ポケモン

雨の音色はきみの足音

「なあ、セキ。あんた、あの子がこの集落にやってきた日のこと覚えてるかい?」 それは、時分によるそぞろ雨が、相も変わらずしとしとと降り注いでいた夕暮れのこと。 話しかけてきたのはヨネだった。彼女は相棒のゴンベをわしわしと撫でながら、窓の外にあ…

抱かないで、どうか

 あたしとセキさんのあいだには、頭ひとつじゃ足りないくらいの見事な身長差がある。ツバキさんと一緒にいるせいで相対的に小さく見えがちだけれど、セキさんだってとても背が高い。コンゴウ団のみならず、コトブキムラの人と比べても、ひときわ高くてたくま…

ぬくもりと朝

 ぎゅう、と強く抱きしめられて、思わず身じろいでしまった。かろうじて自由な足で布団を軽く蹴ってみるが、しかし、特に何も起こらない。 目の前にあるセキさんの顔はまどろみの最中にいるようで、普段きりりとしている目元も、やけにゆるいふうなまま、静…

そんな目で見ないで

※ヒスイの夜明けネタバレ注意 --- 「おう、! 今からオレと『でえと』とやらに行こうぜ!」 けたたましい音を立てて開いた戸の向こう、それに負けないくらいの声をあげたのはセキだった。彼はやけに張り切った様子でにっかりと笑いながら、を「でえと…

雨とあの子と

※「ヒスイの夜明け」ネタバレ注意---「雨っていうのは、変化の象徴かもしれないよね」 吹きすさぶ雨のなか、鈍色の空を見上げながらヨネが言う。 何かを思い出しているのだろうか、その瞳はうねるような雲ではなく、まるでここではない何処かを見つめて…

裏切りの味は舌にひりつく

※あんまり明るくない話です ---  ペパーという青年に、友だちはあまり多くなかった。 なぜなら彼はいつだって、「あのフトゥー博士の息子」というレッテルを背負わされているからだ。背中に貼りつけられたそれはいつも彼を孤立させ、彼に向けて後ろ指…

縦と横とがまじわる先で(ビオラ)

「いらっしゃい、ビオラちゃん。そろそろ家までの道で迷うことはなくなったかな?」 小気味よく鳴るチャイムの音で胸が躍るようになったのは、一体いつからだったろう。 俺がちょっとした軽口を叩けば、目線より少し下にある顔はすぐにふくれっ面になって、…

おはよっ!(ビオラ)

 ……ずしり。 体にかかる不自然な重みに、あたしは少しの窮屈さと安心感を覚えて目を覚ます。彼が――さんが泊まりに来たときはいつもこう。時には背中から、またある時には正面から、あたしは毎度毎度抱き枕にされている。 ま……まぁ、いわゆるそういう…

2年の月日を飛び越えて(ヒビキ)

 ――あともう少しだ。先をゆく背中を見つめながら、ヒビキは深くうなずいた。 想いを寄せる彼女は自分より10cmほど背が高くて、2つの年の差があるとはいえど見上げ見下げられの関係というのは男としてひどく情けないものである。彼女に言えばきっと「…

絆をむすんだ

 結局、昨夜はうまく寝つけなかった。柔らかなベッドのうえで何度も寝返りを打って、目を閉じた先にある、混沌とした世界に身を委ねたりもしたけれど、当然その混沌があたしを助けてくれることはない。むしろあたしの意識をどんどん黒く渦巻かせて、目の下に…