糸の先(ディルック)

 幼い頃に読んでもらった娯楽小説で、「運命を手繰る赤い糸」というものが出てきたことがある。小指から伸びる赤い糸は将来的に結ばれる相手と繋がっていて、主人公はその糸に導かれるまま窮地を脱し、愛しい人のもとへと命からがらたどり着いていた。
 おじいちゃんに読み聞かせしてもらいながら、当時のわたしは自分の小指から伸びる糸の先にディルックさんがいればいいな、と夢を見たものだ。
 みんながいなくなったあと、この話が脳裏をよぎるたびに小指を切り落としたくなった。あの頃のわたしにとって「赤」は恐ろしいものでしかなかったし、どれだけ時間が経ってもこの恐怖心が癒えることはないだろう。
 そして、その考えはワイナリーで過ごす今になっても変わっていない。この指から恐ろしい「赤」が伸びているかと思うと、足がすくむし、思い返すたびに眩暈がする。
 けれど、この「赤」があの人のもとへ導いてくれるなら。ディルックさんという、わたしの生の灯火に繋がっているものであるのなら、その恐怖にも立ち向かえるような気がする――そんなことをぼんやりと考えながら、わたしは件の娯楽小説のタイトルが思い出せなくて、何度も寝返りを繰り返していた。

あなたが×××で書く本日の140字SSのお題は『赤い糸』です

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2024/09/06