まんまるちゃん

 アカツキワイナリーの北部には、ふくふくの雪ヤマガラがたくさん生息している。住んでいる地域のせいか比較的人懐っこい彼らは、いつしかハーネイアにとって顔馴染みの友人のような存在となっていた。
「こんにちは」と挨拶すれば、元気よくさえずりを返してくれる。その何気ないやり取りが、ハーネイアは好きだった。

「雪ヤマガラを見ていると、君のことを思い出すんだ」

 ぽつりとこぼしたディルックに目を向ける。
 すっかり懐いて手のひらに乗ってくれるようになった雪ヤマガラと、傍らで休憩に勤しんでいたはずのディルックの顔を見比べて……ハーネイアはちいさく首を傾げた。

「わたしのこと……ですか?」
「ああ」
「えっと……わたしとヤマガラさんたちが仲良しだから、でしょうか」
「もちろんそれもあるよ。ただ、主な理由は少し違うかな」

 雪ヤマガラを怯えさせないよう気を遣いながら、ディルックがそっと歩み寄ってくる。分厚い手のひらはまっしろのふくふくを優しく撫でて、満足気に羽を揺らす小鳥を可愛がっていた。
 ……なんとなく、気恥ずかしい気持ちがする。雪ヤマガラを見ていると自分を思い出すと伝えられた直後に、その雪ヤマガラを愛でているところを間近で見せられるのは、さすがのハーネイアでも照れが生じてしまうらしい。
 とうとう見ていられなくなってぎゅっと目をつぶると、ディルックは何かを察したのか、ちいさく笑みをこぼして口を開いた。

「どちらも真っ白だし、ふわふわで柔らかいし……あとは、まんまるでとても可愛らしいからね」
「まっ――」

 まんまるっていうのは、お、お肉がついてるってことですか……!? 飛び出しそうになった言葉はなんとか飲み込めたものの、想像より弾けた声は雪ヤマガラを驚かせてしまったらしく、ちいさなお友だちは逃げるように飛び立っていった。
 当のディルックはハーネイアの困惑の理由に思い当たる節もないようで、揺らめく双眸を訝しげにしばたたかせている。もっとも、慌てふためくハーネイアが空いた両の手を自分のおなかに持っていったことで、なんとなくの合点はいったようにも思えるが――

「僕としては、もう少しまんまるになってもらっても構わないんだけどね」

 すうと目を細めながら、ディルックはハーネイアの手に手を重ねて優しく腹部を探ってくる。これには邪な意図などなく、事故後に無理がたたって体重が落ちすぎたハーネイアを労るための、ある種の健康チェックである。
 おなかを触られることには慣れているが、しかし、「まんまる」という言葉の威力は予想外にも大きかった。普段なら気にならない指の動きも今だけは異様なほど羞恥心を煽り、ハーネイアの頬をりんごよりも真っ赤に染める。
 ハーネイアがすっかり言葉をなくすまで、そう時間はかからなかった。

 
2024/05/26