崩スタ

1システム時間だって待てない

 戦略投資部の職務が一段落すると、アベンチュリンは決まってとある人間に連絡をとる。メッセージの内容はいつもだいたい同じもので、毎度のように「そろそろ会いに行くよ」という一文が付け加えられていた。 メッセージを送るとき、アベンチュリンのポーカ…

三度目の正直

「犠牲」を視野に入れた頃から、ずっと脳裏に染みついて離れなかったものがある。数多あるそのなかのひとつこそが、他でもないの存在だった。 置いていかれてしまった自分にも、置いていく存在ができてしまった。置いていかれる者の苦しみを、他でもない自分…

今すぐにでもこの首を

 正直なところ、彼女には二度と会いたくないと思っていた。 決して嫌いなわけではない。ただ、彼女の近くにいると様々なものがぐらつく気配がするのだ。無二に等しい同族はアベンチュリンに苦痛ばかりを連れてきて、やがてそれは苛立ち――否、やるせなさと…

今は受け止めるくらいしか

「おかえり」を伝えるや否や抱きついてきた丹恒くんは、それきりずっといっさい動かず、あたしにひっつきっぱなしだった。声をかけても背中を撫でても反応はなく、そのたくましい腕がほんの少し震えていることのみが、ダイレクトに伝わってくる。 いったいど…

僕はそうでもないけどね

 権力者にしてはやけにこじんまりとしたこの屋敷の主は、実際のところ彼――バールではなく、娘のであるらしい。 この家は彼女のために用意した別邸であるのだそう。道理でやけにシンプルな造りをしていたわけだ――そう納得する傍ら、アベンチュリンの瞳に…

バラと蜂蜜

 バラ色の絨毯を踏みしめながら歩く屋敷内は、噂に違わぬ品性を保った造りをしていた。これだけの資産があれば大抵の人間は華美なインテリアをここぞとばかりに飾りつけるものだが、どうやらこの屋敷の主はその法則に当てはまらないらしい―― 彼がスターピ…

そこには波のひとつもなく

 ――夢を見ている。あたしはゆらゆらと揺れる世界でたゆたいながら、ひどく心地よい波に身を任せていた。 それはきっと、いうなれば羊水のように優しく全身を包み込んで、すべての苦しみからこの身を守ってくれているのだろう。 苦しみもなければ喜びもな…

頬に残るはあどけなさ

 見た目よりも柔らかな癖毛を撫でてやると、うっすらと閉じられたまぶたがほんの一瞬だけ震える。 にわかな刺激に小さな身じろぎこそするものの、その眠りが中断されることはなく――丹恒は再び深い眠りに落ちていったようで、やがて穏やかな寝息をたてはじ…

怒らせないほうがいい?

 個性的なメンバーが集う星穹列車には、いくつかの「恒例行事」がある。たとえば、初めての寝坊をもちもちのパムに咎められるだとか、姫子のコーヒーで撃沈するだとか、色々。 そのなかのひとつが「の血抜きに遭遇する」である。星穹列車において雑務や厨房…