ゴッドイーター

往来オーライ

「いた! シエル!」 フェンリル極東支部エントランスの真ん中、聞き慣れた呼び声に振り向くとそこにあったのは人の良さそうな笑み。レンズの向こうでへにゃりと目元を緩ませながら肩で息をする姿に、思わずシエルも顔をほころばせた。「どうしたんですか、…

聖域デート・煩悩編

「そういえば、お姉さんは寒いのが苦手でいらっしゃるんですよね」 ぽつり。聖域の爽やかな風を浴びながら、シエルがそう一言こぼす。いつからか「お姉さん」と呼ぶようになった彼女は、どうやら姉さんとなかなか良好な関係を築いているらしい。この前も2人…

好きだ!

 胸が苦しい、気がした。ほんの少し前まではただの友達だった彼女を、ただの仲間で、同僚で、かけがえのない、ナニカだった彼女を見るたびに、胸がぎゅうっと押しつぶされるような感覚に陥る。ふわりと風に揺れる豊かな銀髪も、意志の強い花色の瞳も、柔らか…

もだもだ・一二三直線

「おれ、あんまり恋愛とかよくわかんないんだけどさ」 出し抜けな言葉を受け、アリサは手放しかけていた意識を無理やり引き戻した。声の主は隣に座るだ。珍しくムツミが不在のカウンター席にて、食材が積まれた棚の向こうに何かを見ている。 欠伸をかみ殺し…

ブラックホール

 ふ、と青い空を見上げる。抜けるようなそれは遥か遠くまで続いていて、このまま真っ逆さまに飛び込んでいけたらと思わずにはいられなかった。 この青い空を、まるで魚のように泳げたら。そうすればきっとこんな鬱屈した毎日から抜け出せて、危ぶまれること…

かつての彼女のままだった

 の誕生日を祝うのは、嗚呼、果たして何度目になるだろうか。 今までの人生でずっと隣にあったはずの、いやに小さくて細い肩。何があっても傍にいてくれた彼女がいつしかそこにいなくなったのは、別に彼女が心変わりしたとかではなく、他でもない自分の変化…

青さとは、

「タツ~! おかえり!」 数ヶ月ぶりに極東支部の敷居をまたぐ。半ば実家のようでもあるこの景色は何年経っても変わらない……ことはないが、いつだって俺に帰還の安堵感と、生への実感を与えてくれた。行き交う人が増えても減っても、ここはきっと、俺らに…

深呼吸だけ挟ませて

 今日は防衛班がサテライト拠点の防衛任務から帰ってくる日だ。 はこの日を楽しみにしている。幼なじみであるタツミはもちろん、長いこと任務を共にしていた防衛班の面々と顔を合わせることができるから。 彼らがどんなアラガミを討ち、どうやってその身を…

空と祝いとオレンジと

「ヘイ、お待ち。こちらいちごのタルトでーす」 かたん、という小気味良い音ともに置かれた皿には、上等な出来のいちごタルトが盛りつけられていた。 ぴかぴかに磨かれた真っ白の皿とつやつやのいちごが織りなすコントラストは絶妙で、さっくりと焼き上げら…

それであったとするならば

「何にも、なくなっちゃったね」 目に見えて落胆する背中に投げかけた言葉は、果たしていつも通りを取り繕えただろうか。激務と苦痛と絶望に喘ぐ体を叱咤して、ここまで来たというに。 備えつけのベッド、ソファ、何も貼られず真っ白なはめ込みの窓。マルコ…

私が死んだ日

『おまえまで居なくなったら、俺は――』 そんな、遠い日の一言が頭のなかで木霊する。理由はわからないところであるが、もしかしたらこれは“予感”だったのかもしれない。 これから、とんでもなく恐ろしいことが起こる――そんな、予感だ。「思ったより元…