Adore

辟斐?繧医≧縺ェ蛹也黄

 夢中になって駆けている最中、とうとうわたしの両足はもつれ、その場に倒れ込んでしまった。璃月港を飛び出してから気づけば人気のない郊外まで出てきてしまっていたらしく、転んだわたしを助けてくれる人なんて、当たり前だがどこにもいない。 痛む膝を押…

誰よりも殺したい影

「こんにちは、お嬢ちゃん。また会ったね」 その人は、今日も今日とて飽きることなくわたしに話しかけてきた。 先日知り合ったばかりの「公子」タルタリヤは――タルタリヤさんは、何かにつけてわたしに関わってくるようになった。道端ですれ違ったときはも…

釣り糸の向こう側に

 ぽちゃん。あからさまな音を立てて落ちくれた釣り針に、背後に控えていたタルタリヤが肩をすくめたのがわかった。集まっていた魚たちは突然の無法者によってさっと四散し、目の前にはただひたすらの静寂が残るのみである。 ――失敗だ。この結果が良くない…

ショッピングでも行かないか?

「連続少女失踪事件ねえ……」 スチームバード新聞の一面を陣取るその名称に、思わず眉をひそめてしまった。このフォンテーヌでは何らかの事象によって複数人の少女が行方不明となっており、それらをひとつの事件として関連づけているらしい。「少女」という…

冬国の香り

 わたしが璃月へやってきたのはいわゆるただの気まぐれで、それほど大した理由じゃない。 まず、わたしはあの町から――甘くて優しい夢を見せてはそれらをすべて焼き尽くした、あの牢獄から抜け出したかっただけ。しあわせな思い出のいっさいは暴風によって…

あなたに許された世界

 手のひらのうえで揺れる銀色は静かに陽光を反射していて、その鋭い光が暗がりに慣れた目に刺さる。突然視界を覆ったそれに思わず顔をしかめながら、それでもは手をとめることなく、その物体をころころと遊ばせていた。 それは何度か転がしているうちにぽん…

相互

 ――タルタリヤが失踪した。その知らせをわたしにもたらしたのはあの女だった。 わたしに許されなかったメロピデ要塞への潜入任務も、請け負ったのはやはりというべきか、皆に信頼されているあの女だった。 そもそもとして、このフォンテーヌに来て不調を…

今度はすっかり知らん顔

「……何が、ほしいの」 この身を抱え込む両腕へ、ひどく唐突な問いかけをした。  ……あれから。スネージナヤより送られてきた宝の山を二人で仕分けしたあと、幼気な弟妹、気遣わしげな兄姉、優しそうな両親による手紙を確認して――さすがのタルタリヤも…

子供のような横顔で

 たくさんの荷物が届いている。フロントから運ばれたそれらは入り口の扉前をこんもりと占拠していて、少々身をよじらなければ出入りに支障が出るほどだ。 なぁに、これ。口にしてから呆然とそれらを見る。差出人は重なる荷物のせいでよく見えなかったが、あ…