短編(タツミ)

ブラックホール

 ふ、と青い空を見上げる。抜けるようなそれは遥か遠くまで続いていて、このまま真っ逆さまに飛び込んでいけたらと思わずにはいられなかった。 この青い空を、まるで魚のように泳げたら。そうすればきっとこんな鬱屈した毎日から抜け出せて、危ぶまれること…

かつての彼女のままだった

 の誕生日を祝うのは、嗚呼、果たして何度目になるだろうか。 今までの人生でずっと隣にあったはずの、いやに小さくて細い肩。何があっても傍にいてくれた彼女がいつしかそこにいなくなったのは、別に彼女が心変わりしたとかではなく、他でもない自分の変化…

青さとは、

「タツ~! おかえり!」 数ヶ月ぶりに極東支部の敷居をまたぐ。半ば実家のようでもあるこの景色は何年経っても変わらない……ことはないが、いつだって俺に帰還の安堵感と、生への実感を与えてくれた。行き交う人が増えても減っても、ここはきっと、俺らに…

深呼吸だけ挟ませて

 今日は防衛班がサテライト拠点の防衛任務から帰ってくる日だ。 はこの日を楽しみにしている。幼なじみであるタツミはもちろん、長いこと任務を共にしていた防衛班の面々と顔を合わせることができるから。 彼らがどんなアラガミを討ち、どうやってその身を…

空と祝いとオレンジと

「ヘイ、お待ち。こちらいちごのタルトでーす」 かたん、という小気味良い音ともに置かれた皿には、上等な出来のいちごタルトが盛りつけられていた。 ぴかぴかに磨かれた真っ白の皿とつやつやのいちごが織りなすコントラストは絶妙で、さっくりと焼き上げら…

それであったとするならば

「何にも、なくなっちゃったね」 目に見えて落胆する背中に投げかけた言葉は、果たしていつも通りを取り繕えただろうか。激務と苦痛と絶望に喘ぐ体を叱咤して、ここまで来たというに。 備えつけのベッド、ソファ、何も貼られず真っ白なはめ込みの窓。マルコ…

私が死んだ日

『おまえまで居なくなったら、俺は――』 そんな、遠い日の一言が頭のなかで木霊する。理由はわからないところであるが、もしかしたらこれは“予感”だったのかもしれない。 これから、とんでもなく恐ろしいことが起こる――そんな、予感だ。「思ったより元…

また、なんだ。

 ――大車ダイゴによるアラガミテロが収束して、数ヶ月が経とうとしていた。 サカキ博士主導のもと行われるようになった慈善活動も、もちろん第一部隊のみならず、他部隊も積極的に参加している。 防衛班第二、第三部隊も例外ではなく、特にはこの活動に精…

花言葉なんて

 今日は私にとって、少しだけ特別な日だった。――いや、私だけじゃないかもしれない。タツにとっても、ブレンダンにとっても、カノンちゃんにとっても、他の隊員にとっても、特別な日。 何故なら今日が、最後だから。私たち第二部隊が、「第二部隊」として…

伝えられたら?

 ぴろん、と無機質な通知音が鳴り響く。差出人に表示されている名前は、恋い焦がれる幼なじみのものだった。『うっす!』から始まる文章はまさしく彼を思わせるもので、今まさに彼と目の前で話しているかのような錯覚に陥ってしまう。恋しい。彼のことが、何…