春がくる(アッシュ)

 氷のように笑う人だと思っていた。まるで鋭利な刃物のような、気安く触れたら指先を傷つけてしまいかねない、そんな女性だと。
 周りとは一線を画す空気感。張りつめた何かを持っている彼女は、少しだけ離れたところで陽だまりを見つめているような、そんな印象を僕に――否、青獅子の学級の生徒のほとんどに与えていただろうと思う。
 メルセデスやアネットのように気さくな女の子たちは、それでもまったく臆することなく彼女に話しかけていたけれど……もちろん、僕も出来るだけ声をかけるよう努めていた。彼女の冷たい横顔に、ほんの一匙の寂寥を感じたからだ。
 氷はいつか溶けてしまうもの。ファーガスの過酷な冬にすら、雪解けのときは必ず訪れる。だからきっと彼女も――ウィノナもいつか、目いっぱいの笑顔を見せてくれる日がくるはずだ。
 僕はそんな氷解の一瞬を、あの日の彼女の微笑みに見た気がしたんだ。