つながりを鎧う

「えっ……マサル、ヨロイじまに行くの?」

 シュートシティでの一件から、わたしたちの仲はぐっと親密なものとなった。
 世間的に見れば、いわゆる「恋人同士」といって相違ないものと言えるだろう。もちろんマリィにはすでに報告済なのだけれど、知らぬ間にマサルのママさんにまで関係がバレていたらしく――もしかしたらマサル本人が伝えただけかもしれないけど――もしかするとハロンタウンでは周知の事実なのかもしれない。このあいだなんか、突然やってきたホップにまで、ニヤケ面で茶々を入れられたし……
 人の口に戸は建てられぬというけれど、このままでは変にスキャンダル化してしまうかもしれない。いや、むしろ若いうちに関係を周知しておいたほうが燃えずに済むんだろうか? そんないらぬ心配ばかりしながら、わたしは今日もハロンタウンへと足を運んでいる。たくさんのウールーや、辺りを優雅に飛びまわるバタフリーの群れを通り越し、マサルの家へと向かうためだ。
 マサルからひどく唐突な話を持ちかけられたのは、彼の家でママさんお手製のエネココアを片手にまったりと休んでいたときのこと。ママさんいわく、たまの休みをこうして家で過ごすようになったのはつい最近のことらしい。

「そう。次のジムチャレンジまでまだ時間があるからさ。最近忙しかったのもあるし、ちょっとした気分転換でもしようと思ってね」

 朝刊にゆっくりと目を通しながら、マサルは事もなげにそう告げた。手元にあるカップには同じくママさんお手製のロズレイティーが並々と注がれていて、エネココアにも負けないくらいのいい香りを放っている。今度はわたしもこっちをいただいてみようかな。

「ヨロイじまって……あのヨロイじまだよね?」
「そうだよ。ガラルの東にある、あの島。リナリアは行ったことある?」

 わたしが首を横に振ると、マサルは「ちょうどよかった」とでも言いたげににやりとした。視線は手元の朝刊からわたしのほうへと移動して、同じように彼の手も、マグの持ち手を握っているわたしの手に添えられた。
 驚いたわたしが手を引こうとするのを、マサルは決して許してくれない。むしろひどく嬉しそうに、にんまりと目を細めながらわたしのことを見てくるのだ。
 最近、マサルはこんなふうにイタズラしてくることが増えた。普段より少し子供っぽく見える振る舞いは、彼がわたしにたいして心を許してくれている証なのだろうけれど……正直なところ、唐突なスキンシップには未だに慣れる気がしない。
 けれど、わたしから何かを言うことは控えている。だってきっと、「リナリアだって好きに触ってくるくせに」なんて、意地悪に返してくるだろうから。

「ぼくの言おうとしてること、わかる?」
「『リナリアも一緒に来てくれるよね』……でしょ?」
「正解!」

 わたしの答えに満足したらしいマサルは、くすくすと楽しそうに笑う。その振る舞いは大人びているくせにどこか年相応にも見えて、わたしは口をとがらせながらも顔がにやけるのを抑えられなかった。
 ……嬉しいんだ、わたし。わたしでも誰かのためになれること。マサルがわたしを求めてくれること。わたしに、「意味」があることが。
 わたしは――わたしたちはもう、一人で路地裏に行く必要もない。誰かからにげるように身を丸めて、一人で暗い夜を明かす必要はないんだ。これからはきっと、かけがえのないお互いの手を取って、喜びも悲しみも分かち合うことができる。それが、ひどく幸せなのだ。

「それじゃあ、早速準備しよっか。出発は一週間後ね。リナリアのぶんのヨロイパスは用意してあるから安心して」
「いくら何でも早すぎるよ……!」

 
これにて完結です。おつきあいくださってありがとうございました!
2025/02/11

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