胸のあかり
「眠れないのか?」 そう声をかけられたのは、まんまるの満月を見上げながら夜風に吹かれていたときだった。寝入っている彼を起こさないように、と注意をはらって寝台を抜けたつもりだったけれど、どうやらうまくいかなかったらしい。 天幕から出てきたばか…
ファイアーエムブレム 三日月の裏側 蜜月の閒に
泰平の世にて
「なあ、……無理にとは言わないんだが、俺と一緒に旅に出ないか?」 それは、ひどく唐突な提案だった。 ぽりぽりと頬を掻きながら、目の前の男はにそっと問いかける。ためらうような、照れたような、とても複雑な面持ちはどうにも愛おしいそれで、の頬も自…
ファイアーエムブレム 三日月の裏側 蜜月の閒に
揺れる藍玉、溺れる翡翠
※子供がいる、ネタバレある、捏造もある---「……さすがに、この時間ともなると宴も落ちついてくるわね」 露台の向こうで煌めく王都を眺めながら、はいくらか柔らかい声色でそう言った。傍らの揺りかごをまどろむように揺らしつつ、空いた手のひらは膨ら…
ファイアーエムブレム 三日月の裏側 短編(クロード)
あなたを愛してしまったから
※無双黄燎ルートクリア後。ネタバレ注意---「ごきげんよう、盟主様。……いえ、今は国王様と呼んだほうがいいかしらね」 それは、ファーガス神聖王国――とくに王都フェルディアのような寒冷地において――にしては比較的気温も落ちついている、青海の節…
ファイアーエムブレム 三日月の裏側 短編(クロード)
小さな木枠と硝子板
かつて暮らしていた狭い家は、私にとって唯一無二の、脆く堅牢な檻だった。 その檻で閉じ込もるなか、私の関心を引いたのは壁を切り取った小さな窓だ。歪な四角形越しの景色は私にとって毒にも薬にもなり得るもので、いやに興味をそそられていたことを今で…
ファイアーエムブレム 三日月の裏側 短編(クロード)
ゆるり、蜜月
「三周年?」 はた、と顔をあげたは、文字通り不意をつかれるままに言葉を発した。目の前にあるのはいつもどおり飄々としていて、けれどもどこか浮き足立ったようなクロードの顔である。 眩しい太陽を背に口角を上げるその表情を、半ば直感的に「好きだ」と…
ファイアーエムブレム 三日月の裏側 短編(クロード)
絵物語と君の愛
※夢主が妊娠してる「ねえ、クロード。このあいだ……そう、ヒルダがセテスさんと一緒に作った寓話の話、聞いた?」 ふ、と。丸くなり始めた腹を撫でるが、傍らで読書に勤しんでいるクロードへと問いかける。伏し目がちに微笑む彼女は子を宿して早数節、立派…
ファイアーエムブレム 三日月の裏側 短編(クロード)
ほろほろ、ほろり
※本編後、inパルミラ 「あれ、クロードくんそれどうしたの?」 ちょん、とおのれのまぶたをつつきながら口を開いたのはヒルダだった。 化粧に彩られた桃色の瞳には何の異常も見られず、相変わらずの愛くるしい目でもって眼前にある人間を見つめている。…
ファイアーエムブレム 三日月の裏側 短編(クロード)
月夜にひびく揺籃歌
すう、すう。規則的な呼吸を繰り返す寝顔は、陽の下で見るよりいくらかあどけないように見える。 月光に照らされた白い頬を指先でなぞり、クロードは小さく息を吐いた。よくもまあこれほどぐっすり眠れるものだと、連れ添って一年と少しの月日が経とうとい…
ファイアーエムブレム 三日月の裏側 短編(クロード)
大海原と波の色
「あなたは、私の知らない世界をたくさん見てきたのね」 何気なく溢したであろうそのひと言が、なぜだか深く突き刺さった。遠く広がる海を見つめる瞳はまるで視界を写したようにゆらゆらと揺れていて、なんとなくあのたゆたう波のように、どこかへ消えてしま…
ファイアーエムブレム 三日月の裏側 短編(クロード)
幾度も夜明けを越えた先
彼女が毎晩、名残惜しそうに目を閉じるのを知っている。それは別に幼子の駄々っ子にならうものではなく、ただひたすら闇に落ちるような不安を覚えているからだろう。 以前、なんてことない談笑の合間にて、が「あなたがどこかへ行ってしまうのが怖い」と溢…
ファイアーエムブレム 三日月の裏側 短編(クロード)
まどろみと熱
寝台の軋む音で目を開ける。だるい首を少しだけ横に傾けると、そこにあったのは縁に腰掛けてひと息つくクロードの背中だった。薄ったい背中には実地訓練や課題で負った傷がいくつもあって、改めて見てみるとこれは確かに未来の同盟を背負うもの、次期盟主の…
ファイアーエムブレム 三日月の裏側 短編(クロード)