ポケモン

生まれたことこそ敗北だ。

※恋愛色強め --- 「じゃあママ、私はそろそろ行くね。家のことは頼んだよ」「はいはい、いってらっしゃい」 ――あたしのママは、パパのことが大好きだ。  パパはたまに帰ってきてもポケモンの話ばかりで、けれどママはそんなパパの話を軽く流しつつ…

夢を託して

 スゥ、とセンリは深く息を吸う。 吸い込んだ空気を丹田まで落とし込み、数拍の後にゆっくりと吐き出した。 閉じた瞳を開き、目の前に鎮座するケッキングを見据える。センリが構えればケッキングも臨戦態勢をとり、やあやあ今こそそのときだと言わんばかり…

欲しかったもの

 それは、ポカポカ陽気の気持ちいい春の出来事だった。束の間の小休止ではないけれど、あたしはふとミシロタウンに立ち寄って実家で羽を伸ばしていたのだ。 そんななんてことない昼下がりのこと、久しぶりに家に帰ってきてテンションが上がってしまったのだ…

追いたくなって

 しんしんと音もなく降り落ちる雪は、ホウエン地方でまみえるのはひどく珍しい銀色にこの世界を染めてゆく。かつて暮らしていたジョウト地方――アサギシティでは雪こそ時おり見えたけれど、住んでいたのが海際ということもあって積もることはほとんどなかっ…

「パパ」だから

「パパ! パーパァ!」 ひょこん、と現れた愛娘の姿にセンリの顔が綻んだ。トウカジムの裏手にある広場で鍛錬を行っていたのだろう、今まさに臨戦態勢に入っているヤルキモノへ静止の意を込めて手のひらを見せる。険しく顔を歪めていたヤルキモノもセンリの…

こうかは ばつぐんだ!

「あっ……そ、そういえば、くんってじてんしゃ乗れないんだっけ……」「…………」 新しいじてんしゃがほしいんだよね――そう言ったのはナタネだった。 あたし一人じゃ見方が偏るかもしれないし、よかったら一緒に選んでもらっていい? 愛する人からの可…

柱の影から誰が見る

「くんっ! ほんっっ……とーに、ごめんなさい……っ!」 パァン! と勢い良く手のひらを打ち鳴らすナタネさんは、僕に向かって思い切り頭を下げている。 ひどく申し訳なさそうな様子は逆に罪悪感すら湧いてしまうほどで、見ていられなくなった僕はすぐに…

Stairs

 ――ねえ、くん。あたしとデートしない? それは、なんてことない夜のことだった。ソファでサイコソーダ片手に雑誌をめくっていたへ、ナタネが声をかけてきたのだ。 僕があなたからの誘いを断ると思ってるんですか――そんな言葉をすっかり飲み込んで、脈…

傾けてくれるその耳を

 華奢な首筋に顔をうずめて、すん、とひと嗅ぎ。愛おしい人の芳しい香りに胸を落ちつけて、はふにゃんと顔をとろけさせた。夜、二人でベッドに入るときは、いつもこうしてナタネの存在を味わっている。 ナタネは、いつもいい匂いがする。それは彼女自身の体…

伝播、鏡、もしくは意図して

 最近、くんはよくあたしにひっついてくる。ひっつくというか、抱きついてくると言ったほうが正しいだろうか。 それは正面からだったり後ろからだったり、寝るときなんてずーっと離してくれなくて。別に嫌な気分になるわけじゃないからやめてなんて言うつも…

今年も一年

 僕たちの年末年始は、ナタネさんの家や彼女のご実家で過ごすことが決まっている。決まっている……というか、自然とそういうふうになった。 きっかけになったのはナタネさんの家に転がり込んで初めての年末、実家に帰るという彼女のことを見送った日のよう…

おはようから、おわりまで

 ナタネさんの家に入り浸るようになってから、毎朝良い香りにつられて目が覚めるようになった。 それはナタネさんが愛情たっぷりに育てているお花たちのおかげでもあるのだが、それよりももっと僕の鼻腔を擽ってくれるものがある。 重たいまぶたを開き、見…