深呼吸だけ挟ませて

 今日は防衛班がサテライト拠点の防衛任務から帰ってくる日だ。
 コズエはこの日を楽しみにしている。幼なじみであるタツミはもちろん、長いこと任務を共にしていた防衛班の面々と顔を合わせることができるから。
 彼らがどんなアラガミを討ち、どうやってその身を守り、如何なる景色を見てきたのか。皆の知見は極東支部からなかなか離れられないコズエにとって、まるで子供が親のみやげ話を心待ちにしているような調子でもあるし、何より彼らの健やかな顔を見て安心したいというのもあった。日々数多の命が失われていくこの時世であれど、それでもやはり見知った人間は亡くしたくないに決まっている。それはかつて肩を並べ憧れていた、とある男の面影がだぶついて仕方ないのもあるけれど。
 エントランスで顔を合わせ、おかえり、どうよ、元気にしてた? そう浴びせる文句はもはやお決まりのものとなっていて、帰ってくる反応が多種多様であることも、コズエの好奇心や安心感を強く慰めてくれる。
 もちろんコズエはおのれの心配や杞憂が相互でないこともわかっていて、たとえばカレルは目だけ合わせてさっさと自室に帰っていくし、シュンのほうはやっと最近返事をするようになった程度。それについて何かを思うほどもう若くはないし、ただ「変わらないこと」に安堵する、それくらいでしかなかった。
 そう、彼らは驚くほどに変わらない。ジーナが妖しく微笑みながら談笑に励んでくれることも、ブレンダンがクソがつくほど真面目に返答してくれることも。
 今まさに帰還したばかりのタツミが、軽い報告を済ませたあとで一目散にヒバリのもとへと駆け寄る、その光景すらも。
「――おかえり、タツぼん」
 そして、カウンターを陣取るようなその真っ赤な背中へ独り言にも満たないような声をかけてしまう、この臆病な自分でさえも、決して変わりはしないのだった。

 
20201124