ぬくもりと朝

 ぎゅう、と強く抱きしめられて、思わず身じろいでしまった。かろうじて自由な足で布団を軽く蹴ってみるが、しかし、特に何も起こらない。
 目の前にあるセキさんの顔はまどろみの最中にいるようで、普段きりりとしている目元も、やけにゆるいふうなまま、静かに伏せられている。
 ……好きだな、と思う。同衾した明くる日の朝に見るこの顔が、狂おしいほど、いとおしかった。
 昨夜、あたしたちは急遽コトブキムラに泊まることとなった。昨日も昨日でセキさんのご用事についてここまでやってきたのだけれど、デンボクさんとの話し合いが思ったより白熱してしまったようで、帰る頃にはもうすっかり遅くなってしまっていたのだ。
 さすがにこんな真っ暗ななかを帰るわけにもいかないので、空いている長屋の一室を借りて、あたしたちは夜を明かした。一組のお布団のなか、ぎゅうぎゅうとくっついて、ひと晩。ゼロ距離にあるセキさんの体はあったかくてたくましくて、バカみたいに心臓が跳ねる。
 とはいえ、彼の腕のなかはこのヒスイ地方で一番心が安らぐ、あたしにとって随一の安息の地だ。
 叶うならもうずっとここにいたいと思うけれど、もう日が明るくなって久しい……というか、おなかがすいてきてたまらないくらいの刻限だ。さっきもそろそろ身支度を整えて帰らなければいけないのではないかと問うてみたけれど、セキさんはううん、と小さく唸るばかりで何もしない。コンゴウ団のリーダーともあろう人がそんなことで大丈夫なのか、そうも言ってみたけれど、せっかちらしいこの人は、やはり動く気配もない。
 このままでは、さすがにコトブキムラの人にも迷惑がかかるのではないか――そう思って、少し強めにセキさんの背中を叩く。ねえ! と大きく声を上げると、不機嫌そうにぶすくれた彼の瞳に射抜かれた。う、とたじろいでしまいそうになるが、ここは、ちゃんと言わなければ。
「さ、さすがにそろそろ起きないと……ヨネさんだって心配してるよ」
「おう……」
「こんなふうにぐずぐずしてたら、それこそ時間の無駄ってやつじゃあ――」
 あたしがそう言うと、セキさんはひときわ強くあたしの体を抱き寄せて、足まで絡めて、全身くまなく包み込んできた。
 突然のことにあたしはたいそう驚いて、や、とうわずった声をあげてしまう。……刹那、全身が熱くなった。恥ずかしくてどうしようもなかったせいだ。
「つってもよ、今はお前と二人っきりで過ごす時間だぜ? こうして全身で感じられる機会なんてそうそうねえんだ、無駄なことがあるもんかよ」
 寝起き特有のかすれた声に、あたしはとうとう言葉を失ってしまって。うろうろと彷徨う視界に映ったのは、畳まれたままになっている布団が最後だった。

 
ヨネさんはだいたい察してます、多分
2022/03/05