――そういえば最近、ハーネイアたちの顔を見てない気がするぞ。あいつ、なんとなくふわふわ〜ってしてるし、ディルックの旦那にいじめられてないといいけど……
それは、旧友の足跡をたどる旅路の只中のことだった。パイモンの提案によってモンド城を訪れた旅人は、敷地内に足を踏み入れたその瞬間に、風神の祝福を感じ取る。理由としては簡単で、少し視線を動かしただけのその先に、ハーネイアのすがたを捉えることができたからだ。
花言葉の店先に立つ彼女は、今日も変わらず花々に囲まれている。そして、旅人のすがたを目に入れた途端、ちっとも色褪せない笑顔を咲かせてくれた。
「旅人さんにパイモンちゃん! 久しぶりだね、元気にしてた?」
「おう! オイラたちは相変わらず元気モリモリだぞ。ハーネイアはどうだ?」
「わたしもすっごく元気だよ。もちろん、ここのお花たちだっておんなじ」
店先の花壇を見やる彼女の脇には、モンドではなかなかお目にかかれないであろう花が咲いている。水元素力で形作られたような青と、リラックスできる爽やかな香り。間違いなく、フォンテーヌでのみ自生する湖光の鈴蘭だろう。
「ずいぶん珍しい花が置いてあるね」
「そうなの! 少し前に、バブルオレンジとかマルコット草とか、フォンテーヌからの輸入品がたくさん届いたんだ。これはそのひとつだよ。モンドで育てるのはちょっと難しいけど、土質や湿度さえ調整してあげれば、全然無理なことじゃないんだ」
丁寧に整えられた鉢植えを持ち上げて、ハーネイアは湖光の鈴蘭を差し出してくる。以前フォンテーヌで見かけたものと相違ない花弁を見れば、花言葉の面々が細心の注意を払って管理していることがたやすく見て取れた。
変わらず健やかに過ごしている旧友のすがたは、旅人の心中を少なからず穏やかにしてくれる。ハーネイアの笑顔にはそういった、言語化のできない力があった。
「旅人さん、今回はゆっくりできるの?」
「うーん……そうだね。とんぼ返りするのも嫌だし、少しのんびりしていこうかなって思ってるよ。他に会いたい人もいるしね」
「そうなんだ! じゃあ、もし予定があいてたら、またあとでお話しない? もう少しでバイトも終わるし、夜にはエンジェルズシェアにいると思うから。もちろん、鹿狩りのごはんもごちそうするよ」
「ご馳走!?」
ハーネイアの提案に食いついたのはパイモンだった。よだれを垂らしながら前のめりになる彼女にハーネイアと同時に吹き出して、ひとしきり笑ってから、これからの約束を取りつける。エンジェルズシェアに行けば他にも知った顔に会えるだろうし、今回の旅の目的を思えば一石二鳥だ。
「旅人さんにパイモンちゃん! またあとでねー!」
大きく手を振るハーネイアと別れて、旅人は再び歩き出す。次の目的地は――
2025/02/18
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