吐息に一歩を踏み出して
それはなんてことない朝のこと、花冠の節も中ほどにさしかかった頃の出し抜けな出来事だった。 ついつい足音を抑えて歩いてしまう癖をなんとか律しつつ、はきちんと気配を出してクロードの前まで歩いていく。相変わらず寝不足なのかそれともただ単に気だる…
こがねと縁(士官学校編) ファイアーエムブレム 三日月の裏側
春は新たな芽生えが見える
鋼で出来た剣ならば、もう少し丈夫であるべきではないだろうか――は目の前で砕けている鋼の剣に、心中で悪態を吐いた。 鋼で造られた剣であるなら。このガルグ=マク大修道院の、おそらくフォドラでも有数の鍛冶職人が打った剣ならば、たかだか女が振るっ…
こがねと縁(士官学校編) ファイアーエムブレム 三日月の裏側
雨に語ろう
「ずいぶん静かに降っているわね」 天幕の端で読書に励むが、そうぽつりと呟いた。程よい雨音は集中を阻害することなく耳に入り、心地よい時間をもたらしてくれる。 天窓から見える空はすっかり雨雲に覆われているが、おかげで少し肌寒いくらいの、過ごしや…
ファイアーエムブレム 三日月の裏側 蜜月の閒に
今日の佳き日に
この寝台が体に馴染み始めたのは、果たしていつの頃からだったか――少しずつ日常に溶け込んできたそれのうえで、重たいまぶたをゆっくり開く。 昨日の疲れも抜け切らないまま覚醒したのは、鼻腔をくすぐる乾酪の香りに誘われたからかもしれない。我ながら…
ファイアーエムブレム 三日月の裏側 蜜月の閒に
ときの戯れ
丹念に、丁寧に。慈しむように唇が触れる。薄く開いたのそれに重ねられるのは、熱くて心地よいクロードの唇だ。 つついて、なぞって、かすめては離れていく唇。今度は優しく戯れるように触れて、何かを思い出したようにまた離れて、けれどもすぐに帰ってき…
ファイアーエムブレム 三日月の裏側 蜜月の閒に
「おあずけ」の味
この作品を見るにはパスワードの入力が必要です。
ファイアーエムブレム 三日月の裏側 蜜月の閒に
胸のあかり
「眠れないのか?」 そう声をかけられたのは、まんまるの満月を見上げながら夜風に吹かれていたときだった。寝入っている彼を起こさないように、と注意をはらって寝台を抜けたつもりだったけれど、どうやらうまくいかなかったらしい。 天幕から出てきたばか…
ファイアーエムブレム 三日月の裏側 蜜月の閒に
泰平の世にて
「なあ、……無理にとは言わないんだが、俺と一緒に旅に出ないか?」 それは、ひどく唐突な提案だった。 ぽりぽりと頬を掻きながら、目の前の男はにそっと問いかける。ためらうような、照れたような、とても複雑な面持ちはどうにも愛おしいそれで、の頬も自…
ファイアーエムブレム 三日月の裏側 蜜月の閒に
揺れる藍玉、溺れる翡翠
※子供がいる、ネタバレある、捏造もある---「……さすがに、この時間ともなると宴も落ちついてくるわね」 露台の向こうで煌めく王都を眺めながら、はいくらか柔らかい声色でそう言った。傍らの揺りかごをまどろむように揺らしつつ、空いた手のひらは膨ら…
ファイアーエムブレム 三日月の裏側 短編(クロード)
あなたを愛してしまったから
※無双黄燎ルートクリア後。ネタバレ注意---「ごきげんよう、盟主様。……いえ、今は国王様と呼んだほうがいいかしらね」 それは、ファーガス神聖王国――とくに王都フェルディアのような寒冷地において――にしては比較的気温も落ちついている、青海の節…
ファイアーエムブレム 三日月の裏側 短編(クロード)
小さな木枠と硝子板
かつて暮らしていた狭い家は、私にとって唯一無二の、脆く堅牢な檻だった。 その檻で閉じ込もるなか、私の関心を引いたのは壁を切り取った小さな窓だ。歪な四角形越しの景色は私にとって毒にも薬にもなり得るもので、いやに興味をそそられていたことを今で…
ファイアーエムブレム 三日月の裏側 短編(クロード)
ゆるり、蜜月
「三周年?」 はた、と顔をあげたは、文字通り不意をつかれるままに言葉を発した。目の前にあるのはいつもどおり飄々としていて、けれどもどこか浮き足立ったようなクロードの顔である。 眩しい太陽を背に口角を上げるその表情を、半ば直感的に「好きだ」と…
ファイアーエムブレム 三日月の裏側 短編(クロード)