まどろみと熱

 寝台の軋む音で目を開ける。だるい首を少しだけ横に傾けると、そこにあったのは縁に腰掛けてひと息つくクロードの背中だった。薄ったい背中には実地訓練や課題で負った傷がいくつもあって、改めて見てみるとこれは確かに未来の同盟を背負うもの、次期盟主のそれに他ならないと思えた。もう少し年齢が上であるなら煙草でも吹かしそうな後ろ姿であるが、今のところクロードが煙をくゆらせているところを見たことはない。宴だの何だのと浮かれていて、時としてこんな不健全な行為に励んでいるというに、一応はそういった決まりや体裁を気にする男であるらしい。
 クロードが身動ぐ気配を感じ、ウィノナは反射的に目を閉じて寝たふりをする。ぼうっとした頭はこのまままどろみに溶けてしまいそうであったが、部屋の薄暗さや外の気配を思うに二度寝が許されそうな時間帯であるのは確かだ。ならばこのまま気持ち良く微睡んでしまうのもありかもしれない、そう思うと睡魔に抵抗する気は微塵も起きなかった。
 そうやってふわふわとした心地に身を委ねていると、ふと感じたのはあたたかい手のひらの感触だ。それはウィノナの額のうえを滑ってはまるで慈しむように優しく撫でてくる。ゆったりと額から頬に渡った手はやがて親指で眉や目尻をそっとなぞり、その傍らで何かしらをつぶやくような声もした。
 もはや睡魔の餌食となったウィノナにはその手の主が誰なのか、はたまたなんの意図を持って触れてきたのかを考える余裕はなかった。けれどもその指先の感触はひどく心地良くて、このまま意識も何もかもを委ねて覚めない眠りにつきたい、そう思ってしまうほどの安らぎをもたらすものであった。

 
20201002