きみは太陽、ぼくは月

いいだろうか

※数年後if---「キスをしても、いいだろうか」 ことん、と。 まるで物を落とすかのような、不意にかつ唐突に言葉が吐かれた。言葉の主はグラジオで、呟くようなそれは確かに目の前にいる女性――へと向けられている。 グラジオの顔色は変わらなかった…

アイ

 今日のグラジオさまはなんとなく挙動不審だ。 わたしの顔をちらちらと見たり、そばに寄っては口を開きかけ、そして閉じたり、後ろ手に何かを持っているような素振りを見せたり、とにかくいつもと違うお姿を見せてくださる。 わたしとしてはただ「かわいら…

おはよう、だいすき

「グラジオさま、グラジオさま。起きてください、もう朝ですよ」 エーテルパラダイス奥のお屋敷、グラジオさまの自室にて。まっしろなベッドにかかるまっくろなお布団に手を添えながら、わたしはグラジオさまに呼びかけている。 時刻は午前7時12分、オニ…

いつかの話

「アローラには、カントーやジョウトの文化がうまく溶け込んでいますよね」 わたしは今、財団の職務を全うするため、グラジオさまについてマリエシティへ出向いている。 少し時間があいたので2人でぶらりと街をぶらついてみたのだけれど、お店の軒先に並ぶ…

わたしだけ

 背中で語る男というのはえてして魅力的に見えるものだけれど、グラジオさまはあの幼くも小さな肩にどれだけの重圧を背負ってらっしゃるのだろう。 療養中のルザミーネさまに代わり、「代理」という形ではあれど決して少人数ではないエーテル財団の代表とい…

狡い女

 エーテルパラダイス2階、ポケモン保護区の片隅にて。各地をまわる財団員により保護されて療養中のポケモンたちの活動音が響くなか、グラジオさまは傷ついたポケモンを慈しむように見つめている。その痛わしげな目つきはどこかルザミーネさまを彷彿とさせる…

苦手なのです

「わたし、マンタインサーフって苦手なんですよね」 唐突にそうつぶやいたに、グラジオは目を見開いた。心底驚いたような表情は年相応に幼げで、けれどもその姿には愛おしさよりも疑問のほうが大きい。どうしたのですか、そう尋ねると、ハッとしつつも居直し…