 言いながら、咲希は私の目の前に手鏡を持ってくる。楕円の板を薄目で覗くと、そこには普段と似ても似つかない女がいた。 咲希と同じように高い位置で結ばれたツインテールは、いつも…

RF

  • 彼と、カレーと(ガジ)

    ※公式で片想いフラグのあるキャラとの恋愛描写--- 今日は、グリシナのカレーうどんが食べたいナ―― ひどく穏やかな声でそう言いながら、ガジさんはゆっくりとベッドに沈み、か細い寝息を立てはじめた。 ……自分が風邪を引いて倒れているということを…

  • それってほんとは何角形?(ガジ)

    「はあ……エリザさん、今日も可愛いナ……」 うっとりと、のぼせたように呟くガジさんは、ほんの数分前に去っていった彼女の背中の幻を、いまだに追いかけつづけている。 その夢中な様子を見れば、彼が本当に彼女を――エリザさんを強く思い慕っていること…

  • もお!(ガジ)

    ※公式で片想いフラグのあるキャラとの恋愛描写---「グリシナの髪は綺麗だよナ。指がするする通って気持ちが良イ」 私の髪をひと束手に取りながら、出し抜けにそんなことを言うガジさん。ひどく優しげに細められた隻眼は冗談を言っているふうでもなく、私…

  • 終わりの音がするような(ガジ)

    ※公式で片想いフラグのあるキャラとの恋愛描写あり---「なあグリシナ、少し散歩にでも行かないカ?」 言うやいなや、ガジさんは私の手を引っぱって歩き出した。曖昧に笑う様子はなんとなく不安を掻き立てるようで、まるで追い立てられるように彼の背中を…

原神

  • 面影(ウェンティ)

    「ねえ、ハーネイア? 君は、ライアーに覚えはある?」「えっ? えーっと……そうだなあ。お姉ちゃんがたまに弾いてたけど、よっぽど大事だったのかわたしは全然触らせてもらえなかったんだ。だから全然だよ」「そっか――ふふ、そうだよね。……当たり前だ…

  • 欲望(夜蘭)GL下ネタ

    「私だって、本当は夜蘭様を抱く側にまわりたいんです。抱かれる側は性にあわない……! でもあの方は私にとって上司であり神のようなお方ですから、私のような下賤の民が穢していい存在ではないのです……っ!」「えっ、じゃあ本当は嫌々抱かれてるんですか…

  • 最低の朝だ(重雲)少し背後注意

     いかがわしい夢を見た。桃琳をおのれの下に組み敷き、不貞の限りを尽くす夢を。 夢のなかの自分はまるで暴君のように彼女の体を蹂躙して、滴る雫の反射光や耳をくすぐる嬌声が、今も五感の奥深くにこびりついている。 しかし、跳ねるように目を覚ました今…

  • 目の前にある万華鏡(タルタリヤ)

     タルタリヤの横顔は、まるで万華鏡のように見るたび姿を変えてゆく。 執行官としての冷たい視線、好敵手を前にしたときのギラついた横顔――家族からの手紙を読むときの、あったかくて優しいお兄ちゃんの顔。 わたしはそれなりに近いところで色んなタルタ…

  • 何回目の君であれ(ディルック)

    「ディルックさん、『一生のお願い』って言ったことあります?」「まあ……子供の頃に、ガイアを巻き込んで。父上相手にももちろんだけど、いつだったかアデリンにも言った覚えがあるよ」「そうなんですか? ふふ、なんだか可愛らしいですね」「む……それで…

  • 食事とは(タルタリヤ)

     ――もぐ。ゆっくりと、文字通り噛みしめるように動くまあるい頬を見つめる。普段であればすっきりとしたラインを描く彼のそれが、食事のときだけ子供のように膨らむ様子を見るのが好きだった。 近頃は執行官としての職務がやけに忙しいらしく、落ちついて…

  • 不格好な背伸び(コレイ)

    「先生っ、今日は何を教えてくれるんだ……!?」 朗らかに振る舞う声と共に、可愛らしい顔がひょっこりと覗く。新芽を思わせる髪がガンダルヴァー村の温風に揺れて、陽光を反射しながら輝いていた。 いつものコレイなら宿題や勉強には少しばかり難色を示す…

  • わたしにできること(リネ)

     腕のなかで丸くなった少年の、無防備な後頭部を撫でる。規則的なように聞こえる寝息は巧妙な形をしているが、他人との共寝に慣れ親しんだイネスにとっては脆弱な偽りでしかなかった。 こうして寄り添ってベッドに入ってから、ゆうに一時間は経っているはず…

  • だめになっちゃう(ディルック)

    「君は、すぐにほっぺたがリンゴみたいになるね」 わたしの目をまっすぐに見つめながら、ディルック様はひどく満足気にそう言う。至近距離にある彼の顔はわたしには刺激が強くて、今にも爆発してしまいそうなほど、この心臓は早鐘のように動いていた。「だ、…

  • 仮面の裏には(コレイ)

     何も知らない無垢な少女の背中を見ながら、ふと物思いにふける昼下がりがある。 スメールのまばゆい太陽を、満ちあふれる雨林の自然を目いっぱい浴びながら少しずつ前に進もうとしている少女にたいして、ダスラはいつも後ろ暗い感情を抱いていた。ひとまわ…

  • 屈折(蛍/タルタリヤ前提)GL風味

     私を前にしたミラは、悪意や嫌悪をいっさい隠さずそれらすべてを顔に出す。憎悪にまみれたその目はきっと他の誰にも見せないもので、初めこそ鬱陶しくて仕方なかったはずなのに、いつしか私はその刺激的な目が向けられるのを待ちわびるようになっていた。 …

  • 膝の上の秘密(タルタリヤ)

    「……ねえ、今日はどうしたの? もしかしてなんか、調子悪い?」 無言で膝にかじりついているオレンジ頭を撫でながら、ミラはちいさく息をつく。 普段よく動く舌は今日ばかりはその力をふるわず、活発な彼らしからぬ静寂をその場にもたらしていた。何度頭…

  • あとのこと(ティナリ)

    「それじゃあ、そろそろ行ってくるね。あとのことは先輩に任せたよ」「いいのか、俺にそんな責任重大なこと押しつけて。他にもっと適任が――」「ああもう、そういうのいいから。僕は先輩に頼みたくて言ってるんだから、ウダウダ言ってないでまっすぐ受け入れ…

  • 天狗と猫又(綺良々)

    少し長めの会話文

その他

  • 無題(dngn/苗木)ふんわりネタバレ

    「あ、ねえ、詩百々さん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど――」 刹那、わたしの心臓はにわかに跳ねる。大げさに揺れそうな肩をすんでのところで押さえつけて、平静を装いながら振り向いた。 わたしの目線よりも少しだけ高いところにいた苗木くんは、ほ…