花香る町で

お願いするようだ!

「キミは、なかなか手慣れているようだな」 男湯の掃除から帰ってきた直後にかけられた第一声。目線のだいぶ下から聞こえてきたそれに、俺は軽く首を傾げた。「ちょっと見ただけでわかるもん?」「もちろんだが。ワタシがやるより数倍はやいし、隅から隅まで…

心の奥にひそむ足音

※子供がいる ---  二階にいても聞こえてくる、鉄を打つ小気味の良い音。 目覚ましのごとく鳴り響くそれは幼い子どもたちを夢の世界から連れ戻してくれて、ふあふあとあどけないあくびの二重奏に私は思わず微笑んてしまった。 おはよう、今日も元気だ…

意識、した?

「そういえばガジさん、最近エリザさんを見てもおかしくなりませんね」 おもむろにそう言ったのは親友であるマイスだった。ここはオッドワードの谷。今日は彼に誘われて、ちょっとした散歩に出かけていた。「……そうカ?」「そうですよ! 傍目に見ても心配…

知ってるくせに

「逃げるなヨ」 後ろからまわされた手は思いの外たくましかった。 カルロスさんと比べたら細く見える彼の腕。女で、しかも年下の私のものと比べちゃいけないこともわかってるけれど。 だけどそうでもしていないと、今の私は頭がパンクしてしまいそうなの。…

ないしょだよ

 料理をする人にとって、「おいしい」は魔法の言葉。料理を食べる人にとって、「おいしい」は幸せの味。私はそう信じてる。 私は料理を作るのが好きだし、食べることだって大好き。私のご飯を食べてくれること、それを「おいしい」って言ってくれること、そ…

タマゴヤキマルメターノ

「バドさん、バードーさぁん! 起ーきーて!」 セルフィアにたどり着いて幾日。私の朝は、この大きな店主を引きずり起こすことから始まる。「うぅ~ン……あと10分……」「そこは5分って言うとこじゃないの!? ……もー、起きてよぉ~~~!」 ずりず…

モフモフの夢

「あの二人、本当に仲が良いですね」 じわじわと冬の足音が聞こえ始めた、秋の月24日のこと。 客人であるフレイと談笑に励むかたわら、ふと窓の外に目を向けたフォルテは落とすようにつぶやいた。リラックスティーが並々と注がれているティーカップが、机…

吐露

「交流祭、ねえ……」 風呂を沸かすための薪割りに精を出しながら、は独りごちていた。 近々このシアレンスと有角人の集落とで交流祭を行うらしい。長い間いがみ合っていた人間と有角人が手を取り合うため、ひいてはシアレンスの花を咲かせるためだと、近ご…

呼び声

『     』 誰かに呼ばれている気がしていた。その声は、お母さんが死んでしまってから感じるようになったものだと思う。耳から聞こえる類いのものじゃなくて、もっと内側から、例えるなら頭の中に直接語りかけてくるような。 一歩進めば、その声はひと…