ワンダーワールド
「フェニックスワンダーランド」という名前には聞き覚えがある……というか、実は、幼い頃に一度だけ遊びに行ったことがある。あれは確か私が小学校に上がるか否かの、まだ母と兄が一緒に住んでいた頃だ。 シブヤで評判のアミューズメントパーク。周りはみん…
プロセカ またスタ第一章
袖振り合う廊下
すらりとした長身に紫色の髪、水色のメッシュとピアス。やけに整った顔立ちも相まって、彼は印象に残らないほうが難しいくらいの人間だった。 やたら真剣に工具やパーツの部類を物色していることだけ気になったが、接客しているときは物腰柔らかで話しやす…
プロセカ またスタ第一章
ご機嫌なスター
「そういえば玉村、お前、下の名前は何というんだ?」 それはひどく突然で、しかし、ごもっともな問いかけだった。 彼とともに学級委員の仕事をこなすようになって、二週間目の放課後のことである。私たちは先生に言われ、とある資料を教室から職員室まで運…
プロセカ またスタ第一章
陰と陽
私の父は、小さなホームセンターを経営している。 店自体はそれほど大きくないものの、父の愛想の甲斐あってか意外と常連客は多く、近所のおじさんやおばさんたちには重宝してもらっているほうだ。 私も幼い頃から店内に入り浸り、従業員やお客さんにたく…
プロセカ またスタ第一章
狂おしくて、どうしても、私は
私の欲しいものを持っている、あの子のことが苦手だった。 あの子は、私が地べたを這いずっても決して手に入れられないような、至宝のそれを持っている。その現実が頭の奥をつつくたび、私は足元が音を立てて崩れるような恐怖に苛まれ、すぐに視界がどす黒…
プロセカ 短編(絵名)
君のみぞ知る
時計の針は、そろそろ夜の七時を指し示そうとしている。カチ、カチ、規則的なそれに耳を傾けながらカーテンの隙間に目を向けると、あたりの景色がもうすぐに真っ暗になりそうな、ひどく複雑な色合いをしているのが見えた。 ――これ、次の絵に使おうかな。…
プロセカ 短編(絵名)
永遠にあなたのもの
その花は、奇しくも彼女の性質に――ひいては彼女を見つけたあの日の情景に、よく似ていると思ったのだ。 決して派手な様相ではない。いっとう目立つような雰囲気ではなく、いうなれば日常に溶け込むような、身近で、自然な存在だった。ふと街路や花壇に目…
プロセカ 短編(司)
いつもそうだ!
巷では六月の第一日曜日を「プロポーズの日」と呼び、あちらこちらで様々なイベントを開催している。 ただ、プロポーズの日なんてたいそうな名前を冠してはいれど、別にプロポーズを推奨するような日でもないらしい。どちらかというともっと静的で、一歩を…
プロセカ 短編(司)
正直/名声/×××
五月十七日の誕生花にはいくつかあるが、なかでものお気に入りは黄色のチューリップだった。 チューリップという花自体この国では馴染みのあるものであるし、つるりとしたフォルムや鮮やかな色彩、種類によって様々な形をする花弁は見る人を決して飽きさせ…
プロセカ 短編(司)
精神の美
「咲希、お誕生日おめでとう。これ、私からのプレゼントなんだけど……受け取ってもらえると嬉しいな」 本日五月九日が咲希の誕生日であることは、他でもない司から耳にタコができるほど聞いた。学校でも、放課後でも、何ならフェニックスワンダーランドにい…
プロセカ 短編(司)
ほんとうのぼくたちは、
――あ。あの人たち、またやってる。 教室の窓から見える景色の真ん中に、やけに目立つ四人組のすがたがある。校庭の隅にいるはずなのになぜだか目を引くその集団は、つい先日結成したらしい四人組のユニットで……名前は確か、「Fantasista S…
プロセカ 短編(司)
夜空が透ける
――まるで、夜空みたいな色だ。真っ暗闇に沈むの髪を見ると、どうにもそう思ってしまう。 少しだけ癖のある髪を「咲希のものによく似ている」と思っていたのはもうずいぶん前のことで、今となっては唯一無二の、司にとって大切な宝物のひとつとなっていた…
プロセカ 短編(司)