柵にとらわれて

あとがき

普段あとがきなんてそうそう書かないんですが、このお話はちょっと言いたいことがあったので例外的に置いています。先日blogのほうでもちょろっと申し上げたんですが(移転前の話なので今のMEMOにはないです)、夢主がオリ地方に行くことはずっと前か…

絆をむすんだ

 結局、昨夜はうまく寝つけなかった。柔らかなベッドのうえで何度も寝返りを打って、目を閉じた先にある、混沌とした世界に身を委ねたりもしたけれど、当然その混沌があたしを助けてくれることはない。むしろあたしの意識をどんどん黒く渦巻かせて、目の下に…

愛しい人よ

 沼底に沈んでいた意識が、ゆっくりと持ち上がるような感覚。泥のようにねむるとは言い得て妙といったところで、あたしはもうすっかり熟睡できるようになっていた。 内容こそ覚えていないけれど、ひみつきちで夜を明かすたび、あたしは夢に囚われ続けていた…

柵にとらわれて

 ――嫌な予感がする。あたしは、やけにざわざわと騒ぐ胸をおさえて、つい、その場にうずくまった。 作業の途中、ベッドの傍らで唐突に動きをとめてしまったあたしのそばに、無二の相棒であるジュカインが駆け寄ってくる。ジュカインは普段きりっとしている…

糸よりも細く

「――とはいえ、だ。勇んで出てきたはいいけど、めぼしい場所があるわけでもないんだよな……」 むげんのふえで呼び出したラティオスの背中に乗りながら、雄大なホウエン地方をぐっと見下ろした。 引っ越してきてまだ数ヶ月しか経っていないくせに、目に映…

つまさきの怪物

 あの日以来実家に顔を出す機会を増やしたのは、そらをとぶ手段を手に入れたことはもちろん、件の出来事で家族に心配をかけたという自覚があるからだ。 母さんはあっけらかんと言っていたが、オレたちが寝静まったあとに一人でさめざめと泣いていたのを知っ…

傍らの思い

「そうか、ユウキはさすがだな。母さんに心配をかけたことだけはいただけないが――」「もう、パパったら! でも、無事に帰ってきてくれて本当によかったわ。テレビであなたの姿を見たときは、本当に気が気じゃなかったけどね? あなたの元気な顔を見たら、…

亀裂なんて入らない

 鏡を見るのが嫌いだった。 年をとるごとに母親に似てくるこの顔は、おのれの想い人が――唯一無二の父親であるセンリが他の女と結ばれて、生涯を共にしようと決意し、子を成したというこのうえない証左である。 おのれの存在がひどく疎ましかった。父親を…