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緊急事態、ですわ!(フレン)GL

 ああ、ああ! どうしましょう、わたくし、胸が苦しくて眩暈がしますわ―― セテスがすっ飛んできそうな文句を口にして、フレンは桃色に染まった頬を押さえながら、その場に座り込んでいる。彼女が何を考えているのかウィノナにはうまく読み取れなかったが…

正反対の好き嫌い(クロード)

「……あなた、本当に乾酪が好きね」 満面の笑みで昼食を頬張るクロードを横目に、ウィノナは目の前に立ちふさがるそれを睨めつけている。じわじわと背中に汗がつたうのを感じているが、しかし、食物を無駄にしてはならないと意を決して口に含んだ。途端に広…

あなたと共にある証(ユウキ)近親愛

あたしの部屋は、少し前からとびきりに物が増えた。自分では絶対着ないような服、縁のないシェーバー、余分なお箸、使い慣れない歯ブラシ。一気に狭くなった我が家を見ながら、しかし、あたしの心は充足感でいっぱいだ。なぜならこれらは、ユウキがそばにいて…

三日月と荒野の夜(クロード)

風の声すら消え去った真夜中に、涙の落ちる音がする。クロードはずっと知っていた。悪夢にうなされたウィノナが、時おり一人で泣いていること。声を押し殺して、月にもバレないよう努めながら、背中を丸めて喘いでいること。もう二度と一人で泣かさないと決め…

わかるか? 世界。(ディミトリ)近親愛

市場で見つけたとある本。生き別れの姉弟が紆余曲折を経て愛しあい、血縁という壁すらも乗り越えて幸せを掴む“おとぎ話”。私には理解ができなかった。こんな夢が現実になるわけはなく、そう、私の未来は頭上に広がる曇天のように暗んでいる。こんな結末あり…

深夜二時(ユウキ)近親愛

 ――ばかばかばかっ、ユウキのばか! もうしらない、だいっきらい―― 泣いて怒る自分の声に、思い切り叩き起こされた。おそらくもう十年ほど前の、ユウキと大喧嘩してしばらく口を利かなかったときの記憶だ。 まさか、今になってこんな夢を見ることにな…

水面の君(司)

別に、何とも思ってないけど――うつむいて言う輝夜のそれが、ただの強がりであることを知っている。両手で握り込んだグラスに、赤くなった頬が映っていることも。水面でゆらゆらと揺れる表情が、やけに愛らしい色をしていることも。正面に座り、ぬるくなり始…

春がくる(アッシュ)

 氷のように笑う人だと思っていた。まるで鋭利な刃物のような、気安く触れたら指先を傷つけてしまいかねない、そんな女性だと。 周りとは一線を画す空気感。張りつめた何かを持っている彼女は、少しだけ離れたところで陽だまりを見つめているような、そんな…

まっすぐの、目(リンハルト/ディミトリ前提)近親愛

「紋章持ちの近親者が、子を成した場合の紋章の有無……とても興味深いね。まさかこの目で観測できる日が来るなんて」 いつも眠たげにしている瞳をいやに爛々と煌めかせ、リンハルトは婚儀を済ませたばかりのディミトリとウィノナに目を向けた。 かつて黒鷲…

恵まぬ血の雨(クロード)

恥を忍んで訊いて正解だと思ったのは、痛みに喘ぐウィノナが少しばかり安らいだような顔を見せたときだった。なあ、ナデル……その、月のものに苦しんでる女はどうしてやったら喜ぶんだ――目をあわせられないままそう訊ね、山の向こうまで響かんばかりの声を…

いい風呂の日(マリィ)

「ラベンダーさん、今日はいい風呂の日だって」「え? ……ああ、本当だね」「あの……」「一緒に入りたいの?」「うん……その、せっかくだし、少しだけでも」「うーん……」「別に嫌ならいいんだけど――」「ただのお風呂じゃすまなくてもいいならいいよ」…

凛としたその背中を思い(クロード)

何かに怯えていないだろうか。誰かに傷つけられてはいないか。どこかで、こっそり泣いていないか。余計な気を揉んでは彼女の背中を目で追ってしまう、そんな自分に自嘲をしつつ、それでもクロードはこの毎日をひどく愛おしく思っていた。たとえ徒労や杞憂であ…