催花雨
「じゃじゃーん! たくさんご迷惑をおかけしましたが、この、今日から完全復活です!」 それは、まるで演説のような口振りである。は両手をおおきく振りながら、晴れやかにそう言ってみせた。 かつては全身をくるんでいた包帯もいっさいなくなり、健康的な…
ポケモン 胸中に咲く花の名は 降る、降る、なにが?
雨垂れが穿つ
あれから半月ほどが経って、はやっと一人で歩ける程度にまで回復した。 まだそこいらを走りまわることこそ叶わないが、それでもヨネに連れられて辺りを散歩する様子がたびたび見られる。今ではすっかりゴンベとも打ち解けたようで、この間は二人で昼寝をし…
ポケモン 胸中に咲く花の名は 降る、降る、なにが?
春霖の頃に笑ってみせて
※軽度の流血表現有 --- きっと、命が散る音というのはああいうのを言うのだろう。めちゃくちゃになったの体はすぐに血まみれになって、土砂降りの雨に流される真紅はおぞましいまでの量であった。 機転をきかせたヨネが後方からどろだんごを投げてく…
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櫛風沐雨
「――キ、セキッ! こらっ、起きろ!」 けたたましい騒音と呼び声に目を開けると、そこにあったのはひどくのうてんきなゴンベの顔だった。 見慣れた家族の顔はセキに強い安心感を与え、先立っての怒声のことも忘れてこのままもうひと眠りしてやるかという…
ポケモン 胸中に咲く花の名は 降る、降る、なにが?
漫ろ雨ほど鈍く刺さって
※軽度の嘔吐描写あり --- 「う、ぇ……ッ」 汚濁音とともに撒き散らされたそれには、いつまで経っても慣れやしない。気持ち悪くて吐き出すのに、吐き出したそれを見てまた気分が悪くなる。吐けば吐くほど心も体も弱っていって、ゆっくりと侵食されるよ…
ポケモン 胸中に咲く花の名は 降る、降る、なにが?
雪解雨にはなりうるか
――本当に、よくわからない娘だな。 気分転換に集落をぶらついていたおり、とある団員の独り言を聞いた。 その口振りは誰をさしているのか明白なものだが、戸惑うような物言いと表情は、よくよく聞けば敵意を感じるほどのものではない。「笑っている」と…
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空が、見えない
がコンゴウの集落にやってきてから、もうどれだけの日が過ぎたか。数えるのも億劫なくらい、時の流れはあっという間だ。 彼女は、今日も元気に笑っている。誰にどんな仕打ちを受けても、どんな雑言を投げつけられようとも、ずっと笑顔を崩さない。 日を追…
ポケモン 胸中に咲く花の名は 降る、降る、なにが?
曇り空、晴れぬゆえ
についての無用な憶測と噂が這いまわるのに、そう時間はかからなかった。 雑音交じりの言葉はいやに陰湿でねちっこくて、直接彼女の耳に入ればどんな傷を負うかわからない。できることならそれらすべてを大人しくさせたいが、人の口に戸は立てられぬという…
ポケモン 胸中に咲く花の名は 降る、降る、なにが?
天泣
『とりあえず、この子はあたしが面倒見とくよ。リーダーとはいえあんたは男だし、女のあたしといたほうが何かと都合がいいだろうからね』 ヨネに手を引かれるは、どこか物珍しそうに集落をきょろきょろと見まわしつつ、やがて見えなくなっていった。突然の出…
ポケモン 胸中に咲く花の名は 降る、降る、なにが?
夜露とともに綻ぶ花よ
びしょびしょの幼子は依然として不安そうな顔をしていたが、きょろきょろとあたりを見まわしながらも、おとなしくヨネの後ろについてきた。 家のなかに彼女を招き入れ、手近なところにあった手ぬぐいを渡す。日用品の使い方は体が覚えているようで、びしょ…
ポケモン 胸中に咲く花の名は 降る、降る、なにが?
夕立ちの向こうに
――山が泣いている。そんなことを言い出したのは、曇天に目を向けて険しい顔をするヨネだった。 彼女の勘は当たるのだ。たとえば彼女が「胸騒ぎがする」と言えばつまみ食いがバレたし、「風邪引くよ」と言われた次の日はだいたい寝込む羽目になった。それ…
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