膝の上の秘密(タルタリヤ)

「……ねえ、今日はどうしたの? もしかしてなんか、調子悪い?」
 無言で膝にかじりついているオレンジ頭を撫でながら、ミラはちいさく息をつく。
 普段よく動く舌は今日ばかりはその力をふるわず、活発な彼らしからぬ静寂をその場にもたらしていた。何度頭を撫でようとそれは変わらなくて、どうすれば顔を上げてくれるのだろうとずっと頭を悩ませている。
 もちろん、タルタリヤにだって疲れた日があることくらいわかっている。ただ、何も言わずにくっつかれているのがなんとなく落ちつかないだけだ。
「何でもないよ。そういう気分なだけさ」
「でも……」
「まあまあ、とにかく気にしないで。嫌なら離れるから」
「嫌――とかは、別にないけど」
「そう? じゃあこのままでいいよね」
 ――いつもより物言いが冷たい気がする。
 それはミラの胸のうちにある過去の記憶を呼び覚まさせて、足元から這い上がる恐怖に飲みこまれてしまうには充分なほどの「疑惑」だった。
「……言ってくれなきゃ、わかんないよ」
 震えた声でそう言えば、タルタリヤはどこか焦れたようにがばりと身を起こす。
 その頬はなぜだかほんのりと染まっていたが、今のミラにそれを追求する余裕はない。
「――まえたく、った、んだよ」
「え……?」
「甘えたくなったんだよ! それもほんと、やけに急にね。でもそんなことを言うのはちょっと格好悪いだろ? 君の前ではずっと格好良い俺でいたいからね」
 言い終わるや否や、タルタリヤは再びミラの膝に顔を埋めて黙り込んでしまう。沈黙の隙間から聞こえてきた唸り声はほんの少しくぐもっていて、膝にかかる吐息がなんとなくくすぐったかった。
 ――そんなこと、別に気にしなくていいのに。
 そのひと言は喉の奥で霧散して、結局この唇から飛び出すことはなかった。 

貴方は×××で『甘やかしてよ』をお題にして140文字SSを書いてください。

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