さいごの機会
あれから、はまるで見違えるように元気になったと思う。 その活力の理由が無理な妖魔退治をしなくなったからか、それともストレス源が減ったからなのかはわからないが、とにかく以前よりも生き生きし始めた彼女のすがたを見るのは、ぼくとしてもとても喜ば…
一片冰心 原神 瑕
ふりだしの抱擁
――誰かの呼ぶ声がする。聞き馴染みのある声にそっと目を開けると、そこにはひどく気遣わしげにこちらを覗き込むが現れた。 突然のことに何も咀嚼できぬまま瞬きを繰り返し、少しけだるい体を起こす。ぼくが気づいたことに安心したのかはわっと声をあげな…
一片冰心 原神 文章 瑕
はじめての怒り
少年方士の朝は早い――かつて行秋が、茶化したように言いながらぼくの鍛錬を眺めていたことがあった。あれは一体いつのことだっただろうか、もう何年も前のことのような気もするが……しかし、たとえ何年何ヶ月が経ったとて、ぼくが鍛錬の手を緩める日など…
一片冰心 原神 文章 瑕
はじまりの楔
幼い頃に交わした、宝物のような「契約」があった―― その人は、いつもどこか淋しそうに笑っていた。他人が寄りつかないような奥まった場所に暮らし、時おり顔をあわせては、ぼくに向かって笑ってくれる。ぼくはその笑顔を見るたび少しだけ胸が熱くなって…
原神 文章 瑕
さいしょの記憶
正直なところ、わたしは「家族」や「親」というものがよくわからない。自分が他人の腹から産まれた実感が希薄なのだと思う。 それがなぜなのかと言われたら、わたしは物心つく頃には既に一人で、気がついたときにはもう、そばには誰もいなかったからだ。嫌…
原神 文章 瑕
後悔
わたしの命の期限というのは、どうやら人より短いらしい。 それを知ったのはもう何年も前のことだけれど、常人よりも死が近いことを恐れたことは不思議となかった。もしかすると、わたしは自分の命に関してひどく無頓着で傍観的なのかもしれない。 という…
原神 文章 短編(重雲)
わたしに遺された一年
「重雲っ、お誕生日おめでとう! だーいすき!」 ばむ、と正面から抱きつくと、重雲はいつも涼やかにしている瞳の凛々しさをまんまるに溶かす。無防備かつ素直なその表情が、わたしはひどく好きだった。「おい、! いきなり抱きつくのはやめろっていつも……
原神 文章 短編(重雲)
ひねくれるよりはずっといい
「たまに思うんだけど……重雲、君は平気なの?」 風の涼やかな昼下がりのこと、口を開いたのは行秋だった。出し抜けなそれは日陰に座り込んで特製のアイスをかじっている重雲へと向けられている。 脈絡もない親友の問いかけに、重雲は凛々しい目元をほんの…
原神 文章 短編(重雲)