猛り、くすぶる

 僕がハクタイジムを訪れると、ナタネさんはあからさまに嫌な顔をする。「嫌な顔」というか、ひどく戸惑ったように視線を彷徨わせるのだ。
 その感情の出処がどこにあるのかを僕はよく知っていて、だからこそ何度も何度も、足繁くここに通ってしまうのだけれど。
「あ……あららら、シラシメくん。いらっしゃい、今日は何のご用?」
「えーっと……えへへ、ナタネさんに会いに来ました」
「うっ……そ、そうなんだ――」
 ああ、ほら、まただ。ジムの自動ドアが開くたびにジムリーダーらしくそちらに目を向け、チャレンジャーを迎え入れるための準備をする勇ましいナタネさんは、僕のすがたを目に入れた途端その勢いをなくしてしまった。足元にじゃれついていたチェリンボを抱きかかえ、視線をうろうろとあちらこちらに向けながら、ひどく気まずそうに沈黙を連れてくる。
 どうしてそんな顔をするのか。なにゆえ彼女は僕を避けるのか? その理由はとても簡単で、つまるところ僕がナタネさんに好きだと告白したからだ。
 ずーっと昔、ハクタイのもりでゴーストポケモンに襲われていた僕を、ナタネさんは持ち前の正義感をフルに発揮して助けてくれた。自分自身もおばけポケモンがこの上なく苦手なくせに、それでも顔も知らないような僕を身を挺して救ったのだ。
 あの日から僕にとってナタネさんは憧れの人になって、そしてその想いは歳を重ねるごとに強く、激しいものへと変わっていった。その気持ちをありったけ伝えたのがつい先日……なのだけれど。
 僕の告白に答えを出さないまま逃げてしまったナタネさんは、それから急によそよそしくなってしまったのである。
 もちろんその理由やナタネさんの気持ちがわからないわけじゃない。告白から逃げられたことこそいただけないが、それでも僕とどう接すればいいのか、どんな顔をしたらいいのかわからないという気持ちだけなら理解できる。
 ても――否、だからこそ、僕はナタネさんをズルいと思ってしまうのだ。返事を問いつめないままこうしてジムまでやってくる僕のことを、あなたは一度だって突っ返したりしないじゃないですか。
 今ここでまた、僕があの日と同じようにあなたに想いを伝えたとき。どうせあなたは僕の前から、逃げていってしまうくせに。

×××へのお題は『好きだ、って言ったら逃げるくせに』です。
#shindanmaker
https://shindanmaker.com/392860

20210304