文章

ひとりじめ(カキ)

(……間抜けな顔だな) ふに、と柔らかくふくらんだ頬をつついてみる。目を覚ますような気配はない。起こすつもりは毛頭ないし都合がいいといえばそうなのだが、なんとなくつまらないような気もしてカキは眉間にしわを寄せる。 気を許しすぎているのもどう…

ナマコ武士(カキ)

「んーーー、ぶぅ!」「ぶっし!」「ぶし? ぶしぶし! ぶぅぶぅ! ぶ――」「……何をやってるんだ?」 背後から聞こえてきた謎の二重奏に、カキは深くため息を吐きながら振り向いた。何をやっているのか、そう尋ねられたはぺかりと顔を輝かせながら笑う…

まだ見ぬ君へ(カキ)

「あのタマゴ、どんなポケモンが孵るんだろうね!」 今朝オーキド校長がリーリエに託した白いタマゴ。ラナキラマウンテンで発見されたらしいそれは、真っ白な表面にお花の模様が特徴である。触れるとほんのりあたたかく、話しかけると応えるように時おり小さ…

学校帰り、夕日岸(カキ)

 ある日の夕暮れ、場所はポケモンスクールからほど近い海岸の片隅である。オレンジ色の夕日に照らされるキャモメたちが上空を飛び交い、静寂をかき消してはいれどそれは決して喧騒ではなく。穏やかで心地よい鳴き声をBGMに佇んでいたのは、それぞれ左手首…

うたかたのアリア(カキ)

 は、笑わなくなった。 おれが好きだった笑顔はほぼなりを潜め、活動的で活発だった明朗さもどこへやら。おれたち家族も目を見開く健啖さは面影なく、1日を部屋のなかで過ごすばかりになっていた。 アシレーヌ、ラプラス、プリンはもちろん、おれのガラガ…

おちるヒュメン(カキ)

 朝。ごろりとベッドで寝返りを打つと、枕元のプリンがあたしの頭にぶつかって転げ落ちていった。 時計を見るとまだ6時にもならないくらいで、あたしは寝起きのあくびを噛み殺してシーツのなかへ潜り込む。水色のそれはあたしの一番のお気に入り。あたしは…

ささやくアモローソ(カキ)

「カキは外国いっちゃうんだね」 ぺとん。背中にかかる重みはその質量を増した。おれの自室の片隅にて、へばりつくでも抱きつくでも背中合わせでもなく、恐らく横向きに寄り添わんとして張りついていることが伝わる声からなんとなくわかる。急にどうした、跳…

かさなるエレジー(カキ)

※死ネタ注意 --- 「おっ! ちゃん、明日うちで歌ってくれない? お客さんがいっぱい入っててね、君の歌をご所望なんだ」「ヒッ――あ、は、はいっ……」「……どうしたの? 緊張してる?」「あ、いえ、っと、大丈夫です! えっと、また夕方。お話聞…

よるのアマレッツァ(カキ)

※ちょっと不健全 ---  ――ひたり、ひたり。 暗がりのなか、ずっと背後につきまとうそれにぞくりと背筋が粟立った。忍ぶような気配は決して優しいものじゃない。明るく友好的なものでもない。じっくり、じんわり、のことをつけまわす、悪意や欲望に満…

しのびよるノクターン(カキ)

「――いっけぇ、オシャマリ! “アクアジェット”!」「かわせ――ッいや、“ホネブーメラン”で軌道を逸らすんだ!」 大きく飛び跳ねたオシャマリが、全身に水の鎧をまとってカラカラへと突撃する。夕日のオレンジを身にまとい空高く飛び上がるオシャマリ…

たぐるラプソディ(カキ)

 どれほど歌い続けたのだろう。体はどんどんと火照り、気分が高揚していくのがわかる。もっと、ずっと、何度でも歌える、そんな錯覚を抱くほどにあたしの心身は高ぶっていた。 目の前にいるのは先ほどのケンタロスとミルタンクの夫婦だけではなく、あたしの…

ひびけエスプレッシヴォ(カキ)

 あたしのお母さんは海の上で生まれた。 そのことに何か不満を抱いていた様子はなく、むしろこの海の雄大さを知らないなんて、と陸の人を下に見ていた節もあったらしい。海に生まれ、海と生きる、海と添い遂げ海に還る、そんな一生を歩むのだと漠然と思って…