燃える闘魂

 パパのたたえる闘志というのは、いうなれば静かに燃える炎だ。
 あたしはバトルに臨むときの、パパの真っ赤な瞳が好き。別に目の色そのものが赤く染まるわけではなくて、瞳の奥にある炎さながらの闘志、熱意、気合い、そして愛情すべてをこめたあの瞳が、まるで赤いもののような錯覚を起こさせる。パパが好んで身にまとうジャージよりも、あたしやユウキの服よりも、赤く、紅く激しいそれは、真正面で立ち向かうあたしと仲間たちの感情ですら熱く燃え上がらせるのだ。
 パパとのバトルはとても楽しい。もちろんなかなか……というか、ジム戦ならまだしも本気のパパにはまだ手も足も出なくて悔しい思いもするのだけど、それでもあたしはパパとのバトルが好きだ。負けた悔しさも自分の糧になるような気がするし、パパはいつもあたしのことを励ましてくれる。ここは良くなかったけどこっちはだいぶ改善されていたよ、前よりうんと息があってきた、どんどん強くなっているね――そうやってあたしのことを褒めて伸ばしてくれるのだ。
 あたしもいつかああなれたら。あんなふうに、パパと同じような闘魂をこの目に宿すことができたら、そうしたら胸を張ってパパの娘と言えるのだろうか。
 あたしにはまだ勇気がない。まだ、というか、いつの間にかなくなってしまった。ユウキとともにホウエン地方のジムをめぐる旅に出て、時おりハルカともバトルをして、たくさんのジムバッジを集めて、行く手を阻むマグマ団を退けて……あたしなりに強くなっているはずなのに、少しずつ、けれども確かに開いていくユウキとの「差」に打ちのめされて、気づけば自信というものをすっかりなくしてしまった。
 だからあたしは旅の途中でちょくちょくトウカジムを訪れる。パパに会って、バトルをして、ケッキングたちに遊んでもらって、うしなった自信や心の傷を癒してこないと頑張れないから。
 けれどもちろんこのままうじうじしているわけにもいかないわけで、あたしはまた今日も旅に出る。次の目的地はヒワマキシティ、ツリーハウスが有名な景観の美しい町だ。ジムリーダーのナギさんはひこうタイプ使いと聞いているから、あたしのパートナーであるジュカインはあまり出番がなさそうだけれど……でも、そこを切り抜けられたらあたしはまたひとつ前に進むことができるはず。欠片だけでも自信を取り戻すことができるかもしれない。
 だからあたしは立ち向かう。いつかパパのように、ううん、パパですら驚かせるほどの炎をこの胸に秘められるその日を、ほんの少しだけ夢見ながら。

 
20201101