三日月の裏側

こがねと縁 / 完結済

スカウト前提翠風沿い、捏造要素多々

士官学校編

  • 春は新たな芽生えが見える

     鋼で出来た剣ならば、もう少し丈夫であるべきではないだろうか――は目の前で砕けている鋼の剣に、心中で悪態を吐いた。 鋼で造られた剣であるなら。このガルグ=マク大修道院の、おそらくフォドラでも有数の鍛冶職人が打った剣ならば、たかだか女が振るっ…

  • 吐息に一歩を踏み出して

     それはなんてことない朝のこと、花冠の節も中ほどにさしかかった頃の出し抜けな出来事だった。 ついつい足音を抑えて歩いてしまう癖をなんとか律しつつ、はきちんと気配を出してクロードの前まで歩いていく。相変わらず寝不足なのかそれともただ単に気だる…

  • 僕と君とで伝う汗

    「そういやぁ、ガスパール領って言うとお前の出身地じゃなかったか?」 それは、が金鹿の学級に編入して数日が経った頃のことだった。 やはりというかなんというか、はたと声を発したのはクロードだ。レアにより提示された今節の課題はガスパール領の小領主…

  • 星空の下は風が吹く

     帝国暦一一八○年。今年の士官学校における鷲獅子戦は、金鹿の学級の勝利で幕を閉じた。 本年度の金鹿の学級を受け持っていたのは、あろうことか傭兵上がりの新任教師だ。前節の事件によって他学級の教師が不参加であったことを差し引いても、よもや教師人…

  • 君の鏡であれたなら

     お願い! と目の前で頭を下げられたとき、簡単に断れる人間は果たしてどれくらいいるのだろうか。 それは疑惑や不信の意味ではなく、むしろ本人がいわゆる少数派、つまり簡単に撥ねつけてしまえる人間だからこそ浮かんだ疑問であった。 彼女は基本的に他…

  • 蒼天に映ゆる

    「おう、待ってたぜ」 天馬に跨って「いつもの場所」に向かうと、そこには相変わらずの人好きする笑みを浮かべたクロードがいた。気さくそうに目を細めてこちらを見る彼へ、返事の代わりに目を伏せてやれば小さく吐息を漏らす気配がする。その気配がご機嫌な…

  • くちびるに金剛石

     舞踏会。それは、にとっていうほど思い入れがあるものではない。 生まれが平民であることもそうだが、家の養女になってからも大して好きにはなれなかった。つるつるの正装に身を包み、輝かしい宝石をいくつも身につけ、貴族諸兄らと踊りにふける。踊り自体…

  • 始まらぬ夜明け

     彼と――クロードと共に迎える朝は、果たして何度目になるだろうか。 窓から差し込む朝陽に照らされた部屋のなか、意外と薄い胸板を撫でてみると、むにゃむにゃと何か不満を垂れながら、ぐずるように寝返りを打つのが少し面白い。こういうとき、やめろだの…

  • 白昼夢に踊る

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  • 春先の夜長

    「――なあ、。ちょっと聞いてくれるか」 それは、孤月の節も末のことだった。 月明かりに照らされたクロードの頬の輪郭を、はぼうっと眺めている。室内上部の窓枠から差し込むそれは非常に優しい光で、程よい気だるさに包まれたこの部屋をゆっくり癒やして…

戦争編

  • 君が歩んでくれるなら

     ――ねえ、クロード。私ね、あなたにひとつだけお願いがあるのだけれど…… 夢のなかに現れる彼女は、いつも決まって何かを言いかけて、そして口をつぐんでから消える。その姿はまるで何も言えないままの、一番伝えておくべきだった言葉を隠したまま離れて…

  • 駆け引きなんて脱ぎ捨てて

    「ちゃん! よかったー、あたしたちすっごく心配してたんだよお」 と連れ立って大広間に戻ったとき、出迎えてくれたのは金鹿の学級の面々だった。ラファエル、イグナーツ、マリアンヌ、リシテア、レオニー……誰も彼もが顔を明るくしてのことを見ているよう…

  • それは海にあらず

    「その……渡していいか、迷ったんだが。あいつの持ってた弓だ」 クロードが差し出したのは、拭いきれない使用感と血の跡が残るキラーボウだった。 一挺のそれは先立っての戦いで得た戦利品であり、誰の遺品かと言われたらアッシュ=デュランに他ならない。…

  • 月を想うて耽る夜

     当初の予定に、を連れてくるような運びは一切なかった。 リーガン家にはベレトのみを連れてきて、彼の顔や立場を使い貴族たちを黙らせ――もとい、交渉を有利に運ばせてもらって、あとは諸用を済ませて終わり……という算段であったのだ。いささか時間はか…

  • まるで、星が降るような

    「こんにちは、盟主様。ご機嫌いかがかしら?」 小気味よく扉を叩く音は二回。返事をする前にかけられた声色はいやに落ちついていて、クロードは少々目を丸くしながら応対のために立ち上がった。 けたたましく取っ手を鳴らしながら扉を開く。そこにいたのは…

  • 薔薇は大地に根づくもの

    「おい、クロード。君、ちゃんとさんのことを見てやっているのか?」 渡り廊下でのすれ違いざま、潜めて声をかけてきたのはローレンツだった。 その口振りから察するに――否、彼の人柄を思うに今回は決してやっかみのたぐいではなく、心からを、そしてクロ…

  • 桃色吐息は友の色

     ローレンツの言葉を疑うつもりはないが、しかしクロードの手の内に真実を確かめる術は多くなかった。 なぜなら彼がクロード=フォン=リーガン本人であるという時点で、「がクロード以外の人間と話しているところ」を見るのが難しいからだ。は人の気配に敏…

  • 頬をなぞる綺羅

     計算の通り事が運べば、おそらく決戦の日は明日。 明日になればネメシス率いる大軍勢がこのガルグ=マクへたどり着き、復讐の炎を撒き散らして灰燼の野を作らんとするのだろう。雑草のひとつも生えない不毛の大地が築かれることだけはなんとしても避けなけ…

  • 終わりの朝日

     フォドラは夜明けを迎えた。ネメシスを打ち倒し、壁を壊すための準備が整ったのだ。このままうまくいけば、クロードを長年苦しめた偏見という名の脅威を、そう遠くない未来になくすことができるだろう。 おのれに流れるフォドラの血はもうさんざ利用した。…

蜜月の閒に

↑の後日談、クロードと新婚旅行に行く短編集。捏造要素多々

  • 泰平の世にて

    「なあ、……無理にとは言わないんだが、俺と一緒に旅に出ないか?」 それは、ひどく唐突な提案だった。 ぽりぽりと頬を掻きながら、目の前の男はにそっと問いかける。ためらうような、照れたような、とても複雑な面持ちはどうにも愛おしいそれで、の頬も自…

  • 胸のあかり

    「眠れないのか?」 そう声をかけられたのは、まんまるの満月を見上げながら夜風に吹かれていたときだった。寝入っている彼を起こさないように、と注意をはらって寝台を抜けたつもりだったけれど、どうやらうまくいかなかったらしい。 天幕から出てきたばか…

  • 「おあずけ」の味

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  • ときの戯れ

     丹念に、丁寧に。慈しむように唇が触れる。薄く開いたのそれに重ねられるのは、熱くて心地よいクロードの唇だ。 つついて、なぞって、かすめては離れていく唇。今度は優しく戯れるように触れて、何かを思い出したようにまた離れて、けれどもすぐに帰ってき…

  • 今日の佳き日に

     この寝台が体に馴染み始めたのは、果たしていつの頃からだったか――少しずつ日常に溶け込んできたそれのうえで、重たいまぶたをゆっくり開く。 昨日の疲れも抜け切らないまま覚醒したのは、鼻腔をくすぐる乾酪の香りに誘われたからかもしれない。我ながら…

  • 雨に語ろう

    「ずいぶん静かに降っているわね」 天幕の端で読書に励むが、そうぽつりと呟いた。程よい雨音は集中を阻害することなく耳に入り、心地よい時間をもたらしてくれる。 天窓から見える空はすっかり雨雲に覆われているが、おかげで少し肌寒いくらいの、過ごしや…

短編

クロード

  • まどろみと熱

     寝台の軋む音で目を開ける。だるい首を少しだけ横に傾けると、そこにあったのは縁に腰掛けてひと息つくクロードの背中だった。薄ったい背中には実地訓練や課題で負った傷がいくつもあって、改めて見てみるとこれは確かに未来の同盟を背負うもの、次期盟主の…

  • 幾度も夜明けを越えた先

     彼女が毎晩、名残惜しそうに目を閉じるのを知っている。それは別に幼子の駄々っ子にならうものではなく、ただひたすら闇に落ちるような不安を覚えているからだろう。 以前、なんてことない談笑の合間にて、が「あなたがどこかへ行ってしまうのが怖い」と溢…

  • 大海原と波の色

    「あなたは、私の知らない世界をたくさん見てきたのね」 何気なく溢したであろうそのひと言が、なぜだか深く突き刺さった。遠く広がる海を見つめる瞳はまるで視界を写したようにゆらゆらと揺れていて、なんとなくあのたゆたう波のように、どこかへ消えてしま…

  • 月夜にひびく揺籃歌

     すう、すう。規則的な呼吸を繰り返す寝顔は、陽の下で見るよりいくらかあどけないように見える。 月光に照らされた白い頬を指先でなぞり、クロードは小さく息を吐いた。よくもまあこれほどぐっすり眠れるものだと、連れ添って一年と少しの月日が経とうとい…

  • ほろほろ、ほろり

    ※本編後、inパルミラ 「あれ、クロードくんそれどうしたの?」 ちょん、とおのれのまぶたをつつきながら口を開いたのはヒルダだった。 化粧に彩られた桃色の瞳には何の異常も見られず、相変わらずの愛くるしい目でもって眼前にある人間を見つめている。…

  • 絵物語と君の愛

    ※夢主が妊娠してる「ねえ、クロード。このあいだ……そう、ヒルダがセテスさんと一緒に作った寓話の話、聞いた?」 ふ、と。丸くなり始めた腹を撫でるが、傍らで読書に勤しんでいるクロードへと問いかける。伏し目がちに微笑む彼女は子を宿して早数節、立派…

  • ゆるり、蜜月

    「三周年?」 はた、と顔をあげたは、文字通り不意をつかれるままに言葉を発した。目の前にあるのはいつもどおり飄々としていて、けれどもどこか浮き足立ったようなクロードの顔である。 眩しい太陽を背に口角を上げるその表情を、半ば直感的に「好きだ」と…

  • 小さな木枠と硝子板

     かつて暮らしていた狭い家は、私にとって唯一無二の、脆く堅牢な檻だった。 その檻で閉じ込もるなか、私の関心を引いたのは壁を切り取った小さな窓だ。歪な四角形越しの景色は私にとって毒にも薬にもなり得るもので、いやに興味をそそられていたことを今で…

  • あなたを愛してしまったから

    ※無双黄燎ルートクリア後。ネタバレ注意---「ごきげんよう、盟主様。……いえ、今は国王様と呼んだほうがいいかしらね」 それは、ファーガス神聖王国――とくに王都フェルディアのような寒冷地において――にしては比較的気温も落ちついている、青海の節…

  • 揺れる藍玉、溺れる翡翠

    ※子供がいる、ネタバレある、捏造もある---「……さすがに、この時間ともなると宴も落ちついてくるわね」 露台の向こうで煌めく王都を眺めながら、はいくらか柔らかい声色でそう言った。傍らの揺りかごをまどろむように揺らしつつ、空いた手のひらは膨ら…

クロード / パロ系

  • きみがため

    ※ちょっとやらしい、現パロ 「おお……」 シャツのボタンに手をかけたクロードが数拍の後に感嘆の声をもらす。その目はどこか少年のようにきらきらとしていて、今まさに臨んでいる行為とのギャップに少し笑いそうになった。 彼の目に映っているのは先日買…

  • 手繰りし緒の先にあり

    ※転生パロ  夢に見るほど恋い焦がれた、たった一人の女がいる。 それはどことなく朧気で、けれどもひどく鮮烈ないつかの記憶がもたらしたものだった。和気あいあいとした学び舎、二人だけの逢瀬、血なまぐさい戦場、やっと掴めた細い手。そのどれもがこの…

  • 日曜のさんじ

    ※現パロ  べちょ。ずるん、ぬるり。 無様な音を立ててテーブルの上に落ちたそれを、は渋い顔をして見下ろした。ついさっき綺麗に磨いたばかりなのに、よもや早速汚してしまうだなんて一体どうしたことなのか。 透明ながらもずるずると滑り、紙一重で箸を…

  • いつかでもしもの4月1日

    ※現パロ 「――子供ができたの」 随分と久しい二人きりの昼食に舌鼓を打っていた頃、不意に告げられたのはのとんでもない言葉だ。抑揚のない声で発せられたそれは、談笑もそこそこに和やかな雰囲気を保っていたリビングを一瞬で静かにした。 うつむきがち…

  • 広がる空と紅の色

    ※現パロ--- なあ、オレンジデーって知ってるか――その一言で始まった習慣は、今年で果たして何回目になるだろう。 正直なところ、オレンジデーというイベントについてはあまり馴染みがなかった。名前くらいは聞いたことがあるな、というくらいで、よも…

  • 心根の記憶

    ※転生パロ--- 目が覚めたとき、眼前に広がっていたのは見たこともない部屋だった。 床も天井もまっしろなこの部屋に、クロードとの二人はぼんやりと立っている。他にあるのは中央部に鎮座するちゃちな造りの机と、見るからに怪しげな十本の小瓶――そし…

  • たちまちすっかり和らいで

    ※ゆる世界観の現パロ---『――クロードくん、ちゃん! おまたせー、ヒルダちゃんが迎えに来たよー』 インターホン越しに明るい声が聞こえてきたのは、元日の昼過ぎのことだった。モニターを覗くとそこには見知った顔があって、相変わらずの可愛らしさに…

リシテア

  • 臆病者の恋路

    「あんたは、どことなくクロードと同じ匂いがします」 突き刺さるような視線とともに言葉を発したリシテアは、ただの一度も目を逸らすことなく、じいとを捉えている。 事の発端は積み上がった本の山を前にうなだれるリシテアを見たことだった。彼女はひどく…