降る、降る、なにが?

まばゆいひかり

 このところ、なんとなくイーブイが懐いてくれたような気がする。いかくされることも睨めつけられることもなくなったし、それどころか、のとなりでうたた寝するくらいにまでなってくれた。夜だって以前用意したお手製の布団で寝てくれるようになったし、ヒノ…

理想のあなた

「ああ、おはよう。今から雲海峠まで出るんだけど、よかったらあんたもどうだい?」 それは、イーブイと生活し始めてふた月ほどが経った頃の爽やかな朝のことだった。のろのろと起き上がってきたは、ゴンベとともに野良仕事の準備をしていたらしいヨネに、そ…

催花雨

「じゃじゃーん! たくさんご迷惑をおかけしましたが、この、今日から完全復活です!」 それは、まるで演説のような口振りである。は両手をおおきく振りながら、晴れやかにそう言ってみせた。 かつては全身をくるんでいた包帯もいっさいなくなり、健康的な…

雨垂れが穿つ

 あれから半月ほどが経って、はやっと一人で歩ける程度にまで回復した。 まだそこいらを走りまわることこそ叶わないが、それでもヨネに連れられて辺りを散歩する様子がたびたび見られる。今ではすっかりゴンベとも打ち解けたようで、この間は二人で昼寝をし…

櫛風沐雨

「――キ、セキッ! こらっ、起きろ!」 けたたましい騒音と呼び声に目を開けると、そこにあったのはひどくのうてんきなゴンベの顔だった。 見慣れた家族の顔はセキに強い安心感を与え、先立っての怒声のことも忘れてこのままもうひと眠りしてやるかという…

空が、見えない

 がコンゴウの集落にやってきてから、もうどれだけの日が過ぎたか。数えるのも億劫なくらい、時の流れはあっという間だ。 彼女は、今日も元気に笑っている。誰にどんな仕打ちを受けても、どんな雑言を投げつけられようとも、ずっと笑顔を崩さない。 日を追…