Admire

「幼い筆跡の手紙」

「ディルックさん、何を見てるんですか?」  寝室のベッドに腰掛けるディルックが書簡に目を通しはじめたのは、寝る準備を早々に済ませ、心地よいまどろみを待ちわびている頃だった。 疲れが溜まっていることを指摘されたおかげで、今夜ばかりは英雄業もお…

まんまるちゃん

 アカツキワイナリーの北部には、ふくふくの雪ヤマガラがたくさん生息している。住んでいる地域のせいか比較的人懐っこい彼らは、いつしかにとって顔馴染みの友人のような存在となっていた。「こんにちは」と挨拶すれば、元気よくさえずりを返してくれる。そ…

あの日の裏側で

「旅人さんへのプレゼント……ですか?」 神妙な面持ちのディルックを前に姿勢を正したのは、ほんの五分ほど前のことだった。 こんなにも難しい顔をしているなんて、何か深刻な事件が起こってしまったに違いない――そう覚悟を決めて話を聞くと、どうやら先…

大切で特別な一日

 近頃、カレンダーを見ながらため息を吐く回数が増えた。理由はひどく簡単なことで、月末に控えた一大イベントに向けての準備が、何も整っていないからだ。 今月末――来たる4月30日には、他でもないディルックさんの大切なお誕生日がある。わたしにとっ…

二年目のわたしたち

 なんてことない平凡な朝が、至上の幸せであることを知っている。ぱち、ぱち、寝ぼけ眼を瞬きしても消えたりしない愛しい人が、すぐ目の前にいることも。 のみならず、おそらく彼もまだ少し夢うつつの状態なのだろう。普段よりもとろけた赤い瞳が、ことさら…

つかの間のワイナリー

「。これを君に」 隣に腰掛けるディルックが小瓶を差し出してきたのは、錬金ショップから帰ってきて、つかの間の休息時間を共に過ごしていたときだ。 やさしく手のひらに乗せられたそれは、昼間に目にした錬金薬の数々によく似ている。愛らしい猫の形をした…

モンドの風と共に

「えっと……うん、土の状態は問題なし。水はけも良くて、日当たりも良好。それから――」 栽培エリアでチェック作業に励む背中を、調合の合間に覗き見る。ディルックと共にやってきたが、バインダー片手にエリアをくるくると練り歩いているのだ。 今回の研…

「セシリアの花の微笑み」

「旅人。先ほどのものとは別に、もうひとつ頼まれてほしいことがあるんだが」 空の手渡した錬金薬の瓶を揺らしながら、ディルックは優雅にそう言った。 先立ってのやり取りとはまた違った風合いを乗せた彼の物言いに、空はちいさく微笑みながらうなずく。彼…

泣きたいときには好きなだけ

 何か特別な言葉をかわしたわけではないが、先日一夜を共にしてからというもの、ディルックと同衾する機会はぐっと増えた。 もちろん夜毎ふれあうわけではなく、むしろただ寄り添いながら眠るだけの毎日だ。ディルックの匂いが染みついた柔らかなベッドに入…

花びらより落ちる影

※公式キャラの失恋描写があります ---  ――しばらくは色々と忙しくなるだろうし、落ち着くまでの間バイトは休んだほうがいい。花言葉へは執事に使いを頼むとしよう。 ディルックの言葉に甘えた結果与えられた休暇も、昨日で終わりを迎えてしまった。…

あなたをあなたと呼べるまで

 今日のアカツキワイナリーには予想外の来客があった。――否、彼は本来であれば「来客」ではなく、ただ久しぶりに「帰ってきた」だけだ。 モンドではあまり見ない褐色肌と、特徴的な眼帯。どこかエキゾチックな容姿をしたその人は、かつてディルックと共に…