苦手なのです

「わたし、マンタインサーフって苦手なんですよね」
 唐突にそうつぶやいたピエリスに、グラジオは目を見開いた。心底驚いたような表情は年相応に幼げで、けれどもその姿には愛おしさよりも疑問のほうが大きい。どうしたのですか、そう尋ねると、ハッとしつつも居直して言葉を紡ぐ。
「いや……その。オマエにも苦手なものがあったんだな、と思って」
「まあ! グラジオさまにはわたしがそんなふうに見えていたのですか? あらあらまあ、嬉しいですね、ふふ」
 くすくすと笑うピエリスに、グラジオはどこか居心地が悪そうである。口を開いては閉じ、ごにょごにょと言葉にならない声ばかりを吐き出していた。煮え切らないような、疑わしくしているようなグラジオを見るピエリスは、それでもやはり慈愛に満ちた瞳で彼を見つめている。
「だって、オマエはいつも何だってこなしていたじゃないか。スカル団で居たときは卒なく料理をしていたし――」
「ふふ。あのときはですね、むしろ練習中だったんですよ」
「ウソだろう!? あとは……そうだ、バトルもオレより強かった」
「島巡りチャンピオンですから。わたしも旅立ってすぐは負けてばかりでしたよ、モクローやアゴジムシにはつらい思いをさせました」
「……オレより背が、高いし」
「年上ですもの。ぼっちゃまもすぐ大きくなられますよ、今だってとても可愛らしいですけど」
「ピエリス!」
「申し訳ございません」
 上をいくようなピエリスの返しに、グラジオはとうとう言葉をなくした。ぐぬ、むむ、と断続的に唸っては、ちらりとピエリスの顔をうかがう。普段無表情なくせに、こうして微笑んでいるのはよほど機嫌が良いからだ。
「わたし、あなたが思うより全然ダメで、生きるのもヘタクソなんですよ」
 恥ずかしいのか居づらいのか背を向けてしまったグラジオに、ピエリスはどこか淋しげな目でそう言葉を投げかけた。

 
20171117