花言葉なんて

 今日は私にとって、少しだけ特別な日だった。――いや、私だけじゃないかもしれない。タツにとっても、ブレンダンにとっても、カノンちゃんにとっても、他の隊員にとっても、特別な日。
 何故なら今日が、最後だから。私たち第二部隊が、「第二部隊」としてミッションに出られる最後の日。明日にはもう、タツたちは「サテライト防衛班」で、私たちは「第四部隊」となる。
 今日が、私たち4人が第二部隊として迎える最後の任務。そして、最後のブリーフィングだ。
「お? こんなん前から飾ってたっけ?」
 いつも通り、適当に何か摘まみながらにしようか。そう提案したのは他でもない私で、部屋にみんなを招いたのも同じく。4人集まると少し手狭に感じるけれど、それすら噛みしめておきたい気分だった。
 そんななか、ふと私の部屋の壁際に目を向けたタツが口を開く。何のことだ、と思えば。彼の意識は、そこに生けられた花に向けられているようだった。
「いんや? この前もらったばっかだよ」
 花を育てるのが趣味だと言う隊員に、餞別としてもらった一輪の花。とある鳥の名前をそのまま由来とするこの花は、白地に紫の斑点で彩られた特徴ある見た目をしている。私の部屋を、確かな存在感で華やかに飾った。
「あ、私も頂きました! コズエさんとは別のお花でしたけど……」
「そういえば、俺も声を掛けられたような気がするな。管理が難しそうなので、断らせてもらったが……」
「確かに、俺たちゃあしばらくここを離れることになるからなあ」
 花なんて、3日と経たず枯らしちまいそうだわ。そう言いながらも、タツは壁際から目を離そうとしない。

 本当は、あまり見つめないでほしい。その花のことを、貴方にだけは忘れてほしかった。
 極東支部に入隊してすぐ、不慣れなターミナルで覗いた、植物図鑑。そのなかにあった、この花は。当時の私の心情を書き写したかのような花言葉を携えていて、人知れず胸を震わせたこと。
 あの頃から少しも揺らぐことなく、大きくなるばかりのこの想いに、貴方にだけは気づいてほしくない。これ以上、私を揺さぶらないでほしい。
 ガサツで、軽くて、男らしい貴方のことだから。花言葉なんて、貴方は知らないのでしょうね。