追いたくなって

 しんしんと音もなく降り落ちる雪は、ホウエン地方でまみえるのはひどく珍しい銀色にこの世界を染めてゆく。かつて暮らしていたジョウト地方――アサギシティでは雪こそ時おり見えたけれど、住んでいたのが海際ということもあって積もることはほとんどなかった。
 ゆえになんだか新鮮なこの雪景色のなか、あたしはザクザクと霜を踏み鳴らす音を聞きながらトウカシティを目指している。ミシロタウンからコトキタウンを経由してトウカシティまで、大人でも徒歩30分かかるこの道のりは足元が雪であることも相まっていつもよりなんだか険しい気がした。えっほ、えっほ、息が上がるけれど苦しさがないのは、なんとなく気分が高揚しているからなのかな。
 いつもパパが通っているこの道を、本当に「なんとなく」追いたくなって、徒歩。エアームドに乗っていけばすぐなのだけれどあの子もきっと寒いだろうし、それになんだか今日は歩いてゆきたい気分だったから。パパもきっとこのなかを歩いていったんだなって、残っているかもしれない特徴的な足跡を探しながら、身体は寒さに震えていても心はなんだか暖かい。あたしはほかでもない今日という日に、パパと同じ道を進んで、今朝のパパの後を追って、そうして大好きなパパに会いたかったの。
 ざくり。一歩進めばあたしの足跡だって残る。――いつかあたしの足跡も、誰かに追われるようになるのかな? なんだかむず痒くなるなあ。
 そんな取り留めもないことを考えていると、もうコトキタウンが目の前というところまで迫っていた。いつもならそこかしこから顔を覗かせる色とりどりの草花は真っ白なお布団に姿を隠しているし、同じくケムッソやジグザグマなどもあまり見かけないから、きっとここいらに生息する野生ポケモンたちも身を寄せあうようにしてこの寒気を乗り越えようとしているのだろう。
 しんと静まり返った101番道路を走り抜け、あたしはようやっと辿り着いたコトキタウンのポケモンセンターへ飛び込んだ。冷えた身体を暖めるための、ちょっとした小休止だ。売店でホットココアを頼みながらふと受付に目を向けると柔和に微笑むジョーイさんと目が合って、手招きのままに近づけば、今朝パパもここに来たのだということをこっそり教えてくれた。
「おやこそっくり」その一言があたしにとって何よりものご褒美であること、きっとこのことは誰にだってわからないのだろうけれど。いてもたってもいられない衝動のままホットココアを飲み干して、あたしはでんこうせっかのごとくポケモンセンターを飛び出したのだった。

 
ツイッターで見かけたお題?みたいなものを書いてたらなんやかんやで長くなってしまった上だいぶ逸れてしまったな、というやつでした
20170116