頭の奥に在る景色
あれから七年の月日が経ち、私の人生には様々な変化が訪れた。恨めしい存在であった母が亡くなり、彼女の既知である紋章学者の養子に入ったのは三年ほど前のことだ。 今に至るまでには様々な悶着があったが、目的を果たすためならそんな苦労は瑣末なことだ…
ファイアーエムブレム 君との軌跡(士官学校編) 細氷に光る懐刀
何かが崩れる音がした
あの日以来、アッシュには一度も会っていない。理由はちっともわからないが――否、もしかするとわからないふりをしているだけかもしれない――あれからいっさいの音沙汰がなくなってしまったのだ。 とはいえ、それもただ「アッシュが我が家に来なくなった…
ファイアーエムブレム 君との軌跡(過去編) 細氷に光る懐刀
ちくちく、ぴりぴり
アッシュの家は、同じ町のはずなのにずいぶん離れた場所にあった。私が想像していたよりも遠いところに彼のお城は建っていて、毎度ここから来てくれているのかと思うと、少しばかり罪悪感が湧いてくる。 しかし、一家で住んでいたにはずいぶんちゃちな造り…
ファイアーエムブレム 君との軌跡(過去編) 細氷に光る懐刀
まばゆい記憶
アッシュはきっと、本来ならば薄くかがやく瞳を持っている人なのだろうと思う。置かれている境遇のせいで暗く濁っているだけで、元来はもっと眩しく、清らかな人間であるのだろうと。 私は、一度でいいからまばゆいアッシュのすがたを見てみたいと思ってい…
ファイアーエムブレム 君との軌跡(過去編) 細氷に光る懐刀
君と広がる世界の果てへ
「それじゃ、。お母さんは出かけてくるけれど、くれぐれも外には出ないようにしてちょうだいね」 母は私が何か言うよりも先に出て行った。 いつもそうだ。あの人は結局私の意見など露も求めておらず、ただ自分の都合を押しつけるばかりの女である。玄関先で…
ファイアーエムブレム 君との軌跡(過去編) 細氷に光る懐刀
ふれあいの袖
気配を消すのは得意だった。 存在を悟られぬよう、息を殺して日々を過ごした。自分なんかいないものだと、誰にも自分を知られぬように、母の手を煩わせぬように。自分が大人しくしていると、母はなんとなく機嫌が良かった。 別に彼女に何か感情を抱いてい…
ファイアーエムブレム 君との軌跡(過去編) 細氷に光る懐刀
いつもそうして
わたしのなかで再び頭をもたげはじめた、セリス様への恋心。 ひとたび目をさましたそれはみるみるうちに膨らんでいって、一度抑圧されたせいなのか、ともすると以前よりも大きく主張しているような気さえする。その怪物はいつもわたしの耳の隣に心臓を持っ…
Interlude ファイアーエムブレム 短編(セリス)
天色の波
ゆら、ゆら、ゆら。わたしは、まったくおぼつかない足取りで夜の城内を歩いていた。 眠れなかった、わけではない。単純に目が覚めてしまったのだ。近頃はどうにも睡眠が浅くて、ちょっとしたことでついつい目を覚ましてしまう。 そのまま寝返りばかり続け…
Interlude ファイアーエムブレム 短編(セリス)
ふわり、光る
「ねえ、アゼルは“恋”って何だと思う?」 行軍の合間、出し抜けにが問うてくる。さっきまで上空にいた天馬は知らぬ間にすぐ傍へと降下していて、アゼルは馬の手綱を引きながら、彼女の言葉に耳を傾けた。「恋、って……どうしたんだい、いきなりそんなこと…
Interlude ファイアーエムブレム 短編(アゼル)
時に微笑ましくもあり
「交差」のあとくらい--- なんとなく、胸騒ぎがした。 否、それはともすると変化の予兆であったのかもしれない。うまく言語化することはできないが、それでも今からおのれの身に何かしらの刺激が訪れるであろうことを、レックスは静かに察知していた。そ…
Interlude ファイアーエムブレム 迫る灯火(番外編)
そうしてぼくらは蓋をした
もちろん、そのときのアゼルにシグルドたちの話を盗み聞きするつもりなんてなかった。たまたま部屋の前を通りかかった際、つい、耳に入ってしまったのである。 彼らが言っていたのは、アルヴィスが当主になってすぐのヴェルトマー家についてだった。父が―…
Interlude ファイアーエムブレム 迫る灯火
きみを守るよ
マーニャが戦死した。 シレジアが天馬騎士団マーニャ隊は、同じく天馬騎士団に所属していたディートバ隊や、ユングヴィ公子アンドレイ率いるバイゲリッターに立ち向かい――そして、あえなく散ってしまった。 さしもの天馬騎士たちも天敵である弓兵相手に…
Interlude ファイアーエムブレム 迫る灯火