日曜のさんじ

現パロ

 
 べちょ。ずるん、ぬるり。
 無様な音を立ててテーブルの上に落ちたそれを、ウィノナは渋い顔をして見下ろした。ついさっき綺麗に磨いたばかりなのに、よもや早速汚してしまうだなんて一体どうしたことなのか。
 透明ながらもずるずると滑り、紙一重で箸を避けるそれはこちらを煽っているように見えて、あまりの苛立ちに思いっきり舌打ちを披露してしまった。いやに鋭いその音はどうやら目の前に座るクロードにもしっかり届いてしまったようで、彼はどこか興味深そうに片眉を上げて惨状を見る。やがてにやにやと緩む口角は、ところてんに負けず劣らずウィノナの苛立ちを刺激した。
「あーあ、やっちまったな」
「うるさいわ……」
「お前、こういうぬるぬるしたものを食べるの本当に苦手だよな。先週はめかぶも落としてたし、その前はとろろにも苦しめられて――」
「うるさいって言ってるでしょう! 仕方ないのよ、力加減が難しいのだから」
 テーブルに八つ当たりするのを既のところでこらえ、ウィノナは雑巾やゴミ箱を取るために席を立つ。さんざ煽り倒してきたところてん……と、もちろんクロードも、去り際にしっかり睨めつけて。
 しかしそのなけなしの反抗もクロードにはあまり効いていないらしく、彼は相変わらず飄々とした様子でところてんを食べ続けていた。ウィノナがもたついているうちも彼は器用に食を進めていたのだろう、掃除の道具を持ってきたウィノナを待っていたのは、半分以上残る自分の皿と打って変わって綺麗に平らげられたもう一方、そしてやはり余裕綽々であるクロードからの揶揄である。
「今度はスプーン……いや、フォークでも使って食べるか? こう、パスタみたいに、巻いて」
「二度とところてんが食べられなくなる体にしてさしあげましょうか……」
 堪忍袋の緒はもはや、か細い糸がたった一本残る程度であろうか。
 地の底から響くようなウィノナの声に、さしものクロードも肩を跳ねさせたようだったが――彼女がぬめりのある食べ物の扱いが下手だという話は、結局二人が結婚しても、晩年になった頃であっても、からかいの種として話題にあがってしまうのだった。

 
即興二次小説/30分/うるさいところてん
20210313