子供のような横顔で

 たくさんの荷物が届いている。フロントから運ばれたそれらは入り口の扉前をこんもりと占拠していて、少々身をよじらなければ出入りに支障が出るほどだ。
 なぁに、これ。口にしてから呆然とそれらを見る。差出人は重なる荷物のせいでよく見えなかったが、あのタルタリヤが素直に受け取っているあたり、少なくとも彼にとって負担になるようなものではないのだろう。
 時刻は現在、深夜一時。つい先ほど帰ってきたばかりのタルタリヤは、その甘ったるい顔にほんの少しだけ疲れを滲ませている。シャワーを浴びたばかりのタオルを被った横顔が、いつもよりおとなしい頭髪からいくつも雫を滴らせていた。

「プレゼントだよ。もしかしたら、とは思ってたけど、まさか当日に間に合うなんて思ってなかったな。受け取るのはちょっと遅くなっちゃったけどね」

 表情とは裏腹に明るい声色が、この荷物の山が好ましいものであるという推測を裏づける。
 ……プレゼント。当日に、間に合わせる。それらから導き出される答えは、ミラの背中に嫌な汗をじんわりと伝わせた。

「もしかして……タルタリヤ、今日、誕生日?」
「え? そうだよ。正確には数日前だけど……あれ、言ってなかったっけ」
「…………」

 沈黙を肯定と受け取ったらしいタルタリヤは、ごめんね、と小さく笑ってミラの隣をすり抜けたあと、大きな手のひらとたくましい腕でそれらを思い切り抱え上げて、部屋の奥へと運びはじめた。これから開封するのだろう。運び出す横顔はどこか子供のようにきらきらしていて、プレゼントたちへの期待度が高いことを視覚から知らしめてくる。
 ……誰からのプレゼントなのだろう、なんて、考えなくてもわかることだ。タルタリヤがここまで気を良くするのはだいたいが家族絡みのことで、ひどく丁重に扱っていることからも思い入れのほどがよくわかる。
 仮にこれが、自分の知らない彼の歴史のなかに存在する「大切な人」からの贈り物であるなら、きっと彼はこちらに見せびらかすような調子で開封したりはしない。……それほどまでにこの男を信頼している自分が、ひどく腹立たしかったが。
 壁際でぼうっと考え込んでいると、やがて荷物をすべて運び終えたタルタリヤが手招きしているのが映る。彼はまるで宝箱を前にした子供のように無邪気な顔で、ミラのことを見つめていた。

「ほら、ここ。座って。一緒に開けよう」
「な、なんで……一人で開けなよ。あなたへのプレゼントでしょ、せっかく家族からのなんだし――」
「楽しみは分かち合いたいだろう? それに、いつか君にとっても家族になるかもしれないんだから。ほーら、遠慮しないで」

 言うが早いか、タルタリヤは力強い腕でミラのことを引き寄せて、半ば無理やり膝のうえへと座らせてしまった。一度抱え込まれたら抵抗しても無意味なのはさんざ教え込まれているので、この状況に持ち込まれた今、ミラの頭から「抵抗」の二文字はさっさと消えていってしまう。
 ――いっつもこうだ。相手の都合でねじ伏せられて、結局されるがままになって、でも、別にそれほど嫌じゃない。目の前にある楽しげな横顔もまた、ミラの弱みを優しく握って、ぐちゃぐちゃにする。
 もう、何を言っても無駄なんだろうな――そんなある種の諦めは、やがてミラの意識を机のうえに並べられたプレゼントの数々へ導くのだった。

 
2023/07/20