Log/SS(FE)

無題(クロード)

 アスク王国で出会ったウィノナは記憶より何倍も花車なように見えて、思わずその腕を掴んでしまった。 俺の突飛な行動に、目の前の少女は前髪の下にある藍玉を大きく見開く。か細く吐き出された「どちら様ですか」というひと言の、あまりの他人行儀な響きに…

乾酪は嫌いよ(ディミトリ)近親愛

「力加減こそいささか難しいが、片手で食べられるのはいいな。行儀は悪いが公務の傍らで食事を済ませられそうだ」「あなたならそう言うと思っていたわ。調理も麺包を切って野菜や肉、あとは……そうね、乾酪を挟む人もいるのかしら。とにかくそのくらいだから…

「   」(クロード)

 目を開くと、そこには無機質な天井が視界いっぱいに広がっている。 見慣れたはずのそれが私の心に安堵や康寧を与えてくれることはなく、むしろ全身の気だるさと共に、このうえない嫌悪感や不快感をもたらしてくれた。 ――私はこの家が嫌いだ。気が休まる…

とどのつまりは……(クロード)

「なあ、ウィノナ。これから、俺と一緒に授業を抜けないか?」「はあ……? どうして私がそんなことしなくちゃいけないのよ」「まあまあ、そう言うなって。たまにはいいだろ? 俺も一人で抜けるのはなんとなく気が引けてね。寂しいと言ってもいい」「なら普…

それが最後の笑顔だった(ローレンツ)

「なんか……呆気ない卒業式だったね」「今日までに事件がありすぎたからな。帝国の宣戦布告に先生の失踪――一年を通して波瀾だらけだったが、よもや最後の最後にかような爆弾が飛んでくるとは」「本当だよね~。――あーあ、とうとう家に帰るときが来ちゃっ…

これぞあなたによく似合う(クロード)

「金合歓?」 ウィノナの細腕に抱えられる、目いっぱいの花束。パルミラではめったに見ないふわふわの花は眩しいくらいの黄色をしていて、明るい色の葉っぱも手伝い、目の前の男を想起するに充分すぎるものだった。 ほんのりとした優しい香りも相まって、ウ…

反省してる?(クロード)

「だから言ったでしょう、根を詰めすぎるなって。日頃から口を酸っぱくしていた理由、これで理解してもらえたかしら?」「すまん……」 ぐうの音も出ない、とはまさにこれ。寝台に沈み込んで渋い顔をするクロードは、頭上から降ってくるウィノナのお説教に少…

目の前にいる君だって(ルキナ)近親愛

「エヴァン! あなた、もう少し慎重に動くということはできないのですか……!?」「あのなあ、そんなちまちまやってたら大物を取り逃がしちまうだろうが」「ですが、無闇に突っ込んでいっては命を落としかねませんよ! 頼みますから、もう少し……」「いく…

傾きだしている(クロード)

誰かといると安らぐなんて、いつからそんなふうに思うようになったのだろう。よもや自分が誰かの隣で安息を得るようになるなんて、今までちっとも考えたことがなかった。編入先の金鹿の学級はなぜだかひどく心地が良くて、賑やかで奔放な気風が、いつしか私の…

頼むから……(ディミトリ)近親愛

「お前は、王妃になっても鍛錬を欠かさないのだな」 湯浴みを終えてやってきたウィノナを出迎え、しみじみと呟く。日頃の鬱憤を晴らしてきたのだろうか、その顔はどこか晴れ晴れとしていた。「当たり前でしょう。確かに私はこの国の王妃だけれど、それ以前に…

緊急事態、ですわ!(フレン)GL

 ああ、ああ! どうしましょう、わたくし、胸が苦しくて眩暈がしますわ―― セテスがすっ飛んできそうな文句を口にして、フレンは桃色に染まった頬を押さえながら、その場に座り込んでいる。彼女が何を考えているのかウィノナにはうまく読み取れなかったが…

正反対の好き嫌い(クロード)

「……あなた、本当に乾酪が好きね」 満面の笑みで昼食を頬張るクロードを横目に、ウィノナは目の前に立ちふさがるそれを睨めつけている。じわじわと背中に汗がつたうのを感じているが、しかし、食物を無駄にしてはならないと意を決して口に含んだ。途端に広…