ポケモン

沼に喰われる

 ――に縁談? その言葉を聞いた途端、セキの体を稲妻が撃つ。 かみなりのような衝撃を与え、だくりゅうのように心をずんとかき乱していくヨネの言葉。あまりにも突拍子がなさすぎて、ただの冗談、もしくは白昼夢のたぐいなのではないかと疑りたい気持ちに…

零雨

 どうして、あの子ばかりがこんな扱いを受けなければいけないんだ。夕食の準備を進める傍ら、ヨネは眉間に深いシワを寄せて老輩たちへの呪詛を吐いていた。 吐く、と言っても口に出すわけではなく、仮に声に出ていたとしても問題ない範囲の言葉に収まるよう…

晴天に恋う

 とニンフィアが「お友だち」になってから、早三ヶ月が経とうとしていた。 あれ以来、彼女たちは見違えるほどに仲睦まじくなっている。暴れん坊のイーブイに手を焼いていたのすがたを思えば、その変化はひときわなものであると言えるだろう。 もちろん、仲…

つぶらなひとみ

「――よし、っと。ひとまずはこれで大丈夫かな。おとなしくしてれば治るだろうけど、もしも悪くなるようだったらギンガ団の医者に診てもらおうね」「はあい……」 帰宅後、ヨネは慣れた手つきでテキパキと、の足に適切な処置を施してくれた。おかげで先立っ…

まばゆいひかり

 このところ、なんとなくイーブイが懐いてくれたような気がする。いかくされることも睨めつけられることもなくなったし、それどころか、のとなりでうたた寝するくらいにまでなってくれた。夜だって以前用意したお手製の布団で寝てくれるようになったし、ヒノ…

理想のあなた

「ああ、おはよう。今から雲海峠まで出るんだけど、よかったらあんたもどうだい?」 それは、イーブイと生活し始めてふた月ほどが経った頃の爽やかな朝のことだった。のろのろと起き上がってきたは、ゴンベとともに野良仕事の準備をしていたらしいヨネに、そ…

催花雨

「じゃじゃーん! たくさんご迷惑をおかけしましたが、この、今日から完全復活です!」 それは、まるで演説のような口振りである。は両手をおおきく振りながら、晴れやかにそう言ってみせた。 かつては全身をくるんでいた包帯もいっさいなくなり、健康的な…

雨垂れが穿つ

 あれから半月ほどが経って、はやっと一人で歩ける程度にまで回復した。 まだそこいらを走りまわることこそ叶わないが、それでもヨネに連れられて辺りを散歩する様子がたびたび見られる。今ではすっかりゴンベとも打ち解けたようで、この間は二人で昼寝をし…