あとがき

ちょっと補足が必要な感じの終わりになったので、たまにあるあとがきのターンです。今回も以前書いた短編からお話を膨らませていく感じでしたが、正直なところ短編の時点で夢主が死ぬことは決まっていました。そのうえで「どうせ死ぬんだからめちゃめちゃ人騒…

おわりの詩

 ――もしもわたしが、いなくなったとして……重雲は、わたしのことを忘れないでくれる?―― 今際のわたしが発した言葉は、ともすると重雲にとって、ある種の呪いとなってしまったかもしれない。なぜならば、倒れ伏す直前に見た重雲がわたしのことを想い、…

さいごの鎹

 冷たい風が吹きすさぶなか、ぼんやりと一人佇んでいる。ぼくの目の前にあるのは、誰の仲間にも入れてもらえなかった人間が丁重に眠る、ひどく小さくて粗末な山だ。 この山の下には、ぼくが恋い慕ってやまなかった存在が眠っているが――しかし、これを暴く…

むすびの思い出

「重雲、純陽の体について考え方が変わったってほんと?」 がそう問いかけてきたのは、両国――否、三国詩歌握手歓談会が終わってから、三日ほど経った頃のことだった。 件の大会にはも共に参加していたのだが、よりによって最終日に体調を崩してしまったの…

さいごの機会

 あれから、はまるで見違えるように元気になったと思う。 その活力の理由が無理な妖魔退治をしなくなったからか、それともストレス源が減ったからなのかはわからないが、とにかく以前よりも生き生きし始めた彼女のすがたを見るのは、ぼくとしてもとても喜ば…

ふりだしの抱擁

 ――誰かの呼ぶ声がする。聞き馴染みのある声にそっと目を開けると、そこにはひどく気遣わしげにこちらを覗き込むが現れた。 突然のことに何も咀嚼できぬまま瞬きを繰り返し、少しけだるい体を起こす。ぼくが気づいたことに安心したのかはわっと声をあげな…

はじめての怒り

 少年方士の朝は早い――かつて行秋が、茶化したように言いながらぼくの鍛錬を眺めていたことがあった。あれは一体いつのことだっただろうか、もう何年も前のことのような気もするが……しかし、たとえ何年何ヶ月が経ったとて、ぼくが鍛錬の手を緩める日など…

はじまりの楔

 幼い頃に交わした、宝物のような「契約」があった―― その人は、いつもどこか淋しそうに笑っていた。他人が寄りつかないような奥まった場所に暮らし、時おり顔をあわせては、ぼくに向かって笑ってくれる。ぼくはその笑顔を見るたび少しだけ胸が熱くなって…

さいしょの記憶

 正直なところ、わたしは「家族」や「親」というものがよくわからない。自分が他人の腹から産まれた実感が希薄なのだと思う。 それがなぜなのかと言われたら、わたしは物心つく頃には既に一人で、気がついたときにはもう、そばには誰もいなかったからだ。嫌…