青さとは、

「タツ~! おかえり!」
 数ヶ月ぶりに極東支部の敷居をまたぐ。半ば実家のようでもあるこの景色は何年経っても変わらない……ことはないが、いつだって俺に帰還の安堵感と、生への実感を与えてくれた。行き交う人が増えても減っても、ここはきっと、俺らにとってかけがえのない故郷なのだ。
 そして、「ただいま」を言う前に聞こえてくる「おかえり」の声も、同じように俺にこのうえない安心感をもたらしてくれる。この声が、ひどく好きだった。
「ただいま、こーこ。アナグラは今日も異状なしか?」
「もちろんだとも! 私たちでしっかり守ってますからね。最近はブラッドのみんなもいるし、目立ったことも起きてないから比較的平和だよ」
「はは、そいつぁ安心した。頼もしいな」
 相変わらずの小さな体をオーバーに動かしながら。こーこは溌剌とした、けれどもひどく泣きたくなるような笑みを浮かべて俺のことを迎えてくれた。
 サテライト任務の合間、こっちに帰ってくるときはいつもこーこが一番に出迎えてくれる。もちろん外せない任務があるときはそうでもないが、代替がきくときはみんなが気を利かせてくれるらしく、入り口のドアをくぐるといつもこーこの姿がある。
 この間なんかは、偶然みんなの休みが合致したとかでハルとテルも一緒に待っていてくれたっけ。懐かしい面々に一瞬で緊張の糸が解け、訳もわからないまま腰を抜かしてしまったのは少しだけ恥ずかしかったな。
 人の生き死にを目の当たりにし続ける日々のなか、こうして何年も変わらない笑顔を見られることがどれだけの勇気をもたらすか。幼なじみ全員が五体満足で生きていてくれる今がどれだけ幸運なことであるのかも、きっと、こーこ本人は痛いくらいにわかっているのだろうな。
「――タツ? どうかした?」
 立ち尽くしたまま物思いに耽っていた俺を、怪訝そうに覗き込むこーこ。真っ青な瞳は吸い込まれてしまいそうでもあり、このまま泣きついて、すべてを許されたくもある色をしている。
「……いんや、何でもねえよ。ちょっと考えごとしてただけだ」
「本当に? ……調子悪いなら、私が代わりに報告とかやっとこうか」
「そこまでじゃねえって。心配性だなーおまえは」
 わしゃ、と小さな頭をかき混ぜてやる。ごまかすような俺の手のひらにこーこは口をとがらせて、髪がボサボサになるだろ……と不満をもらしていた。
 縋りそうになる手を必死に抑えている。人混みのなか、人目も憚らずに弱音や不満を撒き散らしたくなる自分から、何年も目をそむけ続けている。こーこを前にすると、今まで三十年近くかけて形成してきた大森タツミという人間が音を立てて瓦解してしまいそうになるのだ。
 俺にとって乾コズエという女は、ぬるま湯のようであり毒のようでもある、愛おしさと恐ろしさが紙一重の存在だった。
「そうだ、あとで部屋まで行っていいか? 話したいことがあってさ」
「うん? いいよ。待ってるね」
「おう。積もる話が山ほどあんだわ、ブレンダンのやらかしとか、第三部隊の功績の話とか。あとそれから――」

 
2021/11/17