曇り空、晴れぬゆえ
についての無用な憶測と噂が這いまわるのに、そう時間はかからなかった。 雑音交じりの言葉はいやに陰湿でねちっこくて、直接彼女の耳に入ればどんな傷を負うかわからない。できることならそれらすべてを大人しくさせたいが、人の口に戸は立てられぬという…
ポケモン 胸中に咲く花の名は 降る、降る、なにが?
天泣
『とりあえず、この子はあたしが面倒見とくよ。リーダーとはいえあんたは男だし、女のあたしといたほうが何かと都合がいいだろうからね』 ヨネに手を引かれるは、どこか物珍しそうに集落をきょろきょろと見まわしつつ、やがて見えなくなっていった。突然の出…
ポケモン 胸中に咲く花の名は 降る、降る、なにが?
夜露とともに綻ぶ花よ
びしょびしょの幼子は依然として不安そうな顔をしていたが、きょろきょろとあたりを見まわしながらも、おとなしくヨネの後ろについてきた。 家のなかに彼女を招き入れ、手近なところにあった手ぬぐいを渡す。日用品の使い方は体が覚えているようで、びしょ…
ポケモン 胸中に咲く花の名は 降る、降る、なにが?
夕立ちの向こうに
――山が泣いている。そんなことを言い出したのは、曇天に目を向けて険しい顔をするヨネだった。 彼女の勘は当たるのだ。たとえば彼女が「胸騒ぎがする」と言えばつまみ食いがバレたし、「風邪引くよ」と言われた次の日はだいたい寝込む羽目になった。それ…
ポケモン 胸中に咲く花の名は 降る、降る、なにが?
さいごの機会
あれから、はまるで見違えるように元気になったと思う。 その活力の理由が無理な妖魔退治をしなくなったからか、それともストレス源が減ったからなのかはわからないが、とにかく以前よりも生き生きし始めた彼女のすがたを見るのは、ぼくとしてもとても喜ば…
一片冰心 原神 瑕
あなたとならばどこまでも
人工島パシオでの生活にも慣れてきた今日この頃、グラジオさまはようやっと安らいだ様子を見せてくださるようになった。 このパシオでのみ普及している独自のバトルスタイルに、数多の地方からやってきた強者との息もつかせぬバトルの日々。刺激的な毎日は…
きみは太陽、ぼくは月 ポケモン 短編(グラジオ/ポケマス)
いいだろうか
※数年後if---「キスをしても、いいだろうか」 ことん、と。 まるで物を落とすかのような、不意にかつ唐突に言葉が吐かれた。言葉の主はグラジオで、呟くようなそれは確かに目の前にいる女性――へと向けられている。 グラジオの顔色は変わらなかった…
きみは太陽、ぼくは月 ポケモン 短編(グラジオ/SM)
たとえこの手が折れようと
恭しく頭を下げる姿はどこか機械的でもあった。どことなく虚ろで人形のような、人らしい感情や営みの感じられない「器」のようなその姿。 よろしくお願いいたします、極力失礼はないよう努めますので。抑揚を限界まで削ぎ落としたような語り口であるが、少…
きみは太陽、ぼくは月 ポケモン 短編(グラジオ/SM)
アイ
今日のグラジオさまはなんとなく挙動不審だ。 わたしの顔をちらちらと見たり、そばに寄っては口を開きかけ、そして閉じたり、後ろ手に何かを持っているような素振りを見せたり、とにかくいつもと違うお姿を見せてくださる。 わたしとしてはただ「かわいら…
きみは太陽、ぼくは月 ポケモン 短編(グラジオ/SM)
おはよう、だいすき
「グラジオさま、グラジオさま。起きてください、もう朝ですよ」 エーテルパラダイス奥のお屋敷、グラジオさまの自室にて。まっしろなベッドにかかるまっくろなお布団に手を添えながら、わたしはグラジオさまに呼びかけている。 時刻は午前7時12分、オニ…
きみは太陽、ぼくは月 ポケモン 短編(グラジオ/SM)
お気づきですか、デートです
くい、と背後から手を引かれて立ち止まる。考えるより先に振り向けばそこにいたのは案の定グラジオさまで、どこか居づらそうに視線をさ迷わせながら口を開いては閉じていた。どうしましたか、そう訊ねるとやはり口をもごもごと動かして小さな声でお返事をく…
きみは太陽、ぼくは月 ポケモン 短編(グラジオ/SM)
いつかの話
「アローラには、カントーやジョウトの文化がうまく溶け込んでいますよね」 わたしは今、財団の職務を全うするため、グラジオさまについてマリエシティへ出向いている。 少し時間があいたので2人でぶらりと街をぶらついてみたのだけれど、お店の軒先に並ぶ…
きみは太陽、ぼくは月 ポケモン 短編(グラジオ/SM)