ひねくれるよりはずっといい

「たまに思うんだけど……重雲、君は平気なの?」

 風の涼やかな昼下がりのこと、口を開いたのは行秋だった。出し抜けなそれは日陰に座り込んで特製のアイスをかじっている重雲へと向けられている。
 脈絡もない親友の問いかけに、重雲は凛々しい目元をほんの少しだけ緩ませて、ひどくまっすぐに――否、反射のように答える。何のことだ? と。
 確かにいささか唐突が過ぎたか。わからないのも無理はない。行秋は咳払いをひとつして、目下の疑問をあらためて重雲へと投げかける。

「桃琳にあんなにひっつかれて、だよ。彼女、随分距離が近いみたいじゃないか」
「む゛ッ――!」

 行秋の問いかけが変なところに刺さったのか、重雲はアイスを片手に激しく咳き込み、その動揺の程を全身で表している。素直な親友のわかりやすい言動は行秋にとってなかなかに好ましいもので、ややつり上がる口角を手元の本で隠した。今の重雲に行秋の表情を見る余裕などはないだろうが、念には念を入れておくべきだ。

「ここまで取り乱すとは思ってなかったんだけど――」
「お前が変なことを言うからだろ! ……はあ、せっかくのアイスが無駄になってしまったじゃないか」
「ごめんって。弁償はするよ。あとで一緒に万民堂まで行こう」

 埋め合わせには付き合うつもりだ。お代も僕が払うと言えば、重雲は渋々といった様子で、むくれそうな態度をなんとか立て直す。
 ――で、どうなの? 追い打ちのように行秋が訊けば、重雲は眉間にうっすらとシワを寄せて、絞り出すような声を出した。

「行秋……お前、ぼくが本当に大丈夫だと思ってるのか?」
「別に?」

 心からの返答をすると、重雲は大きなため息と共に顔を覆って、うつむいた。
 やはり重雲はとても素直で、ひどくわかりやすい人間である。

 
重雲と×××へのお題は『あーあ、なんて可哀想な君』です。
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2023/07/12