Adore

冬枯れの花嫁 / 完結済

タルタリヤと夢主の出会いから色々。旅人は蛍固定

  • 冬国の香り

     わたしが璃月へやってきたのはいわゆるただの気まぐれで、それほど大した理由じゃない。 まず、わたしはあの町から――甘くて優しい夢を見せてはそれらをすべて焼き尽くした、あの牢獄から抜け出したかっただけ。しあわせな思い出のいっさいは暴風によって…

  • 誰よりも殺したい影

    「こんにちは、お嬢ちゃん。また会ったね」 その人は、今日も今日とて飽きることなくわたしに話しかけてきた。 先日知り合ったばかりの「公子」タルタリヤは――タルタリヤさんは、何かにつけてわたしに関わってくるようになった。道端ですれ違ったときはも…

  • 辟斐?繧医≧縺ェ蛹也黄

     夢中になって駆けている最中、とうとうわたしの両足はもつれ、その場に倒れ込んでしまった。璃月港を飛び出してから気づけば人気のない郊外まで出てきてしまっていたらしく、転んだわたしを助けてくれる人なんて、当たり前だがどこにもいない。 痛む膝を押…

  • 手のひらより滲む情愛

     次に目を開けたとき、わたしの視界には上質な細工の施された天井が広がっていた。 その文様が璃月の形式であることはなんとなくわかるけれど、自分の泊まっていた旅館にも、ご飯を食べたお店にも、こんなものはいっさいあらわされていなかった。これがひど…

  • ヒーローは二度とやってこない

     あれから、タルタリヤさんは前にも増してわたしのことを気にかけてくれるようになった。否、気にかけるというか、やけについてくるようになった、といったほうが正しいかもしれない。 ……わかっている。彼の目に、わたしがどう映っているのかくらい。彼に…

  • 海のような怪物

    ※海に身投げする描写があります --- 「――すみません。長期間、お世話になりました」 旅館をチェックアウトするとき、不思議と心は凪いでいた。 鍵を返す際には若旦那さんが優しく笑顔を向けてくれて、そのあたたかさに溢れそうになった涙をぐっとこ…

  • あなたがきらいで仕方ない

     もう、二度と目を覚ましてやるもんかと思っていた。わたしにとって目覚めは絶望と同義であり、それを迎えるたびに耐えがたい苦痛に囚われてしまうからだ。 だのに、意志に反してわたしはまた非情な朝を迎えてしまった。真っ白な天井をぼんやり眺めながらと…

  • 親愛なる君へ

     彼女の寝顔を見るのはこれで三度目になるだろうか。眠っているとそのあどけなさはひときわ強まり、その内に秘めている「争いの種」なんて微塵も感じさせない。 腕のなかで寝息を立てはじめた彼女をそっとベッドに寝かせたあと、隣に寝転がってみたり、ベッ…

  • 夕暮れの黒猫

    「……で、そのプレゼントがこのドレスってわけ」 試着室から出てきたは、どこか恨めしそうに俺のことを睨めつけてくる。 小柄な体型の彼女であるが、俺の見立てたドレスは想像以上によく似合っていた。漆黒のそれは彼女の秘めたる種を引き立てるようであり…

  • 君の答え

    ※軽度の嘔吐描写あり--- を一人前の戦士に育て上げるにあたって、まず一番にやるべきこと。それは、彼女の抱えた弱点――いわゆるトラウマ、心の傷をすっかり拭ってやることだった。 恐れは逃げにつながる。敵に背中を見せるようなヤワな人間じゃあ高み…

  • どうにもままならなくってさ

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  • 「公子」の導き

     人間には、生まれつきの素質というものがある。それはいわゆる才能と呼ぶべきもので、多かれ少なかれその人の運命を決定づけるものであるだろう。 しかし、結局のところそれもただの判断基準のひとつでしかない。最終的には当人の信念や経験、それら様々な…

  • 冬枯れの花嫁

    「公子様は、あの娘が恐ろしくないのですか」 そう持ちかけてきたのは、先日共に仕事をしたデットエージェントの一人、ラヴィルだ。北国銀行の近く、俺が一人で黄昏れているところを見計らって話しかけてきたあたり、どうやら至極真面目かつ、大きな声では言…

  • あとがき

    たまにあるあとがきのコーナーです。色々練り直したりなんだりしながら書いた難産シリーズだったんですが、無事に完結させられて安心しました……このお話を書くうえでちょこちょこスネージナヤ(ロシア)について調べたりしてたんですが、おかげであのあたり…

短編

タルタリヤ

  • 子供のような横顔で

     たくさんの荷物が届いている。フロントから運ばれたそれらは入り口の扉前をこんもりと占拠していて、少々身をよじらなければ出入りに支障が出るほどだ。 なぁに、これ。口にしてから呆然とそれらを見る。差出人は重なる荷物のせいでよく見えなかったが、あ…

  • 今度はすっかり知らん顔

    「……何が、ほしいの」 この身を抱え込む両腕へ、ひどく唐突な問いかけをした。  ……あれから。スネージナヤより送られてきた宝の山を二人で仕分けしたあと、幼気な弟妹、気遣わしげな兄姉、優しそうな両親による手紙を確認して――さすがのタルタリヤも…

  • あなたに許された世界

     手のひらのうえで揺れる銀色は静かに陽光を反射していて、その鋭い光が暗がりに慣れた目に刺さる。突然視界を覆ったそれに思わず顔をしかめながら、それでもは手をとめることなく、その物体をころころと遊ばせていた。 それは何度か転がしているうちにぽん…

  • ショッピングでも行かないか?

    「連続少女失踪事件ねえ……」 スチームバード新聞の一面を陣取るその名称に、思わず眉をひそめてしまった。このフォンテーヌでは何らかの事象によって複数人の少女が行方不明となっており、それらをひとつの事件として関連づけているらしい。「少女」という…

  • 釣り糸の向こう側に

     ぽちゃん。あからさまな音を立てて落ちくれた釣り針に、背後に控えていたタルタリヤが肩をすくめたのがわかった。集まっていた魚たちは突然の無法者によってさっと四散し、目の前にはただひたすらの静寂が残るのみである。 ――失敗だ。この結果が良くない…

  • 相互

     ――タルタリヤが失踪した。その知らせをわたしにもたらしたのはあの女だった。 わたしに許されなかったメロピデ要塞への潜入任務も、請け負ったのはやはりというべきか、皆に信頼されているあの女だった。 そもそもとして、このフォンテーヌに来て不調を…