横顔と視線の先は(司)

「――元気にしてるかな」
 ぽつりと落とされた輝夜のひと言が、頭の奥に突き刺さったまま抜けないでいる。彼女の思う人が誰なのか、もはや訊ねずともわかってしまったからだ。
 輝夜の脳裏に浮かぶ人。彼女にとってはとても大きくて、けれど、向き合う勇気を持てないでいる相手は、みだりに触れるのが憚られるくらいにはデリケートな問題を抱えている。
 彼女の家庭事情を知っているからこそ、無駄な理性が邪魔する。おとぎ話の王子様のように手を引いて連れ出せない自分が、ひどく歯がゆくてもどかしかった。

 
あなたが×××で書く本日の140字SSのお題は『母さん』です
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