SS(原神2)

糸の先(ディルック)

 幼い頃に読んでもらった娯楽小説で、「運命を手繰る赤い糸」というものが出てきたことがある。小指から伸びる赤い糸は将来的に結ばれる相手と繋がっていて、主人公はその糸に導かれるまま窮地を脱し、愛しい人のもとへと命からがらたどり着いていた。 おじ…

言うこと聞いてよ(タルタリヤ)

 ひとりで寝るのは好きじゃない。だから、タルタリヤが毎晩のようにわたしを抱きしめながら眠ってくれるのが、本当はすごく嬉しくて、安心して、すき。 でも、わたしはタルタリヤに「すき」と伝えるのがひどく怖い。あの日の記憶が脳裏にこびりついているの…

TIE(リネ)

(――あ。このネクタイ、リネくんに似合うな) フォンテーヌの街角を歩いていると、様々なものが目に入る。美味しそうなスイーツ、可愛らしいアクセサリーに、興味深いマシナリー……そのどれもが私の目を引いて、ついつい足を止めてしまう。 そして、きら…

わかってるよ、全部ね(タルタリヤ)

 わたしは、自分のことが好きじゃない。生きているだけで苦しくて痛くて、毎日のように消えてなくなってしまいたいと思っている。 タルタリヤに新しい名前をもらって、新たな自分に生まれ変わった今であっても、その気持ちは未だなくなってくれなくて、わた…

約束なんて意味がない(重雲)

「なあ、。ナタに温泉があるという話は知っているか?」 重雲は、まるで大切にしまっておいた宝箱を開けるように、わたしに話を切り出した。彼の話の種は遠く離れた国、ナタについてのことだった。 重雲は続ける。自分には「純陽の体」があるから、きっと温…

わたしに教えてくれるかな(綺良々)

 天狗様は、わたしが稲妻に帰ってくるたび「おかえり」を言ってくれる。 わたしが「狛荷屋」のお仕事でどんな国に行って、どれだけの距離を走って帰ってきても、必ずわたしのことを迎えて、頑張ったことを褒めてくれる。それが、わたしにとっては不思議だっ…

星のような想いを(ディルック少し背後注意)

 ディルックさんは、わたしにひどいことをしない。 それは日常生活ではもちろん、夜であっても同じことだ。ベッドのうえで触れ合っているときも、あの人がわたしに無理を強いたり、乱暴に体を組み敷いたりするようなことはいっさいない。わたしが言い出しさ…

元素反応:溶解(重雲夢主死ネタ)

 冷たい秋風に吹かれるたび、を抱えて走ったあの日のことを思い出す。 少しずつ冷たくなっていく四肢。まるでただの「物」、もしくは中身のない器のようになっていく体を持ち上げながら、無我夢中で走った夕暮れ――あれはぼくにとって忘れられない記憶のひ…

いなくなった友だち(嘉明)

 翹英荘では、数え切れないほどのフワフワヤギが至るところで飼育されている。フワフワヤギはとても温厚な性格で、下手にちょっかいをかけない限りは人間にも友好的に接してくれるのだ。 もちろん、翹英荘の生まれであるにとっても、彼らはひどく身近な存在…

こんなときに?(タルタリヤ)

「君ってさ、ほんとに可愛い顔してるよね」「はあ? なにそれ、煽り?」「とんでもない。本心さ」「……じゃあ、お世辞?」「本心だって言っただろ。まあ、俺が見てるのは美醜というより表情やリアクションかなって思うけど」「…………」「ああでも、どうか…

君が一番かわいい(ディルック)

 窓際に座り込むは、燦々とした陽光を浴びながら、同じ言葉を何度も繰り返している。 幼子に言葉を教えているかのような、はっきりとした発音のそれ。ゆっくりと紡がれるその文字列はこの場に似つかわしくないような気もするが、ディルックの興味を引くのは…

気が向いたらな(シャルロット)

 ねえ、さんってウィンクできる? 一回でいいから、ちょっと試してみてくれない? ――ただのありふれた思いつきが、今この場に横たわっている妙な沈黙の発端だった。  その無邪気な提案に応えたのが間違いだったのかもしれない。彼女は――シャルロット…