ファイアーエムブレム

胸のあかり

「眠れないのか?」 そう声をかけられたのは、まんまるの満月を見上げながら夜風に吹かれていたときだった。寝入っている彼を起こさないように、と注意をはらって寝台を抜けたつもりだったけれど、どうやらうまくいかなかったらしい。 天幕から出てきたばか…

泰平の世にて

「なあ、……無理にとは言わないんだが、俺と一緒に旅に出ないか?」 それは、ひどく唐突な提案だった。 ぽりぽりと頬を掻きながら、目の前の男はにそっと問いかける。ためらうような、照れたような、とても複雑な面持ちはどうにも愛おしいそれで、の頬も自…

ゆるり、蜜月

「三周年?」 はた、と顔をあげたは、文字通り不意をつかれるままに言葉を発した。目の前にあるのはいつもどおり飄々としていて、けれどもどこか浮き足立ったようなクロードの顔である。 眩しい太陽を背に口角を上げるその表情を、半ば直感的に「好きだ」と…

絵物語と君の愛

※夢主が妊娠してる「ねえ、クロード。このあいだ……そう、ヒルダがセテスさんと一緒に作った寓話の話、聞いた?」 ふ、と。丸くなり始めた腹を撫でるが、傍らで読書に勤しんでいるクロードへと問いかける。伏し目がちに微笑む彼女は子を宿して早数節、立派…

ほろほろ、ほろり

※本編後、inパルミラ 「あれ、クロードくんそれどうしたの?」 ちょん、とおのれのまぶたをつつきながら口を開いたのはヒルダだった。 化粧に彩られた桃色の瞳には何の異常も見られず、相変わらずの愛くるしい目でもって眼前にある人間を見つめている。…

大海原と波の色

「あなたは、私の知らない世界をたくさん見てきたのね」 何気なく溢したであろうそのひと言が、なぜだか深く突き刺さった。遠く広がる海を見つめる瞳はまるで視界を写したようにゆらゆらと揺れていて、なんとなくあのたゆたう波のように、どこかへ消えてしま…

まどろみと熱

 寝台の軋む音で目を開ける。だるい首を少しだけ横に傾けると、そこにあったのは縁に腰掛けてひと息つくクロードの背中だった。薄ったい背中には実地訓練や課題で負った傷がいくつもあって、改めて見てみるとこれは確かに未来の同盟を背負うもの、次期盟主の…