胸中に咲く花の名は

催花雨

「じゃじゃーん! たくさんご迷惑をおかけしましたが、この、今日から完全復活です!」 それは、まるで演説のような口振りである。は両手をおおきく振りながら、晴れやかにそう言ってみせた。 かつては全身をくるんでいた包帯もいっさいなくなり、健康的な…

雨垂れが穿つ

 あれから半月ほどが経って、はやっと一人で歩ける程度にまで回復した。 まだそこいらを走りまわることこそ叶わないが、それでもヨネに連れられて辺りを散歩する様子がたびたび見られる。今ではすっかりゴンベとも打ち解けたようで、この間は二人で昼寝をし…

櫛風沐雨

「――キ、セキッ! こらっ、起きろ!」 けたたましい騒音と呼び声に目を開けると、そこにあったのはひどくのうてんきなゴンベの顔だった。 見慣れた家族の顔はセキに強い安心感を与え、先立っての怒声のことも忘れてこのままもうひと眠りしてやるかという…

空が、見えない

 がコンゴウの集落にやってきてから、もうどれだけの日が過ぎたか。数えるのも億劫なくらい、時の流れはあっという間だ。 彼女は、今日も元気に笑っている。誰にどんな仕打ちを受けても、どんな雑言を投げつけられようとも、ずっと笑顔を崩さない。 日を追…

天泣

『とりあえず、この子はあたしが面倒見とくよ。リーダーとはいえあんたは男だし、女のあたしといたほうが何かと都合がいいだろうからね』 ヨネに手を引かれるは、どこか物珍しそうに集落をきょろきょろと見まわしつつ、やがて見えなくなっていった。突然の出…

夕立ちの向こうに

 ――山が泣いている。そんなことを言い出したのは、曇天に目を向けて険しい顔をするヨネだった。 彼女の勘は当たるのだ。たとえば彼女が「胸騒ぎがする」と言えばつまみ食いがバレたし、「風邪引くよ」と言われた次の日はだいたい寝込む羽目になった。それ…