柵にとらわれて

空の果て、虚のなか / 完結済

ユウキと双子の妹の話

  • 傍らの思い

    「そうか、ユウキはさすがだな。母さんに心配をかけたことだけはいただけないが――」「もう、パパったら! でも、無事に帰ってきてくれて本当によかったわ。テレビであなたの姿を見たときは、本当に気が気じゃなかったけどね? あなたの元気な顔を見たら、…

  • 不撓不屈にあこがれて

     とにもかくにもミシロタウンから離れたかったあたしが選んだのは、ホウエン地方の北東部にあるトクサネシティの周辺だった。ルネシティが近くにあるのは少し気にかかったけれど、ミシロタウンへのそれとは比べ物にならないので気にしないことにした。 トク…

  • つまさきの怪物

     あの日以来実家に顔を出す機会を増やしたのは、そらをとぶ手段を手に入れたことはもちろん、件の出来事で家族に心配をかけたという自覚があるからだ。 母さんはあっけらかんと言っていたが、オレたちが寝静まったあとに一人でさめざめと泣いていたのを知っ…

  • 糸よりも細く

    「――とはいえ、だ。勇んで出てきたはいいけど、めぼしい場所があるわけでもないんだよな……」 むげんのふえで呼び出したラティオスの背中に乗りながら、雄大なホウエン地方をぐっと見下ろした。 引っ越してきてまだ数ヶ月しか経っていないくせに、目に映…

  • 柵にとらわれて

     ――嫌な予感がする。あたしは、やけにざわざわと騒ぐ胸をおさえて、つい、その場にうずくまった。 作業の途中、ベッドの傍らで唐突に動きをとめてしまったあたしのそばに、無二の相棒であるジュカインが駆け寄ってくる。ジュカインは普段きりっとしている…

  • 愛しい人よ

     沼底に沈んでいた意識が、ゆっくりと持ち上がるような感覚。泥のようにねむるとは言い得て妙といったところで、あたしはもうすっかり熟睡できるようになっていた。 内容こそ覚えていないけれど、ひみつきちで夜を明かすたび、あたしは夢に囚われ続けていた…

  • くらやみに堕ちるような

    「今日、一回家に帰るよ。そろそろ顔見せときたいから」 オレがそう言ったとき、は一瞬淋しそうにしながらも、すぐに笑って頷いてくれた。 その笑顔に胸のざわつきを覚えたのは確かだけれど、あまり過干渉になっていてもいけないと思い直して、素直にへ別れ…

  • 種なきところに芽など出ず

    ※オリ地方要素あり ---  頬をくすぐる風は花の香りをまとっていて、自然と笑みがこぼれてしまう。香しくて爽やかなこの町の風が、あたしはとても好きだった。 ここは、カバタ地方モレットシティ。地方最大の病院があるこの町は、シャスラの花畑と呼ば…

  • 絆をむすんだ

     結局、昨夜はうまく寝つけなかった。柔らかなベッドのうえで何度も寝返りを打って、目を閉じた先にある、混沌とした世界に身を委ねたりもしたけれど、当然その混沌があたしを助けてくれることはない。むしろあたしの意識をどんどん黒く渦巻かせて、目の下に…

  • あとがき

    普段あとがきなんてそうそう書かないんですが、このお話はちょっと言いたいことがあったので例外的に置いています。先日blogのほうでもちょろっと申し上げたんですが(移転前の話なので今のMEMOにはないです)、夢主がオリ地方に行くことはずっと前か…

短編

センリ

  • 「パパ」だから

    「パパ! パーパァ!」 ひょこん、と現れた愛娘の姿にセンリの顔が綻んだ。トウカジムの裏手にある広場で鍛錬を行っていたのだろう、今まさに臨戦態勢に入っているヤルキモノへ静止の意を込めて手のひらを見せる。険しく顔を歪めていたヤルキモノもセンリの…

  • 追いたくなって

     しんしんと音もなく降り落ちる雪は、ホウエン地方でまみえるのはひどく珍しい銀色にこの世界を染めてゆく。かつて暮らしていたジョウト地方――アサギシティでは雪こそ時おり見えたけれど、住んでいたのが海際ということもあって積もることはほとんどなかっ…

  • 欲しかったもの

     それは、ポカポカ陽気の気持ちいい春の出来事だった。束の間の小休止ではないけれど、あたしはふとミシロタウンに立ち寄って実家で羽を伸ばしていたのだ。 そんななんてことない昼下がりのこと、久しぶりに家に帰ってきてテンションが上がってしまったのだ…

  • 夢を託して

     スゥ、とセンリは深く息を吸う。 吸い込んだ空気を丹田まで落とし込み、数拍の後にゆっくりと吐き出した。 閉じた瞳を開き、目の前に鎮座するケッキングを見据える。センリが構えればケッキングも臨戦態勢をとり、やあやあ今こそそのときだと言わんばかり…

  • 生まれたことこそ敗北だ。

    ※恋愛色強め --- 「じゃあママ、私はそろそろ行くね。家のことは頼んだよ」「はいはい、いってらっしゃい」 ――あたしのママは、パパのことが大好きだ。  パパはたまに帰ってきてもポケモンの話ばかりで、けれどママはそんなパパの話を軽く流しつつ…

  • ぼくのあたしのプロローグ

     あたしが生まれたあの街は、ジョウト地方のアサギシティ。ホウエン地方からは遠く離れた港町で、船乗りや灯台、市場などなどとにかく活気あふれる街だった。 少し歩けばすぐそこは海岸に面しており、夜になるとチョンチーやヒトデマンが海を照らしてそれは…

  • 燃える闘魂

     パパのたたえる闘志というのは、いうなれば静かに燃える炎だ。 あたしはバトルに臨むときの、パパの真っ赤な瞳が好き。別に目の色そのものが赤く染まるわけではなくて、瞳の奥にある炎さながらの闘志、熱意、気合い、そして愛情すべてをこめたあの瞳が、ま…

  • 亀裂なんて入らない

     鏡を見るのが嫌いだった。 年をとるごとに母親に似てくるこの顔は、おのれの想い人が――唯一無二の父親であるセンリが他の女と結ばれて、生涯を共にしようと決意し、子を成したというこのうえない証左である。 おのれの存在がひどく疎ましかった。父親を…

ユウキ

  • 千尋に至る海の溝

     ホウエン地方ミナモシティ――ここには数々の美術品を展示した立派な美術館がある。 地方全体を見ても最大級と言って過言ではないこの建物は、かつてアサギシティに住んでいた頃にも何度かテレビで見た覚えがあって、実を言うとその頃から気になってはいた…

  • 陸にも海にも勝るもの

     超古代ポケモンのニュースを見るたび、ぐじぐじと心の奥底を抉られるような気持ちになる。 あたしのなかでこの話題は半ばトラウマとなっていて、それはグラードンやカイオーガにレックウザなど、超古代ポケモンやそれに連なるポケモンの名前を見るだけで吐…

  • 雌のさえずり

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