もりをみるひと

初恋のつぼみ / 完結済

ナタネと夢主の出会いから色々

  • 恋しちゃいました七年前

     ここはシンオウ地方ハクタイシティ――の、外れにあるハクタイのもり。 木々が鬱蒼と生い茂り真っ昼間でも薄暗く翳っているこの場所は、浅い場所なら森林浴にうってつけの癒やしスポットであるけれど……ひとたび森の奥深くまで足を踏み入れれば、一転して…

  • 勝っちゃいました三年前

     自動ドアを目の前に、木に囲まれた焦げ茶の屋根をぐっと見上げる。 ここに来たいと思ったのはいつだったか――あれは確か四年ほど前、彼女がジムリーダー候補だと噂され始めた頃だったろうか。「……待っててください、ナタネさん」 策はある。上手くいく…

  • アタックしてます十七歳

     りんりんしゃんしゃん。かわらずのいしを咥えたリーシャンがそこいらを跳ねまわる度に、心を癒やすような鈴の音が鳴り響く。「ピアー、あんまり遠くまで行かないようにね~」 に声をかけられて喜んでいるのだろうか。リーシャンはさっきよりも高らかに、ひ…

  • 木の葉の音は彼らの警鐘

     ハクタイシティの脇に鎮座するハクタイのもりは、夜になるとその薄気味悪さゆえにほとんど人を寄せつけなくなる。 洋館付近はもはや肝試しのレベルをゆうに越え、新人トレーナーはもちろん地元の人間やオカルト好きですら立ち入れるような場所ではなかった…

  • 今度は僕の番ですよね!

     必死に戦うロズレイドやチェリムに、指示のひとつもしてやれない自分がひどく腹立たしい。 けれど、もう、動けなかった。腰は完璧に砕けてしまって、もはやにじって距離をとることすら困難となってしまっている。それほどまでに恐ろしい。 洋館から飛び出…

  • 追懐と友情と興味と寂寥

    「……よく似てるわ」 無意識に口からこぼれた言葉は、呆れ半分感心半分といったところだろうか。 あの一件以降。逢瀬というにはまだ少し遠いものの、と会う機会は前にも増してぐっと増えた。自分の気持ちが彼に傾き始めたこともあり、会いたいと願ってこの…

  • 触れたくて触れられない

    「あらー……」 相も変わらずハクタイのもりの切り株に座り込んでいたナタネは、ふと現在時刻を確認しようとポケッチを覗き込んだ。近頃ジムへのチャレンジャーが増えたおかげで疲労が溜まっており、どうにもボーッとしてしまう時間が増えたせいでどれくらい…

  • 森の二人とキューピッド

    『なるほどねえ…』『珍しく焦ったようだな。お前らしくもない』「……うう」 定番の切り株でうなだれながら、ヘッドセットに手を当てて唸る。何度も落とされるため息はとどまることを知らず、木々のこうごうせいを促すようでもあった。 ポケギア機能にて通…

短編

ナタネ

  • ハッピーハッピーバースデー

    「くん、お誕生日おめでとう!」 ぱん! という小気味良い音と共にかけられたのは、ハツラツとした祝辞の言葉。 ワンテンポ、否、ツーテンポほど遅れて肩を揺らしたは、にこにこと楽しげに笑う恋人――ナタネの顔をまじまじと見る。彼女の手に握られている…

  • 猛り、くすぶる

     僕がハクタイジムを訪れると、ナタネさんはあからさまに嫌な顔をする。「嫌な顔」というか、ひどく戸惑ったように視線を彷徨わせるのだ。 その感情の出処がどこにあるのかを僕はよく知っていて、だからこそ何度も何度も、足繁くここに通ってしまうのだけれ…

  • 君の名は……?

    「そういえばくん、あたしずっと気になってたことがあるんだけど」「なんですか?」「この本に出てくる果物……そう、これは『ブルーベリー』じゃない?」「そうですね~」「でもこのガブリアスは『ブルベリー』って名前でしょ。これって何か意味があるの?」…

  • ここにいる理由

    「そういえば、くんってテンガンざん越えたことある?」「あると思います?」「思わない。そもそもハクタイの外に出ないよね」「そうですねえ、家とハクタイのもりを往復する日々ですよ」「なんとも優雅な……でも、たまにはヨスガとか行ってみたくならないの…

  • おはようから、おわりまで

     ナタネさんの家に入り浸るようになってから、毎朝良い香りにつられて目が覚めるようになった。 それはナタネさんが愛情たっぷりに育てているお花たちのおかげでもあるのだが、それよりももっと僕の鼻腔を擽ってくれるものがある。 重たいまぶたを開き、見…

  • 今年も一年

     僕たちの年末年始は、ナタネさんの家や彼女のご実家で過ごすことが決まっている。決まっている……というか、自然とそういうふうになった。 きっかけになったのはナタネさんの家に転がり込んで初めての年末、実家に帰るという彼女のことを見送った日のよう…

  • 伝播、鏡、もしくは意図して

     最近、くんはよくあたしにひっついてくる。ひっつくというか、抱きついてくると言ったほうが正しいだろうか。 それは正面からだったり後ろからだったり、寝るときなんてずーっと離してくれなくて。別に嫌な気分になるわけじゃないからやめてなんて言うつも…

  • 傾けてくれるその耳を

     華奢な首筋に顔をうずめて、すん、とひと嗅ぎ。愛おしい人の芳しい香りに胸を落ちつけて、はふにゃんと顔をとろけさせた。夜、二人でベッドに入るときは、いつもこうしてナタネの存在を味わっている。 ナタネは、いつもいい匂いがする。それは彼女自身の体…

  • Stairs

     ――ねえ、くん。あたしとデートしない? それは、なんてことない夜のことだった。ソファでサイコソーダ片手に雑誌をめくっていたへ、ナタネが声をかけてきたのだ。 僕があなたからの誘いを断ると思ってるんですか――そんな言葉をすっかり飲み込んで、脈…

  • 柱の影から誰が見る

    「くんっ! ほんっっ……とーに、ごめんなさい……っ!」 パァン! と勢い良く手のひらを打ち鳴らすナタネさんは、僕に向かって思い切り頭を下げている。 ひどく申し訳なさそうな様子は逆に罪悪感すら湧いてしまうほどで、見ていられなくなった僕はすぐに…

  • こうかは ばつぐんだ!

    「あっ……そ、そういえば、くんってじてんしゃ乗れないんだっけ……」「…………」 新しいじてんしゃがほしいんだよね――そう言ったのはナタネだった。 あたし一人じゃ見方が偏るかもしれないし、よかったら一緒に選んでもらっていい? 愛する人からの可…