降る、降る、なにが?

はじめて触れたもの

 セキに手を引かれながら帰路につき、とりわけ軽い足取りで集落へと帰ってきた。 こんなにもおだやかな気持ちで帰ってこれる日なんてなかなかない――そんなことを考えながら、隣を歩くセキの横顔を何度も見上げた。いつもどおり自信に満ち溢れた彼の表情だ…

一日千秋の迷い

 に縁談の話がもちかけられて、もうどれだけの月日が経つだろうか。 まるで昨日のことのようでも、はたまた数ヶ月も前のようでもある。時を司るシンオウさま――もとい、ディアルガさまを信仰するコンゴウ団らしからぬ時間感覚の混濁に、セキは苦い気持ちで…

太陽のようなあなた

 オオツは、ひどくおだやかな様子のまま言葉を続ける。そのさまは静かなさざなみのようでも、頬を抜ける海風のようでもあった。「……すなおな気持ちを伝えるとね。俺は、ちゃんとの縁談も悪くないな、と思ってる」 そして、そのいやに落ち着き払った彼が口…

白波のひと筆

 じっとしているのが怖かった。何もしないで、ぼんやりとあの集落に留まっているのが、なぜだかひどく愚かなことのように思えてならなかったのだ。 みんなの視線が突き刺さる。今となってはそれが敵意から来るものでないとわかっているはずなのに、それでも…

沼に喰われる

 ――に縁談? その言葉を聞いた途端、セキの体を稲妻が撃つ。 かみなりのような衝撃を与え、だくりゅうのように心をずんとかき乱していくヨネの言葉。あまりにも突拍子がなさすぎて、ただの冗談、もしくは白昼夢のたぐいなのではないかと疑りたい気持ちに…

零雨

 どうして、あの子ばかりがこんな扱いを受けなければいけないんだ。夕食の準備を進める傍ら、ヨネは眉間に深いシワを寄せて老輩たちへの呪詛を吐いていた。 吐く、と言っても口に出すわけではなく、仮に声に出ていたとしても問題ない範囲の言葉に収まるよう…

晴天に恋う

 とニンフィアが「お友だち」になってから、早三ヶ月が経とうとしていた。 あれ以来、彼女たちは見違えるほどに仲睦まじくなっている。暴れん坊のイーブイに手を焼いていたのすがたを思えば、その変化はひときわなものであると言えるだろう。 もちろん、仲…

つぶらなひとみ

「――よし、っと。ひとまずはこれで大丈夫かな。おとなしくしてれば治るだろうけど、もしも悪くなるようだったらギンガ団の医者に診てもらおうね」「はあい……」 帰宅後、ヨネは慣れた手つきでテキパキと、の足に適切な処置を施してくれた。おかげで先立っ…