無題

「はいはいっ、はーい! できたよたまちゃん、おそろいツインテール!」
 言いながら、咲希は私の目の前に手鏡を持ってくる。楕円の板を薄目で覗くと、そこには普段と似ても似つかない女がいた。
 咲希と同じように高い位置で結ばれたツインテールは、いつもなら絶対にやらないような髪型だ。物珍しさと気恥ずかしさに私が何も言えないでいると、咲希は眩しい笑みを浮かべながらうきうきとした調子で口を開く。
「なんか、こうしてるとミクちゃんみたいだよね。そっくりそのままってわけじゃないけど……なんか、急にそう思っちゃった」
「え……そう、かな」
「うん! アタシ、自分の髪の毛見てもそんなふうには思わないんだけど……なんでだろ? 髪の色のせいかなあ」
 うーん、と首を傾げながら咲希は言う。その後も何やらむにゃむにゃと言っているようだったが、私は咲希の言葉が頭の奥で反響し続けていて、もう何も入ってこなかった。
 初音ミクに似ている――それは、私にとってひどく喜ばしくも、口惜しくもあるひと言だった。
 ……憧れていたのだ、かつては。カイトさんと同じ世界で生きている歌姫に。カイトさんと共に歌って、カイトさんの隣に立って、カイトさんと並び立つことをたくさんのファンに認めてもらえている、彼女に。
 初音ミクは唯一無二で、私のほしかったすべてを持っている存在だった。

 
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